鬼に成る者

なぁ恋

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羅刹鬼

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*ライside*

手に在った魂の温かい光りがボクから離れて行く。
ボクの身体が微かに宙に浮遊し髪が魂の行く方に上がり流れた。

この空間のすべてがまるで時間が止まった様に静止する。




あの時、白蛇は、優しく騙した。
それは全部の罪が彼女に無いと解って居たから。

でも、生きながら喰われた多くの蛇の無念の思いは、止まらない怨念と成って永劫に続いていた。

これは羅刹に、白蛇にとっても辛い責め苦になった。

白蛇は、崇められ神に近い存在に成った。
そこへ現われた多くの蛇の怨念を引き連れた見せ物小屋の一座。

蛇達は群がって助けを求めた。





不幸でしかありえない巡り合わせ。




魂が明るい光りを放つ。
目を開けて居られなくなる程の光り。

純粋な魂は周りの霊気を一掃し、真っ直ぐに羅刹本体へ飛ぶ。
目覚めた空羅寿が羅刹を導きさとす。



在るべき者の
在るべき場所へ



“怨念”を払拭する。








すべてを浄化する。
 
 
  

光りの爆発が鎮まると、訪れた静寂。

気付けば、
太陽が空を照らし、風に揺れる草原に皆立ち尽くしていた。



まほろば、龍太郎さん、元気に樹利亜。
皆が無事で良かった。




空羅寿は背を向け下を見ていた。
空羅寿の足下、そこに有るのは丸い大きな一つの卵。


そよぐ風が頬を撫で行く。


「羅刹」呟いた空羅寿が、屈んでそっと卵を抱える。

それは胎児程の大きさで、彼女の腕にスッポリ と、包まれた。


「空羅寿!」

元気が彼女に駆け寄ると、腕にしっかりと卵を抱えた空羅寿が身体を寄せる。

「大丈夫か?」
「母様、弟妹も居なくなってしまったわ」


城は、怨念の象徴。
浄化されて消え去った。


空気が澄んで、仄かに香る塩の匂い。
塩を含む風が草原を吹き抜ける。


「私に遺ったのは、この卵と……羅刹島」

寂しげに目を伏せる空羅寿を元気が抱きしめる。

「俺と来ればいい!」

赤らむ顔は髪の色に負けないくらいに鮮やかに色付いた。



「ハッ! プロポーズか!」

龍太郎さんの構いに樹利亜の睨みが飛ぶ。

「プロ……違ッ」

益々赤くなる元気。
意味が分からないからか、顔色の変わらない空羅寿の答えは、

「私はどこにも行かぬ」

はっきりと言った。

「ここで、供養するのが私の務めだと感じるから」


サワサワ と、風の吹き抜ける草原に沈黙が漂う。


「ここは私が生まれて沢山の死者が眠る島。生き残った最後の私が皆を想って生きて行くが相応しい場所」

強い決意に満ちた言葉。
 
 
  
*元気side*

凛と佇む空羅寿。
それはもう触れる事が出来ないくらい綺麗で……ココロを持ってかれた。

「なら俺もここに残る」
「元気?! 何言ってるの!」

樹利亜の気持ちも解るけど、もう樹利亜に俺は必要ない。

「駄目よ」

否定したのは空羅寿。

「何で?」
「羅刹が憎んでいた。貴方は男性だもの」

寂しくほほ笑んだ空羅寿。

「そ……だけど。女性だった時もある!」

不思議そうに首を傾げる彼女に、必死に訴える。

「俺は前世女だったんだよ」

「私が羅刹の母親だった様に?」

「そうだ」
「でも母親の気持ちは解らない」
「解るさ。一人息子を遺して死んだ」

彼に名前も遺さず、愛しい男性の下へ行った。
思い出して胸が苦しくなる。思わず痛みを覚えた胸元を押える。

宗寿そうじゅと名付けたわ」

樹利亜の言葉が耳に届くと、何故か涙が零れた。

宗寿。
柔らかい肌。彼によく似た赤に近い夕陽色の髪。
開いた眼の色が、濃い黄金だったのも覚えている。

思い出した。と言うべきか?

頬に触れる指を感じて我に返る。流れる涙を空羅寿が拭ってくれてた。
その手を取り口元に寄せる。

「俺は、君の気持ちが痛い程解る」

真剣に、ココロからそう想えるから。

「“共感”と“愛情”とは別物。貴方は錯覚しているだけだわ」

空羅寿は、俺の気持ちを端から気のせいだと決め付けるつもりか?

いや。伝わる思いは、男性不信。
羅刹の父親の不誠実のせいで母子不幸になった事が芯になって信じ切れないんだ。俺の事も……

「宗寿。良い名だと思うわ」

それはココロからの思いで笑みをくれた。
空羅寿。どうしたら俺を受け入れてくれる?
 
 
 
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