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炎鬼
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しおりを挟む落ち着いて来ると、室内が見えて来る。
シンプルで素敵な部屋だ。
目立つのは写真。
幾つもの写真が飾られてあった。
レンガ造りの暖炉があって、そこに置いてある写真立てに視線が止まって、その中の二人。
一人は相楽さんが若い時?
隣りで笑ってる可愛らしい女の子は……
「あぁ、それは大輝とあたし」
! 髪が。
「16の時よ。可愛かったのよ……髪だってフッサフサだったわよ!」
やっぱりココロ読まれてる
「礼くんはすぐに顔に出るんだから。
この一枚が写真にハマる切っ掛けになったのよね」
その写真を手に取ると懐かしそうに撫でる。
「あたし達ももうすぐ40ね」
溜め息と共に吐き出す言葉。
「そうだ。貴方達二人の写真はあるの?」
「いえ無いです」
写真なんて思い付きもしなかった。
まほろばは不思議そうに壁に掛かる写真を眺めて居て、
「“写真”は、テレビとは違うのか?」
「永遠とまではいかないけど、長く置いとける素敵なものよ」
まほろばの質問に明確に答えた桃井さんの手には立派なカメラがあった。
「趣味で、現像室まであるのよ。ねぇ、二人を撮りたいの。良いかしら?」
写真。まほろばは、すぐにボクの隣りに来て肩を抱かれた。
撮りたいみたい。
「良いわぁ♪ 陽の光りが貴方達の髪を照らして何とも言えない素敵さを醸し出しているわ」
シャッターを押す音が何度かして、満足したのかカメラをテーブルに置いた。
「現像したらそれぞれにあげるわね」
桃井さんがウィンクを寄越してほほ笑む。
こんなに優しく笑える人を他には知らない。
「ところで、お腹空かない?」
訊かれて鳴るボクのお腹は正直で、
「軽いもの用意するわ。まほろばくんは?」
まほろばがボクの首筋に軽くキスをし、
「もう済ませましたから」牙を覗かせ笑った。
「まぁ……」
感嘆の声色で桃井さんが溜め息。
何だか感動しているみたいで「桃井さん?」
「あ。ごめんなさい。吸血鬼みたいね。」
永遠を生きる。
「ライが居ないと生きて行けない」
不意に言われて、また泣きそうになる。
「ボクが───」
「また逢えた。それだけで良い」
「なくてはならないのよね。お互いに」
ボク達の関係を知ってか知らずか桃井さんの言葉はココロに響いた。
「ボクもまほろばが居たからこうしてまた生まれて来れた」
やっぱり泣いてしまった。
昨日からやたらと涙腺が弱い。
涙ぐんで居ると桃井さんがタオルを出してくれて、
良い匂いが鼻をくすぐる。
「あら。先手を取られたわね」
「出来たぞ」
声の主はガタイの良い相楽さん。
彼がエプロンを着けて─しかもフリフリのピンク─皿を持って来た。
「何? 虎之介が泣かせたのか?」
「やぁねぇ。あたしは優しいのよ」
言いながら視線を絡ませ笑む二人。
こんな優しい関係が羨ましい。
後ろから絡めて来る指。まほろばが後ろから抱きしめて来た。
ココロの底から“愛情”が感じられる。
「解ってる」呟くと、絡めた指に力を込めた。
「まほろばくんは食べないのか?」
食べ物に手を付けないまほろばに相楽さんの問い掛け。
彼が気になる。“化け物”言われた言葉が頭から離れなくて。
「申し訳ないのですが、食べられないので」
「それはどうして?」
「大輝。言いたくない事だってあるわよ」
桃井さんの気遣いも、ボクの気持ちは治まらなくて、
「ボクのせいだから」
皆の視線が集まる。
「ボクの死ぬ間際にした“約束”がまほろばを縛り、前世の俺がまほろばに酷い事をさせたから……まほろばと離れたくなくて、俺の躰を食べさせた。だから、罰の様にボクの血液しか受け付けないんです」
また、流れ出す涙。
「それは………」
相楽さんの言葉に身構える。
「“愛”だろう?」
「え?」
拍子抜けして、
「だから、“愛”があったから出来た事だろう?」
「あたしも次に生まれ変われるなら大輝の傍が良いもの」
桃井さんが手を重ねて優しく包んでくれた。
「正直目の前であんな行為見せられて、あの時言った言葉通り綺麗で、何だか“愛の行為”を見たみたいでドキドキしたわよ」
言われて熱くなる頬。
「人前でする行為じゃなかった」
「あの時必要だったんでしょう? あたし達が居る事忘れるくらい」
まほろばが無言で頷いた。
ボクを治す為。
まほろばの気を落ち着かせる為。
確かに必要だった。
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