40 / 210
鬼民話
4
しおりを挟む鬼神の後ろに紅い満月が顔を現す。
何ヶ月ぶりの月だろう。
鬼神はゆっくりと足を進めてこちらに来る。
そう、私は“贄”だから今から食べられるのかしら?
それも良いかもしれない。
今までで見た事もない綺麗な生きもの……
見とれて居た。
鬼神は近付いて来て生気のない金の瞳で私を見下ろす。
何も考えず手を差し出すと、その手を大きな手で優しく握られる。
途端に頭に浮かぶ、
───ライ
名前?
ライ。
青い髪一本角の鬼。
鬼神のココロを占めるは、その鬼ライを失った悲しみと、輪廻転生を待って長い年月を孤独に生きる赤鬼……まほろば。
鬼神の名は、まほろば。
余りの切なさに胸が痛くなる。
孤独に耐えられず意識を閉じた彼は、100年の周期で少し活動する。
何故?
生きないとならないから。
目覚めの年は、悲しみを思い出し夢を見る。無意識に空に呼ぶ雨雲、自分の代わりに空が涙を流す。
それを止めに来るのが“先読みの巫女”の役目。
贄は、鬼神の目覚めを助ける者。
私は涙を流す。
まほろばの代わりに
彼の涙を流す。
止めどなく溢れる涙。
嗚咽し、胸が痛い───……
まほろば
目の前に居る鬼神は、眼を開いていても、夢の中に棲んで居る。
涙に霞んだ鬼神の顔、次の瞬間、優しく包まれていた。
抱き上げられ、寝床へ引き返す。
足元に転がる亡骸を器用に避けて何年も眠って居た場所へ座る。私を抱えたまま。
優しい温もりに癒されて涙を流しながら……やがて眠りに落ちた───……
眼に届く陽の光りの眩しさで目覚める。
私はまほろばの腕の中、彼は眼を開いたまま夢を見て居る。
触れた箇所からじわりじわりと浸透する。彼の記憶。
ライを喰った。
彼の望む彼の遺言。
その言葉は“言霊”として、まほろばを捕らえて離さない。
まほろばの中にはライしか居らず、誰も入る隙がない。
まるで恋い焦がれる男の姿、
哀れな男の一途なココロ。
あぁ、胸が、ココロが苦しい───……
だらりと伸ばした右手に触れたものにビクリとする。
冷たい頭骸骨
思い立ちそれを手に取り抱き締める。
想いを込めて、教えて?と───……
閉じた眼に浮かぶ
この巫女の記憶。
流れる長い茶色の髪───巫女は皆同じ様な髪色をしている───綺麗な顔立ち。私よりもまだ若い少女。
彼女は目覚めた鬼神に恋をした。
彼を眠らせた後も寄り添って自ら生を投げ出した。
遂げられる事のない想いの為に。
その気持ち解らなくもない。
鬼神は誰をも虜にする美しさがある。
ただでさえ閉じ込められ人との接触が余りない巫女からすれば、この場所が初めて手にする自由と一緒に過ごす異性。
鬼神とは言え、恋愛対象になり得る相手。
そっと身を起こし、鬼神の腕から抜け出る。
手にした頭蓋骨を抱えて出口に向い
それを何度も繰り返した。
触れる骨から想いを汲み取りながら───……
こんな能力もあったのだと不思議に思いながら。
彼女達を荼毘にふす。
空に煙りがのぼる。
久し振りの晴天。
乾いた骨は簡単に燃えて灰になり風に飛ばされて行った。跡形も無く。
彼女達の記憶の殆どは鬼神に捧げる想い。
何故?
皆ココロを読めた。
一途に想われる。それを自分と重ねて見て居た者が多く、実際にココロに入り込み“ライ”に成り済まし戯れた者も居た。
それは危険な行為に他ならない。
鬼神の激情に耐えられずココロを壊した者も。
ココロに入り込むのは、危険。
私の役目は鬼神が眠るまでの一年を───これまでの平均が一年───平穏に一緒に過ごす事。
空を仰ぎ見ながら、私はどちらになるだろう? と、考える。
骨になるのか、生きて村を後にするのか?
或いは、
『“想い”を持ち帰る』
春の先読み。
村へ帰るのか?
気配を感じ振り返ると、鬼神がこちらを見ていた。
私よりも身体二つ分背があり、見上げる程に大きい
「まほろば」
名を呼んでみた。
やはり彼の反応は無く、それでもこれから生活する上で名で呼ぶ事に決めた。
「まほろば」
反応の無い鬼神はこちらを見ながら首を傾げる。無表情の鬼神。
生気の無い金の瞳に、いつかは揺らぐ想いを宿して私を見て欲しいと、そんな想いが沸き上がる。
あの巫女少女が頭を掠める。
馬鹿な事をしでかさない様に、ココロをしっかり持たなければ。
綺麗な赤鬼。
まだ出会って二日目。
なのに私のココロに入り込み、居座ってしまった。
私のココロを乱さないで───……
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ
零
BL
鍛えられた肉体、高潔な魂――
それは選ばれし“供物”の条件。
山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。
見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。
誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。
心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。
BL 男達の性事情
蔵屋
BL
漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。
漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。
漁師の仕事は多岐にわたる。
例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。
陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、
多彩だ。
漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。
漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。
養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。
陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。
漁業の種類と言われる仕事がある。
漁師の仕事だ。
仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。
沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。
日本の漁師の多くがこの形態なのだ。
沖合(近海)漁業という仕事もある。
沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。
遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。
内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。
漁師の働き方は、さまざま。
漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。
出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。
休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。
個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。
漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。
専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。
資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。
漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。
食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。
地域との連携も必要である。
沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。
この物語の主人公は極楽翔太。18歳。
翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。
もう一人の主人公は木下英二。28歳。
地元で料理旅館を経営するオーナー。
翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。
この物語の始まりである。
この物語はフィクションです。
この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。
【完結】 男達の性宴
蔵屋
BL
僕が通う高校の学校医望月先生に
今夜8時に来るよう、青山のホテルに
誘われた。
ホテルに来れば会場に案内すると
言われ、会場案内図を渡された。
高三最後の夏休み。家業を継ぐ僕を
早くも社会人扱いする両親。
僕は嬉しくて夕食後、バイクに乗り、
東京へ飛ばして行った。
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる