鬼に成る者

なぁ恋

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鬼民話

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……………………… 

***
 
静かに目を開けると視界が歪んで居た。
頭を振り、意識が戻るままに任せる。

「……出逢えた。でしょ?」

視点が合い、声の方を見遣ると瞼を閉じた樹利亜が涙を流して居た。

「ねぇ不公平じゃない? 寿は、貴方しか見ていない男に恋をした」

「樹利亜?」

まるで彼女を知って居る様な口振り

「知っているわ」

開く眼が光る。

動けない

「彼女は貴方と同じ……」

涙に濡れた黄金の眼が強く光る。

「違いは、まほろばを追って転生して来た事」

それは……樹利亜の事?


「元気だ」

まほろばの声が響いた。

「まほろば……貴方は幻視を視て“寿”を知っているつもりになったの?」

まほろばは立ち上がると、壁を背にして口を開く。

「元気は俺の子孫で有り、寿の生まれ変わりだ」

首を振り。

「魂の光りを覚えて居る……俺に話しかけ、しきりと自分の名を口にしていた“寿”と。それが記憶に触れ、ココロ深くに埋もれて居たものを思い起こさせた」

「一度で良いから名を呼ばれたかった……はそう言っていた」

樹利亜が言う。
姉?

「私は“春”の生まれ変わり」
 
そう言い置くと、声を殺して泣き始めた。  
途端に身体が自由を取り戻し、その場にしゃがみ込む。
 
ボクのした事でまほろばを含めた彼等までが悲しい思いをしたんだ。 
   
 
 
 
  
*樹利亜side*
 
 
ライの懺悔する気持ちが伝わって来る。
優しいライ。
もう少し憎める相手なら良かったのに……

「姉様は、充実していた」

彼女のココロは満たされていた。

下山して来た姉を村人達は歓迎し、
歓迎したのは
腹に宿す鬼神の子ども。
寿自身も以前と比べ物にならないくらい“先読み”の能力を発揮し、春と共に村を守った。

やがて夕陽色の髪を持つ男の子を産む。

そうしてすぐ幼い息子を残し山へ登ってしまう。
全てを春に託して自分は眠る鬼神の元へ、


数年後、春が安否を心配し様子を見に行く。
解ってはいた。
それでも行かずにはいられなかったから

寿は、死んでいた。
鬼神の傍で、
    
春はそのを拾い、視る。
寿は鬼神の為に全能力を注いで強固に眠りにつかせたのだ。再会の時まで彼は目覚める事はない。


村からの“贄”はもう出る事もないだろう。

洞窟の中、
堅い岩の上、鬼神は何も知らず浅い呼吸をし深い眠りについて居た。


鬼神まほろば


ほんの少しで良い、
寿を覚えておいて欲しい。


そう願わずにはおれなかった。





“春”は望み、同じ家庭に生まれる。見守る為に、後に来る“寿”を待って。

前世を覚えていた訳じゃなく、魂の願いがそうさせた。

寿の“約束”

次の世で、まほろばの近くに。
でも“女”で在る事はやめた。
女で在ると、きっと求めてしまうから。
自分を見て。と、


「全ては、元気の内で生きる事を選んだから思い出した。これも決まっていた事なのかもしれないわね」

目尻を指で擦るが流れる涙は止まらない。
    
涙がこのが涸れる事はないだろう。
私に“春”にとって“寿”は大切な女性だった。

綺麗で優しい姉様。

春は生涯独りで生きた。

寿の残した子どもを大事に育て
寿の供養に心身を捧げた。

村よりも何よりも彼の全ては寿の為に在った。


「だから私は元気と離れる事を望まない。
元気から出てしまったらきっと私の行く末は……」


“朱色の鬼”

樹利亜は“朱色の鬼”で在った母に呑み込まれそうになっていた。
それを辛うじて食い留めていたのが元気の存在。彼と繋がった“糸”で彼の成長を見て生きて来た。

そして、
彼に愛情を感じる様になる。
兄弟愛とは違う
異性へのそれを、


元々“春”もそうで在ったから、樹利亜にとって成るべくして持った感情。

春は、寿が“男”を選ぶと解って居たから“女”で生まれ来た。

中々、忘れられるものではない。
愛した事を、愛した相手を。


「ねぇ? まほろば。貴方は何時からライを愛してた?」

涙が流れる。
身体から血が流れ出る様に
止まらない。
自分では止められない。
 
 
 
 
 
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