102 / 210
花鬼
8
しおりを挟む*元気side*
「あ……」
何?
躰が熱くなる。
口内がぬめり……
何だ?
「元気?」
まほろばの問い掛けにかろうじて目線を上げる。
「分からない……何だか、躰が変なんだ」
目を瞑る。
背中がぞくりとして、
「はぁん……」
出した声に驚いて口を塞ぐ。
これは、喘ぎ声だ!
ゾクゾクする躰。
熱くなる頬。
思考がまともに働かない。
「ふうむ。樹利亜と完全には離れていないんだな」
まほろばが面白そうに眉を上げた。
「それって? ……んぁ!」
勝手にのけ反る躰。
うわ!
俺、感じてる。
「樹利亜は龍太郎と居るんだろう? はじめたんじゃないか?」
何を?
「何を」
嫌な予感。
「だぁ―――!! ならどうにかしてくれよぉ!」
俺は樹利亜の体感をそのまま感じてるんだ。
判ったところでどうにも出来ずに。
とろける様な躰の疼きに目眩がして来た。
『樹利亜!!』
もうそれは危機感での叫び。
まほろばはただ高らかに笑い、
俺は止まった感覚に安堵する。
「……そんなに笑う事ないだろぅ」
シュンとしてまほろばを見るが、笑いは止まりそうにない。
「……ハハッ! すまん。まぁ、時が経てば共有の感覚も薄れてくるだろう」
説明しながらも、涙を流して笑ってる。
小さくなってた声が、また大きくなって、
その笑い声に釣られて俺もほほ笑んで居た。
*樹利亜side*
『樹利亜!』
叫び声に、動きを止める。
何?
元気の声。
“止めろ”と、言う思いの籠った叫び。
「樹利亜?」
龍太郎が不思議そうに見て居る。
「う~ん。ダメみたい」
「ん?」
「私と元気の感覚がまだ切り離されてなくて。私の体感をそのまま感じちゃうみたいね」
元気が?
と、含み笑う龍太郎。
「私が喘げば、彼もそうなる」
「面白いじゃないか」
ニヤニヤと頬を緩ます龍太郎を一瞥して、
「彼が嫌がる事はしないの」
ベッドから起き上がり、脱いだばかりの上着を着直す。
それに、声を聞いて、会いに行きたくなっちゃった。
「その気になってた俺はどうすれば?」
さも辛そうに言うが、まあ、本当に下半身は辛いのかもしれないけど。彼が優しいのは解ってる。
「当分お預けね」
ほほ笑んで、厳ついがハンサムで優しい瞳をした龍太郎の唇にキスを。
「浮気したら許さないから」
ウィンクを残し、彼を置いて元気の元へ。
龍太郎に聞いてもらって、落ち着いたココロが、余裕を持った気持ちが、ココロが浮き立つ様な幸せに震えてる。
これは、元気のココロ。
私も元気を感じて居て、彼の気持ちとリンクする。
共存して居た時よりもリアルに元気を感じられて、不思議と落ち着いて居られる。
早まる足。
そう、あの扉を開けたら元気が居る!
*元気side*
樹利亜が駆け足でこちらに近付いて居る。
それが解る。
自然と笑む顔。
「これからが始まりだ」
俺のつぶやきに、まほろばがうなずく。
言ってる間に、扉が開け放たれ、樹利亜が満面の笑みで飛び付いて来た。
しっかりと抱き締めて、勢い余って倒れる。
うまい具合に布団の上に倒れて、
「元気。思い出したの?」
静かに訊かれ、
「思い出したよ……春」
名前を呼ぶと、小さく揺れて、溜め息。
「寿姉さん」
「姉さん。か、お互いどうして性別を交換して生まれて来たんだか」
柔らかい黒髪に顔をうずめ、
「樹利亜が龍太郎と出逢う為だったのかもな」
くすりと笑うと、同じ様に返る声。
「幸せなのね?」
「あぁ、幸せだ」
胸に抱いた樹利亜の身体を優しく抱き締める。
「なら、春は良い」
樹利亜の鈴の様な声が優しく響く。
「樹利亜は樹利亜の人生を生きれば良い」
身体を上げて、顔を覗いて来る。
「龍太郎と付き合っても良いの?」
「お前が望むなら」
煌めく眩しいくらいの笑顔を浮かべる。
「けど当分清いお付き合いでお願いします」
苦笑い。
樹利亜も声を上げて笑う。
まるで花の様な笑顔。
前世でも現世でも、こんなにゆったりと互いに話した事はなく、
「さぁて、今何時だぁ?」
腹の虫が鳴り始めた。
花の様な笑顔を持つ樹利亜。
俺の、
寿の大切な愛し子。
春に生まれ、花の様なその笑顔に“春”と名付けたのは私。
生まれ変わっても変わらないその笑顔に、胸が熱くなる。
「愛しているよ」
言葉にしていた。
少し驚いた顔をした樹利亜が、それでも花の様に笑みを浮かべ、
「元気。愛してる」
以前にも聞いたその言葉は明るく前を向いた響きに変わっていた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ
零
BL
鍛えられた肉体、高潔な魂――
それは選ばれし“供物”の条件。
山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。
見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。
誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。
心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。
BL 男達の性事情
蔵屋
BL
漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。
漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。
漁師の仕事は多岐にわたる。
例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。
陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、
多彩だ。
漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。
漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。
養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。
陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。
漁業の種類と言われる仕事がある。
漁師の仕事だ。
仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。
沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。
日本の漁師の多くがこの形態なのだ。
沖合(近海)漁業という仕事もある。
沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。
遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。
内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。
漁師の働き方は、さまざま。
漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。
出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。
休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。
個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。
漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。
専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。
資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。
漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。
食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。
地域との連携も必要である。
沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。
この物語の主人公は極楽翔太。18歳。
翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。
もう一人の主人公は木下英二。28歳。
地元で料理旅館を経営するオーナー。
翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。
この物語の始まりである。
この物語はフィクションです。
この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。
【完結】 男達の性宴
蔵屋
BL
僕が通う高校の学校医望月先生に
今夜8時に来るよう、青山のホテルに
誘われた。
ホテルに来れば会場に案内すると
言われ、会場案内図を渡された。
高三最後の夏休み。家業を継ぐ僕を
早くも社会人扱いする両親。
僕は嬉しくて夕食後、バイクに乗り、
東京へ飛ばして行った。
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる