鬼に成る者

なぁ恋

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牛鬼

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「確かにあそこで一年前かしらね。死体が見つかったわ。食べられたアトがあってね、海辺って事もあって、サメ等に食べられて打ち上げられたんだろうって事で解決したのよ」

桃井さんが教えてくれた事件は、幻視で見たモノで間違いなかった。


「“朱色の鬼”の仕業だったの?」

ライが頷くと「そう」桃井さんが寂しくほほ笑んだ。

「桃井さん?」訊くと、

「闘う姿を目の前で見たのよ? いくら鬼とは言え、心配なのよ」

「“傷”なら治せる」

まほろばの言葉に
「“ココロ”が心配なのよ。貴方達はちゃんとココロを持っていて、優しさや、愛情を持って居る。
だから、このまま闘い続ける事が良い事なのか……」

「ココロ?」
まほろばが不思議な顔をする。
「まほろばくんは礼くんが好きでしょう?」
問われて頷くと、満足した様に頷き返した桃井さんが、
「そう言った感情が生まれる場所が“ココロ”」自分の胸に手を置いて今度は優しくほほ笑んだ。


「“鬼”は感情が乏しくつまらない存在だった」ライが言いながらまほろばの胸に手を置き、
「“人”に成りたくて仕方なかったボクが、今度は“鬼”に成りたくて闘って居る」

「俺はお前を待つ間、思考を閉じておかないと耐えられなかった。仲間の居ない“孤独”ではなく、お前が居ないから……俺達ははみだし者の“鬼”ココロは昔から人に近かった。ライを初めて見た時から自分のモノだと感じて居たのだから」

愛を語る二人に、ココロからの安堵と……何故か沸き上がる感情?

涙が零れていた。
驚いて見られない様に立ち上がり。その場を後にする。
 
  
なんで?
悲しくないのに涙が溢れる。
泊まった部屋に入るとベットに座る。

『元気……』

樹利亜?





*樹利亜side*

「元気くん?」

ノックして入って来たのは可愛らしいおじ様。

私を見て驚いてる

「貴女は誰?」

「樹利亜。元気の姉」
口を利くのもおっくうで、彼に手を差し出す。

「なぁに?」
「理由が知りたいのでしょう?」

おじ様。桃井 虎之介。素直に私の手を取った。




記憶を流す。

元気の、私の、まほろばとライの過去を。
私達の前世と現世の係わりを


「?!」

手を握ったまま膝を付き浅く息を吸う。
こちらを向いたおじ様の眼から一筋の血の涙が流れ出た。

「……ごめんなさい。貴方はほぼ人間だったわね」

強過ぎる能力を脳に直接受けてどこかが傷付いた?

「───大丈夫よ」
小さく呟いた。おじ様が、私の目を見て話す。

「……スゴいのね。今ので全てをあたしに見せた?」

握られた手を離そうとしたら、次の瞬間には抱きしめられて居た。

「貴女が一番辛いんじゃない?
貴女が一番泣きたいんじゃない?」

言われる前から流れていた涙は、
元気のもの?
それとも私の?

優しく抱きしめられ、頭を撫でられる。それだけなのに安心し、声を出して泣いて居た。

おじ様のココロが私に伝わる。

ただ、優しい気持ち。
偽善ではない、本当の優しさ……


ずっと欲しかった。
温もり。
 
  
「落ち着いた?」

両手を握られたまま笑顔を向けられる。

「ありがとう……おじ様こそ。両眼から血の涙が流れたの。痛かったりしない?」

指先で血筋を撫でて見て
「どこも痛くないわよ? それどころか頭が何だかスッキリしてる。禿からじゃなくてよ」

「ぷっ!」
我慢出来ずに吹き出すと、おじ様もほほ笑んだ。

「そうそう。女性には笑顔が一番似合ってる」

“癒される”
ライがいつも感じてるおじ様の印象。
解る気がした。


優しい元気。
貴方の方が主体なのに、何も縛らず私の自由にさせてくれてありがとう。

だから私は貴方を自由にしてあげる。


ねぇ?
元気。貴方は今の貴方で居れば良い。
前世まえなんて思い出さないで、現世いまを楽しんで……

前世は私が閉まっておくから。
寿。姉様。


春は、樹利亜。
樹利亜として“前世”を背負って生きて行く。


だから……もう少しだけ、貴方の中に居させて。


愛してる
愛してる

元気───……

 
*元気side*

「……──ん」

いつの間にか眠ってた?
リビングで皆と話してたのに?


───今何時だ?


時計を探す。
壁掛けのデジタル時計。光る数字は17時過ぎ、初夏でまだ満月は出ていない。

「お腹、空いたな」独り言に、

ノックと一緒に開くドア。

「元気くん! ご飯出来たわよ!!」

独り言に答える様に桃井さんが呼びに来た。

いくさ前にはまず、腹ごしらえしなくちゃね!!」
 
 
 
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