鬼に成る者

なぁ恋

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羅刹鬼

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*元気side*

空羅寿を見ているだけで、こんなにもときめいてココロが苦しい……人を好きになるのは、よく考えたら初めてかもしれない。

前世の寿の恋は、相手が居て居なかったみたいなものだからな。
今考えたら恋に恋してた……みたいな。
あれはあれで真剣だったんだけどさ。

相手が居て相手も俺を想ってる。みたいなのは、どうしたら良いんだろう?

「ここに住むわ。雨風がしのげればいいから」

暗い洞窟。余りにも殺風景だ。

「ほら、この奥に高くなった場所があるからそこで眠れば良いし、そうだ! 卵の寝床も作らなきゃ」

黙る事なく話し続ける空羅寿。

「布団も無くなったから柔らかい大きい葉っぱがあるの、それを取ってきましょう。
この島は四季が有って無い様なものだから寒かったり暑かったり……」

「空羅寿」

「あ! 気にしないで。この島で暮らすのは慣れているもの」

無理してる。
こんなに広い島で独りで大丈夫なんて嘘だ。
考えずに、後ろから抱きしめていた。

「俺、空羅寿の――「元気!」

言葉を遮った空羅寿が、霧に成って出口に形戻る。

「まだ明るい内に葉っぱを取りに行かないと……貴方が居る内に」

そう言ってまた霧と消えた。
クソッ! 逃げられた!

逃げられた?

彼女のココロを読むのは容易いのに、気持ちを捕らえるのは何て難しいんだっ!

でも、逃げられたって負けるもんか!
俺は元気が取柄の元気なんだ。
簡単には逃さないからな!
 


  
*樹利亜side*

ムカつく。
元気との繋がりが完全に切れてる。
元気が空羅寿に想いを寄せた途端に切れた。

「何か、腹が立つ」
「プッ」

龍太郎が吹き出した。

「何?」

睨むと、優しい笑みが返って来て毒気を抜かれる。

「これで俺だけを見て貰える」

言葉と共にココロのこもった口付けをされて……

「分からないわよ? 私気が多いもの」

島を見渡せる高い岩場に座って居た。
ここは美し過ぎる。空気も美味しくて、開放的な気分にさせる。

あぐらをかいて座る龍太郎の膝にまたがり向かい合う。

凛々しい顔。輪郭をなぞり、彼の顔を胸に押し付ける様に抱きしめる。
硬い髪が頬を擦る。目の前には白い一本角。
思わずその角に口付けると、龍太郎の全身が震え、胸に当たる彼の唇が動く。
敏感な場所を探るから、甘い声が零れた。


視界に広がる美しい島の風景が一転し、澄んだ紺碧の空が映る。
その空が龍太郎に隠れて私の瞳に映るはもはや彼だけ―――



私のココロを支配するのは、もう、愛しいこの男性だけ。



「龍太郎。貴方だけを愛するわ」

「樹利亜。もう……待てない。お前だけが、俺のただ一人の女」


それは、甘い約束。
 
* 
 
   
*空羅寿side*

霧になり、目的地まで一気に着く。
抱いた卵を落とさない様抱え直すと、目の前にある茂みに入りひたすらに足を進める。

彼を、どんなにココロが求めていても、絶対にダメ。
どうしてか元気の事を考えてしまう。

茂みを抜けると、そこは全体的に大きな木々が茂る林。
見上げて、私が隠れる程の葉っぱを目認する。

「どうしようか?」
「俺が取ってやるよ」

後ろから彼の声が聞こえて驚いた。

「俺は“千里眼”って能力を持ってるから空羅寿をすぐに見つけられる」

出逢いを思い出す。
突然私の視界に飛び込んで来た彼の姿。
夢幻ゆめまぼろしかと思っていた。
けれど、二回目に視て、三回目で本人が現われた。

優しく素敵な男性。
時間を過ごす程離れがたく、欲しい気持ちがココロを支配する。
まだ出逢ってから時間もそんなに経っていないと言うのに。

「時間なんて関係ない。俺はこうして出逢えた事が運命だと思ってる」

低く心地好い声が耳に、ココロに響く。

「貴方は、私の思っている事が分かってるみたい」
「うん。ごめん。鬼は人のココロが聞こえるんだ。“同族”の、みたいだけど」

苦笑する元気に、何故だか笑わずにはいられなくて……

「笑った方が良い。空羅寿は、可愛い」

何て、言葉を使うのだろう。顔から火が出るのかと思った。
不意に彼の顔が近付いて来て、驚いて目をギュッと閉じる。
頬に触れて離れる柔らかい感触。

それは、頬に触れた唇。彼の唇。
開けた眼に映るは、彼の優しい笑顔。

私のココロは、もう彼で一杯になった。

運命だと言われて、優しく私だけに向けらた笑顔に囚われたココロ。

そう。私は元気が、元気の事を……

「大好きだよ。空羅寿」

彼の笑顔は太陽。
その暖かみを知ってしまった私は、もう、離す事が出来ない。

「私も……」

そのまま、抱きしめられた。
 
 
 
 
 
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