鬼に成る者

なぁ恋

文字の大きさ
90 / 210
蜜月鬼

しおりを挟む
 
*ライside*

そうだ。
俺が“鬼”だった頃。

本当に何も無かった。

青鬼。
一本角。
銀の瞳。
有り触れた容姿。

能力も誰しもが持って居るもので、目立たない存在。

それがまほろばが傍に居た。
まほろばは“癒し”を持った特別な存在。
傍に居て居心地好くて……得意な気持ちになった。
俺が特別になったみたいで、嬉しかった。


俺は本当に彼らの中で異端で、
何かに執着する事は鬼族の中では有り得ない感情。
そんなココロを持ってた俺を受け入れてくれたのがまほろばで、彼が近くに居たから俺は独りにならなくてすんだ。

まほろばの“特別”で居たくて彼を困らせた。






だから、死んでも放す事が出来なくて、次の“生”まで彼を縛りたくて、悪知恵を働かせた。


俺を食べて……と。


朱色の鬼のやり方を見て、死んでしまうと理解した時、懇願した。

まほろばが必ずそうしてくれると解っていたから。


“朱色の鬼”が人間を襲うのを許せない?

そんなの偽善だ。


俺はただ、まほろばを自分のモノにしたかっただけ。


肉体の快楽を求めない、持たない鬼族。
初めて知ったのが人間を喰う事。

“生”に対して貪欲さを持った鬼は欲求を抑えられず、朱色の鬼に変貌し、俺は人間に生まれ変わった。

約束をしたから。
まほろばは、ボクのモノだと、
再会は、彼を自分のモノに出来た証。
  


「まほろばがどこに行ったか知りたい?」

部屋から連れ出され、広い和室に通されたボクを見て開口一番に樹利亜が訊いた。
でも、

「鬼神山だろう?」
「よく分かったわね」

「まほろばは大丈夫だろうか?」
「そうとも言えない」

意味深な言い方に樹利亜を見ると、

「行った方がいい。まほろばは混乱してる。“ライ”の墓を掘り起こしてた」
「ボクの!?」

真っ直ぐに見る瞳に嘘は無く。

「貴方に対する“想い”が爆発してる感じ」

「だが、行けば危ないのでは?」
龍太郎さんが心配げに言う。

「行かないと、まほろばを失うかもしれない」
「失う?」
「精神の崩壊」

樹利亜が哀しげに言った言葉は本音だと解る。

「ライを待って待ってようやっと巡り逢えた。
それが、また失う恐怖と対峙して……なら自分が居なくなれば良い。何て、追い詰められてる」

まほろば……

「肉体は滅ぶ事はないでしょう。貴方の通り」

見透かす様にこちらを見る樹利亜の黄金の眼は冷ややかで

「貴方がどうにかしないとまほろばを失うから」

魂の抜けた躰だけが遺る。と示唆され。

「ボクは、まほろばと居たかっただけ」
切羽詰まったココロが、また涙を零した。

「なら、行きなさい」

凜と、言われ、
考える事等出来ないまま外へ飛び出す。

走りながら、夢で見たばぁちゃんの言葉を思い出す。

努力をする事。

まほろばを止められるのはボクだけだ。
本当の意味で彼を手に入れないと―――もう、後悔だけはしたくないんだ!!
 
  
*まほろばside*

 
もう、疲れた。
眠れない身体は思考する事を休めない。

躰は熱を持って疼き、吐き出せない精が内で暴れて居る。

ライを求めるココロは乱暴に牙を向き、情欲は躰を蝕んで行く。

この地面から這い出たら“情欲”は確実に誰かを犠牲にする。
だからと言ってライを抱こうとすれば、喰うかもしれない───


この土の中は居心地好い。ライの混ざった土だからか?

ここから出る事は危険だ。
掘った穴はかなりの深さと大きさになっていて、余裕で座る事が出来た。

このまま、ここに留まろうか?

自分さえ居なければ、ライを傷付ける事も、誰をも傷付ける心配も無い




躰が熱い。
頭が煮えて来た。


もう、考えるのも億劫だ。
このまま、眠ってしまおうか?

眠れない俺は、意味の無い事と知りつつ瞼を閉じる。



そして、この穴を封ずる。

陽介を真似て、印を結び。

これで見つかっても俺を出す事は出来ない。

さあ、もう眼を閉じて、思考も閉じてしまおう。

もう、疲れた。
もう、お終いにしよう。


「まほろば!!」

ライの呼ぶ声が聞こえる。

気のせいだ……眠ろう。

終わりにしよう───
 
 
 
 
 
 
 
 
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
鍛えられた肉体、高潔な魂―― それは選ばれし“供物”の条件。 山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。 見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。 誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。 心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。

BL 男達の性事情

蔵屋
BL
漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。 漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。 漁師の仕事は多岐にわたる。 例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。 陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、 多彩だ。 漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。 漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。 養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。 陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。 漁業の種類と言われる仕事がある。 漁師の仕事だ。 仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。 沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。 日本の漁師の多くがこの形態なのだ。 沖合(近海)漁業という仕事もある。 沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。 遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。 内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。 漁師の働き方は、さまざま。 漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。 出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。 休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。 個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。 漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。 専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。 資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。 漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。 食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。 地域との連携も必要である。 沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。 この物語の主人公は極楽翔太。18歳。 翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。 もう一人の主人公は木下英二。28歳。 地元で料理旅館を経営するオーナー。 翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。 この物語の始まりである。 この物語はフィクションです。 この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。

後宮の男妃

紅林
BL
碧凌帝国には年老いた名君がいた。 もう間もなくその命尽きると噂される宮殿で皇帝の寵愛を一身に受けていると噂される男妃のお話。

  【完結】 男達の性宴

蔵屋
BL
  僕が通う高校の学校医望月先生に  今夜8時に来るよう、青山のホテルに  誘われた。  ホテルに来れば会場に案内すると  言われ、会場案内図を渡された。  高三最後の夏休み。家業を継ぐ僕を  早くも社会人扱いする両親。  僕は嬉しくて夕食後、バイクに乗り、  東京へ飛ばして行った。

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

処理中です...