鬼に成る者

なぁ恋

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餓鬼

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食べても
食ベテモ
食べても
 
食ベテモ
食べても
食ベテモ

食べても
満足出来ない。

食べても
食ベテモ

食べても
食ベテモ───……
 
………………………
  
*ライside*

「邪魔はしないって」

元気のカラッとした笑顔にムカついた。

「そんなに睨むなって」

肩を抱いてくるその仕草さえ、鬱陶しい。

「何で?」
「隣りが空いてたから♪」

何の予告もなしに越して来た。

「だから何で?」
「玄関から入るのが面倒だ・か・ら」

開け放たれたベランダのドアを睨む。
無残に床に散らばるガラスの欠片。

「だからって割って入る事ないだろ!!」

馴々しい手を払いのけて睨み付ける。

「ごめんて」

苦々しい。

笑顔!


「“仲間”の近くに居た方が安心出来るしさ」

ウィンクして立ち上がり、
「一緒に食事する人も必要だ」
朝食に用意したリンゴを摘み口に放り込む。

「なんせ、まほろばの食事はお前だから一緒には無理だ」

と、無邪気に笑う。

「俺がどうかしたか?」

タイミングよくまほろばがお風呂から出て来た。
いつもの裸に腰巻きタオルのみで。

口笛を吹いた元気が、上から下まで舐める様な視線を送り、

「うん。美味しそうだ」

気怠げに言うもんだから、もう集中して食事も出来ない!

「元気はノンケじゃなかったっけ!」

「う~ん。
だけど、今は“女性”が内に居るからか。もいけるかも?」

悪気ない笑顔に力が抜ける。一人で馬鹿みたいだ。

「楽しそうだな」

まほろばが小さく笑って嬉しそうだったから、……まぁいっか。て思えたけど。


「ちぇ。つまんね。何したって二人はラブラブですねぇ」

言いながらも、いつの間にか箸を持ち、ボクの食事をつついて居る。

「そうだね。一緒に食べるのはやっぱり楽しい」

溜め息と共に、素直に思えてもう一つ茶碗を用意した。
 
「マジ旨いっ!! ライお前天才!」

作った方からすれば、嬉しい言葉。
ばぁちゃんを思い出して少しホロリ。
美味しいって笑ってくれた。
優しい顔。

「まぁ、そんなに哀しむなよ。ばぁちゃんだって心配で戻って来ちまうぞ」

「そうだね……って!?」

ココロ読んでる?

「うん。実は」

綺麗に平らげ「ご馳走さま!!」と立ち上がる。

「まほろば!」

元気がソファに座るまほろばの横に飛び座ると、まほろばが少し飛び上がった。

……おかしかった。
ニヤけそうな顔。けど。既で我慢。

「我慢は体に良くないぞ」

って、元気の言葉に笑いが弾けた。


*元気side*


笑ってるライが可愛いなぁって、惚けて見てるとまほろばの視線。

2Lのミネラルウォーターを片手にすぐテレビに視線を戻した。

「で、教えて欲しいんだけど」

答えを待たずに訊く。

「俺は、馬鹿力がある。ココロが読める様になった。他にも……出来る気がする」

そして、不思議な、
あの懐かしい感覚。

まほろばが視線だけを寄越し、

「……確かに俺も感じた。思い出せないがな」
 
ココロの奥深い所でくすぶる感覚。
 
「近くに居れば自ずと分かるだろう」 

その声、仕草、瞳の色、赤い髪でさえ───知っているんだ。
 
 
***  
………………………  


パリパリ……バリ……むちゃ―――

暗い室内に灯された一本のロウソクの炎。
炎は揺れながら、人の姿の影だけを映し出す。

そして、影が出す音。

うずくまる様に背を丸め、ひたすら床にあるものを口に運ぶ。
否、食いついて引き千切りながら喉の奥に通している。
     
床に転がるは塊。
元の、原型が分からぬ程に変わり果てた塊は、ただ、赤い液体を垂れ流しながら虚ろな瞳を見開いていた。
  
人の
影は、ひたすら食べ続ける。

いくら食べても物足りない。食欲が止まらない。壁に無造作に積み重ねられたおびただしい骨の数がそれを物語っていた。

食べても
食ベテモ

食べても
食ベテモ

「「もおぉっとおぉ食べたあぁいぃぃ」」

食べても
食ベテモ

満たされない。

食べている時だけが頭を正常にさせる。

正常に?

不気味な赤い眼だけが闇に光る。


恐ろしい赤い眼。
朱色の鬼の瞳。
 
 
ひたすらに食べ続けた。その塊が無くなると……
「「う゛ぅぅうぅぅ……ぁぁああぁあ゛あ゛あ゛!!!!!」」

地の底から響く様な、叫びとも唸りとも違う声をその喉の奥からしぼり出す。


口元から声と共に飛び散る血飛沫。そして、見開いた赤い眼が、こちらを見る。


視線。

視る
視る
   
それが
 
 
 
 
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