33 / 56
本編
竜覚醒
しおりを挟む『アンスっ!!!』
いきなり、殿下の俺を呼ぶ声が脳天に響く。直後、
ドゴオオォ───ン!!!!
近くで爆音が響き、続いて地響きが起こる。
揺れる足元に一同が驚く。
「何だ??」
嫌な予感しかしない。
「これは、竜が理性を失っているんだ」
ユグドラシルの言葉で予感は的中だと確信する。
それに、聞こえ始めた殿下の声は、悲痛にみちて脳内に響き渡る。
『アンスアンスアンスアンスアンスアンスアンスアンス!!──……』
俺の名を連呼している。
「俺を探してる?」
もう頭より先に体が反応し、揺れる足場を踏ん張って、殿下を探す為外へ飛び出る。
「アウローレンス殿下!」
目の前に広がる光景に驚きしかない。
城の国王陛下の柩が置かれた大広間付近の城壁が頽れ、大きく口を開いている。揺れる大きな影が砂煙に浮かび上がり、周りの人間が酷く小さく見えた。
砂煙が収まると、そこに現れたのは美しく輝く黄金の鱗を持つ、その巨体に見合う大きな羽根を広げた巨大な竜であった。
「うそ!? 竜に目覚めたの?」
背後からヴァロアが叫ぶ。
「「ガァアァァ……っ『アンス……アンスアンスアンスアンスアンスアンス───……!!!』」」
耳に届く咆哮は、脳内では俺の名を叫んでいる。
ズズズズゥンン───……
更に砂煙が舞い上がり、咆哮は激しくなる。
俺の名を叫んでいる。
愛しさがじわりと心を満たす。
殿下は俺を求めている。
涙が零れる。
「俺を呼んでる。行かなきゃならない!」
体が発火しているように熱くなって来て、堪らず走る。殿下の元へ!!
俺のこれまでの恋愛は全て受け身。
来るものは拒まず。去るものは追わず。
だが、殿下のことは別だと言える。言い切れる。
こんなに、愛おしいと思ったのは初めてだ。
追い掛けたいと思ったのは初めてだ。
叫び、逃げ惑う人波を反対に駆け行く。
近くに見えて来た黄金の美しい人の名を叫ぶ。
「アウローレンス殿下!!」
途端に、咆哮が、ピタリと止んだ。
ガラガラと崩れる城の残骸。
見上げる先には巨大な黄金の竜。赤と黄金のオッドアイが瞬く。そして、俺の体程の大きさの顔を寄せて来た。
俺は躊躇なく腕を広げ殿下を迎え入れる。
「どうしたんですか? こんな、壊してしまうなど」
「「グルルゥ───……『お前が居ないのが悪い』」」
俺の体に顔を擦り付けて甘えて来る殿下がとてもとても、愛おしくて……可愛い……
手触りのいい鱗を撫でてやり、その大き過ぎる目元に口付ける。
「そうですね。それは、俺が悪い」
ふふふと、嬉しい笑みが零れる。
「さぁ───……元に戻って下さい。この姿も恐ろしく素敵ですが、貴方を抱き締めたい」
すると、全身が一瞬白く輝いて、そこに現れたのは───……小さな、男の子。
10歳の本来の姿の殿下がそこには居た。
「───さぁ、お出でなさい」
上着を脱ぎ、その露になった裸体の肩に掛けてやる。おずおずと両手を広げ、俺の腕に収まった殿下は、ぎゅっと首筋に小さな腕を絡ませて、首元に頬を寄せる。
「アンス……私の傍から離れてはならぬ」
肩口に温い感触。
泣いておられるのか……。
「はい。申し訳ございません。もう二度と殿下を一人には致しません」
そっと頭を撫でてやると、ほっと息を吐いてその小さな体を俺に委ねた。
年相応の甘え方に震える程愛おしいさが募る。
あぁ。何て、可愛らしい方なのだろう。
そのまま殿下の自室に足を向けた。
周りの者たちに他の王家の方々を見つけるように指示を出し、他には目もくれず前へと進む。
「さあ、まずは服を着なければ」
これより先は、誰よりも何よりも優先すべきことはアウローレンス殿下のこと。
「……私はあたたまりたい……」
その言葉にぞわりと全身が粟立つ。
「ええ、もちろん」
腕の中の小さな殿下の背中を撫ぜてやる。
「お疲れでしょう……まずは少しお休みになりましょう」
「絶対に傍から居なくなるな」
「もちろん。俺は殿下のものですから死しても傍を離れないでしょう」
「……本当に?」
「絶対です」
顔を上げた殿下が、その小さな両手を俺の顔に添え、怪しげに目を細める。
「絶対にか?」
「はい」
当たり前ではないか。
すると、殿下の小さな唇で俺のそれを塞がれ、あろうことか、舌が割って入ってくる。
抗えない。すると、探り当てられた舌を咥えられ、強い痛みを感じた。
「つ……っ」
にっこりと微笑んだ殿下の口端からたらりと血が零れ、それを舌先で舐めとる。
「勿体ない。アンスは美味しいな……お前に“呪詛”を施したよ。父王はこれで死したのだ。お前が私を裏切るなら、私が死ぬんだよ。だけど、お前が裏切らなければ、お前を護る盾となるだろう。私の傍を絶対に離れぬよう……誓いの言葉よりも確かな契約だ」
「幸せなことです」
本当に可愛らしい方だ。
「私の他には誰とも交われぬ」
「当たり前です」
「私の他には誰も見てはならぬ」
「ふ……特別な意味では殿下しか見えません」
束縛されるのがこんなにも嬉しいことだとは今まで気付かなかった。
「……だが。私の特別はヴィクトルだけだ」
一瞬胸が傷んだが、
「それを含めて貴方を愛していますよ」
腕の中の小さな肩が一瞬びくりと震え、再び首元に頬を寄せて来る。
「お前は“エドガー”も愛してくれるのか?」
「既に含まれています。ほら、殿下の全てが俺の腕の中にある」
静かになった殿下は、声を殺して泣いていた。
愛おしさだけが心に広がり、小さな体を抱き締める。
このお方は、俺の、俺だけの、番。
0
あなたにおすすめの小説
転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
毎日19時に更新予定です。
熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)
MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
貞操逆転世界で出会い系アプリをしたら
普通
恋愛
男性は弱く、女性は強い。この世界ではそれが当たり前。性被害を受けるのは男。そんな世界に生を受けた葉山優は普通に生きてきたが、ある日前世の記憶取り戻す。そこで前世ではこんな風に男女比の偏りもなく、普通に男女が一緒に生活できたことを思い出し、もう一度女性と関わってみようと決意する。
そこで会うのにまだ抵抗がある、優は出会い系アプリを見つける。まずはここでメッセージのやり取りだけでも女性としてから会うことしようと試みるのだった。
人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている
井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。
それはもう深く愛していた。
変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。
これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。
全3章、1日1章更新、完結済
※特に物語と言う物語はありません
※オチもありません
※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。
※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。
俺様上司に今宵も激しく求められる。
美凪ましろ
恋愛
鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。
蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。
ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。
「おまえの顔、えっろい」
神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。
――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。
借金まみれで高級娼館で働くことになった子爵令嬢、密かに好きだった幼馴染に買われる
しおの
恋愛
乙女ゲームの世界に転生した主人公。しかしゲームにはほぼ登場しないモブだった。
いつの間にか父がこさえた借金を返すため、高級娼館で働くことに……
しかしそこに現れたのは幼馴染で……?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる