鬼に成る者

なぁ恋

文字の大きさ
上 下
7 / 210
泣いた赤鬼

しおりを挟む

カーテン越しに窓から差し込む太陽の光りが、朝を知らせていた。


キラキラと光る赤い髪と、白い二本角。
涙さえ、綺麗だと想う。

目に時計が入り、


8:30


あ。
学校。遅刻だ。

こんな時なのに、行くつもりのボクって。
ココロで解っていたって、頭で理解出来ていない。
こんな時は、普段通りの生活を過ごすのが一番だ。


そうして、自然に受け止めて行きたい。
あぁ、泣いて目がヒリヒリする。
まほろばの涙をティッシュで拭いてやり、

「ボクは、学校へ行くよ」

言いながら、新しいシャツに手を通し、洗面台で顔を洗う。

タオルで拭いた時、鏡に映る顔を見て、少し、驚いた。
ほんの少しだけ、瞳が銀色に輝いていた。

前世の自分が、顔を覗かせているのかな?


それに、メガネが無くても見えている。
髪は、さすがに、黒いままだけれど、変わって行く気がする。

それは良い方向へなのかは、判らないけれど。


お腹も空いてる。

まほろばは?


『……気にするな、行く所が有るんだろう?』


変らずココロで語る まほろばが、戸口に立って居た。

「うん。学校へ、行って来るよ。冷蔵庫に、食べ物あるから、何でも……」



―――俺を喰え―――


思い出す言葉。


「いや。行ってきます!」


まほろばの顔が見れず、逃げ出す様に飛び出した。

…………………………


教室の後ろから、静かに入る。

「夏木。遅刻か?」

前を向いていた担任の中迫なかさこ先生が振り向く。


「すみません。寝坊しちゃって……」

「それで、何も持たずに登校か?」


あ。カバン。昨日、崖から落としたんだった。

「すみません。無くしてしまって」

「……メガネも無くしたのか?」

見えるから、掛けずに来てた。

「あの……」


「まあ、いい。教科書は隣りに見せて貰え。鉛筆と、プリントの裏でいいかな? 貸してやるから取りに来い」

チョークを持つ手で手招きされ、また黒板に向う。

隣り?
教室角のボクの席。

隣りは、ボクを山の中に置いてけぼりをくらわせたリーダー格

園田 満郎そのだ みつろう

案の定、ニヤニヤ顔で、

「ドジだねぇ、キライ君はぁ」

知らん顔で肩をすくめている。

夏木 礼―――だから……キライ、と彼らは呼ぶ。


「そうだね」

小さく笑って、先生の所へ向う。

「??」

感じるモノがあり、足を停め、下を見る。


足先を机端から出してる、

畑 昌一はた しょういち

と視線が合う。彼と、園田でここ一月程をイジメられていた。

「つまんね。気付くなよ」

「ごめん」

思わず謝ってしまう。
こんなトコも、イジメられる要因なんだと、判ってはいるんだけど。

まあ、されたらその時は痛いかもしれないけど、慣れちゃうのかな。

何でか、笑ってる自分が居る。

無事に辿り着いた教壇から、鉛筆とプリントを借りて、席に戻る時、

宮内 佳乃みやうち よしのと目が合う。

恐い表情を浮かべた彼女が、口パクで、


『だから行くなって言ったじゃない』


と、あれ?
言っている事が、
聞こえた?

小さな声なのにはっきりと聞こえて、ちょっとだけ驚いた。

教科書を見せてくれる訳もなく、先生の声を聞きながら窓越しに空を見た。

澄んだ青い空。

あの時と変らない、青くどこまでも続く空。ずっと空に懐かしさを感じてた。

理由が解った今は、何だか涙が零れそうになる。


「おい、キライ」

園田が、声をかけて来た。

「何?」

彼を見遣ると、一瞬驚いた顔。


「目が……」


あぁ、

きっと、想いに耽っていたから、もしかしたら“銀”が強く出ているのかな?

瞬きをして、平常心に戻す。


「気のせいかな?」


変な表情をして、前に向き直る園田。
何だかおかしくて、小さく笑った。

何事もなく、昼休憩になった。
お腹が空いて、目が回りそうだ。

「おいっ…「礼くん。約束してたでしょ?」

園田の言葉を遮り、佳乃がボクの手を取り、呆気に取られてる彼を残して教室から出る。

ぐいぐい引っ張られながら、

「佳乃。ありがと……ところで、お金貸してくんない?」

慌てて出たので、財布を忘れていたのを思い出したのだ。

パンぐらい食べたい。


突然止まり、彼女の背中にぶつかりそうになる。


「……昨日は、どうしたの?」

背中を向けたまま、低い声で訊いてくる。

「え……と。

山に置いてかれた」


正直に話す。

これは、幼馴染みである佳乃との約束。
約束は大事だから、隠し事はしない。

「何で、逃げないのよ! 元々は、私のせいでしょう!」

怒鳴り、でも、泣いていた。

元々……
園田が、佳乃に告白した事から始まったイジメ。

断る為に、ボクを好きだと言ったらしい。


「言っとくけど、本当の事だからね! これは、おわびっ」

ボクの手にお弁当を押し付け、半泣きな目を擦りながら、駆け出していった。

本当の事?

追いかけても、きっと泣き顔なんて見られたくないだろうから、そのまま、屋上へ行く。

少し冷たい風に、一瞬震え、いつもの場所へ座り込む。


お弁当を開いて


「いただきます!……ん?」

手紙が落ちて来た。


―――――――――――――――――――




ごめんね。私のせいで、でも、本当なの……

本当に大好き。


佳乃

―――――――――――――――――――


本当の事って……

たった一人の友達。
異性として見た事がなかった。

しおりを挟む

処理中です...