鬼に成る者

なぁ恋

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虎之介奇譚

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……………………… 
***

*大輝side*

虎之介と親父さんの姿を見ながら襖を閉める。

誤解したまま何てダメだ。

「相楽よ。虎之介は、本当にどうしちまったんだ?」

龍太郎の問いに小さく頷いて、

「うん。在る者達と係わって、不思議な力の副作用とかで若返ったんだ」
「本当に?」
しつこいくらい訊いて来る龍太郎。

「はっ! 俺はあの禿げた頭も好きだったけどな」

声を殺して笑う。

禿げてた虎之介は、天狗の、姿を隠すと言うみのをかぶっておとなしくしてた。

天狗、虎之介の本来の気性は激しい。

蓑を脱いだ虎之介。

ついさっきしたばかりの情事を思い出し、喉が鳴る。
乾く口内。
ブルッ と躰が震えた。

「大丈夫か?」
心配げに覗く龍太郎に、頭を一振りし、頷く。

「天狗を抑えるのは生半可に出来るものじゃない」

右頬に在る傷に触れて独りごちる。

「守り甲斐があるってもんだ。なあ? 兄貴」

龍太郎の力強い手が背中を叩く。

兄貴か……

「ありがとな。龍太郎」

俺達の理解者の一人。
龍太郎。
 
 


***  
……………………… 
 


*虎之介side*

晴天。空を泳ぐ雲が綺麗に流れる。
風が強いんだね。
もしかしたら、空に移動したり出来るのかな?

飛んで見えるかな?
そしたら“天狗”そのもの。

朝から考える。
夜のお祭りまで時間があるから。

デート。
デート。

好きだ。

「ふふふ」

何度も何度も
頭の中で大輝の言った言葉が反復してる。


嬉しくて。
嬉しくて。


夏休み始めの日。
今日は僕の誕生日。

出逢った年は、祭りも見る事なく離れに連れ込んでたからな。
てか、祭りって、5歳以来だよな。


「機嫌が良いのぉ」
じぃちゃんが後ろから声をかけて来た。

「うん。今日の祭り、大輝と行くんだよ」
「大輝くんとな?」

着物を着たじぃちゃん。何だか渋い顔。

「わしはなぁ……虎之介お前が可愛い。ふびんにも思っとるから、はっきりと言えなんだ」
「何?」
「“噂”はお前の耳に届いてないか?」

“噂”
昔から僕に付いて回った噂なら山程あるから、今更気にする事なんてなかった。


天狗の子。
貰い子。
捨てられた子。


子どもは残酷。
大人は触れない近付かない……


「何の噂?」
「ふむ」

僕の隣りに座ったじぃちゃん。
縁側に並んで、一緒に空を見上げた。

「大輝くんとの事だ」

え?

「天狗に魅入られた。と言われて居る」
「それって?」
「お前達があらぬ関係だと村の噂になっとる」

それは、笑っちゃうな。

「それなら、じぃちゃん。心配無いよ。あらぬ関係って、僕達恋人同士になったから」

嬉しくて。
じぃちゃんも喜んでくれると思った。

「僕、神社手伝ってくる」

幸せで、
子どもで、自分の事しか考えてなかった僕は、色々着いて回る人の目とか、そんな事にうとかったんだ。
 
  
*大輝side*

窓から見える空が青い。
俺は覚悟を決めた。

「ねぇ、母さん。告白したよ」
「ん?」
「俺さ、俺達。恋人同士になった」
「そう?」
「母さん達に迷惑かけるかな?」

洗濯を干してた母さんが、

「あんた達が幸せになる為なら、屁の河童よ!」
パンッ と、シーツを伸ばしてほほ笑んだ。

「私はね。私達は、二人で居られたらそれで幸せだから、周りの事なんて、小さなものよ」
「息子相手にのろけかよ」
「悔しいならあんたものろけてみれば?」

笑顔が可愛い母さんは、俺の理想の女性だ。

でも、俺が選んだのは虎之介。

「今夜の夏祭り、虎之介と行くんだ」
「あら。帰り寄りなさいよ。姑として挨拶しとかなきゃ」
「いじめんなよ!」
「ま! 母さん優しいの知ってるでしょうに」

二人の笑い声が、小さな家に響いた。



*虎之介side*

夏祭り。

良い想い出無いんだよな。ヤな事あったから祭り行かなくなったんだったっけ?

祭り。
ウキウキしてるけどさ。
服装は、
いつもと一緒。


待ち合わせは、神社の入口。

桃山神社。

僕が継ぐ神社。

村中の人が集まってるんじゃないかってくらい、人の波がスゴい。

たこ焼き、リンゴ飴、かき氷。

沢山の出店。

ワクワクして来た。
 
待つのも楽しい。 
でも、待つまでも無く、大輝が立ってた。

駆けて行く。

「大輝!」
「おう!」

二人、手を取り合って歩き出す。

「たこ焼き、食うか?」

頷くと、大輝が列に並ぶ。
太鼓の音や、人の声。色んな音が耳に心地好い。
 
 
 
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