鬼に成る者

なぁ恋

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精鬼

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亡骸をこの場所に運ぶ守恵人の姿が視える。

そうして薔薇に魂が宿ったのだ。

最初の“贄”から程なく、一年毎に一人この薔薇の、或いは自身への贄として命を消した。

二回目からの贄は自ら望んで来た。

それは妖艶な姿で誘いだし、“女”は守恵人が“男”は慶子の姿で、そうしてココロから我を失くし、やがては“精気”を“生”を奪い取る。

それは、自分達が生き長らえる為の必要な“食事”なのだ。

「足掻いても無駄だよ。二人で居られる為なら“罪”は罪じゃなく、お前が“鬼”と呼ぶならば鬼で良い」

守恵人の細めた瞳が赤く光る。

「“朱色の鬼”赤色は大好きだから」

慶子の見開いた瞳も赤く光る。

「“鬼の命”は「どんな味がするの?」」


どちらが話しているのか。


空気が渦巻き、薔薇は強く体を締め上げる。

「ウォ─────!!!」

ライの危機に理性を失う。怒号は自身の“封”を解く。

ガラスが振動し響く音に、薔薇の花弁が飛び散り温室内を舞う。

大きな拳が巻き付く茎をまとめ握り引き千切る。薔薇が悲鳴を上げ、躰の熱が中央で留まり“鬼本来”の姿が現われた。

“鬼の姿”は3mを越す長身、その大きな体内から鬼気が強く吹き出すままにした。

「何て美しいの……」

感嘆の溜め息を吐きながら慶子が佇む。

美しい。と、言うのか?
俺は、抑えることを辞めた。
原始の姿は、仮のそれよりも遥かに歪で、そして恐ろしいと言うのに。

怒気の為に逆立つ赤毛も、そこから伸びた二本の白い角はさらに長く。金につり上がったまなこに大きく突き出した牙の覗く唇。

大きな体は筋肉を隠し、伸びた手足に硬い爪が光る。

鬼気は強くその裸体から暖かい熱を発している。舞う花弁が熱に触れ燃え落ちた。



「恐ろしい」



二人を見据える金の瞳に先に震えたのは守恵人。

そして二人はこととなる。

かつて、俺が行った復讐の惨劇を───









大事にしていた。

腕にある愛しい青鬼。

命の消えた抜け殻。


まだ温かさの残る彼の体に歯を立て喰らう。

赤く染まる我が身。強く早く打つ鼓動の音だけが頭に響く。

全身を赤く染めたまほろばは、ライの角を形見に握り、殺戮を繰り返す。

“朱色の鬼”が束になっても適わない。

全てのを出しきって闘う彼は、ほんの数日で復讐を終わらせた。

後に残るは、“怒り”と“悲しみ”の足跡。

そして、永い孤独の日々。

ただ、彼の人の姿を夢に見る、それだけが救いの思考を閉じた数千の年月。

“朱色の鬼”は、まほろばにとって敵意しか感じない相手。

怒りのままに狩っていい相手。


  

*********


*ライside*


怒りの強い感情をぶつけられ、目を覚ます。


先程まで“夢”で視た荒々しいまほろばの闘う姿に、鼓動が痛い程に波打つ。


「まほろば」呼ぶ声は震えていた。彼の孤独を、彼の記憶を通して視た。目尻が熱く意識せぬままに涙を流していた。

あれほどの痛みを自分は知らない。
あれほどの孤独も。
自分の思い出した前世は、彼の優しさと温かさ。

彼を遺して死んだ自分に腹が立つ。

“死”を封じたまほろばの孤独は、深くココロを蝕んでいた。


自分と再会した事で“失くす恐怖”が彼のココロを一杯にして、怒り、爆発した。


囚われている自分を失くすかもしれない恐怖が、まほろばを狂わせた。


今ならまだ間に合うだろうか?


涙を流す両眼が銀色に輝き、頭皮側から青く染まる髪。

静かにベットから降りる。

そこを見遣ると、干からびた少女のミイラが横たわって居た。

彼女に重なる様に寝かされていた事で、彼女を通してまほろばを視たらしい。


『タスケテ───』


壁に掛けられた鏡に映った少女の姿が訴えて来た。


『私は、ただ守恵人と居たかっただけ……彼が与えてくれた“生”にこだわってここまで来た。けれど、このままでは───』

慶子の姿が揺れて消えた。途端に鏡が割れる。

振り向いて目にした先は、ガラスの温室。

窓を開け様としたが、動かない。窓枠が無数の釘で打ち付けてあった。

数歩下がり、窓に向かい走る。

大きな弾ける音と共に、外に飛び出した。無数のガラス片が体に傷を付け、血が滲んでいた。


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