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夢乱鬼
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しおりを挟む春は出逢いの季節。
冬は……別れの季節。
乱れる雪の結晶。
流れる大気は緩やかに季節を運ぶ。
それが判るのは、目に見えるから。
心眼に視えるものは、普通には解らない。
視界から判る事は、幻の様なもの。
心眼に写る真実は、それは限られた者にしか解らない。
目に写る雪はただ白い綿毛の様で、
ミクロの形、真の結晶の美しさは見る事は出来ない。
人の内側は、目には見えず、心眼で視る憶測だけ。
それは正に熱に溶ける雪の様に不確かで、夢の様に曖昧。
冬は、春を待つ為に必要な季節。
別れは出逢いを誘い、出逢えば別れは必ず訪れる。
例外は、少数。
永遠は、憧れ。
夢は人のココロによって乱れ、乱れた者は鬼に近付く。
夢乱鬼
****
………………………
*道彩side*
雪がちらつく。
まだ本格的な寒さが来たとは言えない12月中旬、一つの命が消えかけていた。
空を見上げる。
雪はまるで雲の生み出した子どもの様で、頬に落ちる雪の冷たさに筋肉が動く。
親とは居て当たり前だと思っていた。
子はそれを見届けるのが定め。
「逝くのですね」
眼に写る風景はどこまでも限り無く続く。
「道彩」
優しい声色。
「ライ様」
振り向くと、銀の長髪を輝かせた彼が立って居た。
「父は?」
「もうすぐです。来て下さい」
招かれて素直に家に入る。
私が生まれた家。
匂いがある。
父の、市松の者の匂い。
深く息を吸う。
忘れ無い様に、市松は私の原点。
父の部屋の襖を開けると、横たわる父と、回りを囲む知った顔々。
「道彩……こちらへ」
父の弱々しい声。
龍太郎と虎之介の間に座り、伸ばされた手を取った。
「よく、今まで尽くしてくれた」
「父さん」
「そしてまた、辛い想いをさせるな」
複数の意味が有る。
「最後の仕事です」
頷いた父の手を握ると、その頭上に座る銀の鬼が導くに任せて眼を瞑る。
そして、内に眠る力を開放する。
金の鬼に。
「……道彩。その姿は……美しいな」
父のココロからの呟きに笑顔になる。
死に逝く父の亡骸をこの地の護りに成す事。それが市松家での最後の仕事。
銀の鬼が父に手を翳すと、胸から光る御霊が出て来る、白く光る魂の中に、赤い珠が揺れる。
「さらばだ」
父が最期の言葉を残し、魂が抜ける。
その御霊が銀の鬼の導きによって天へ昇る。
愛しい魂と共に。
遺る亡骸の両手を握ると原子に砕き、白い粉に成った父をこの土地と、空気に混ぜる。
開け放たれた戸窓から一陣の風が、父を自然に返した。
冷たい風が、温かく感じられた。
死すると市松の地の一部になる。それは市松家に生まれた者の定めであり、誇り。
魂は天に、器は地に戻る。
「これで代変わりですな」
静かに座して居た皆の中で口を開いたのは、年長の弟。
「道彩が跡を継げば良い。角が有る鬼で何より長男だからな」
「龍太郎。跡目を継ぐのはお前だよ」
角を持って帰った私に父は驚きはしたが、今後について口にはしなかった。
元々、角瘤を持って生まれた龍太郎が継ぐ事に決まっていた。それに、
「私は養子に行く事に決まっている」
驚く顔と声。
市松の兄弟と、ライとまほろば、その血族の元気。虎之介と龍太郎その恋人の大輝と樹利亜。
市松の、この地の“護り”は完璧。
「今回の事で北の鬼が、あちらの跡目が殆ど居なくなった。角を持つ者は幼い子ども一人。
もう決まっていた事で、その子どもの教育係り的役割で、あちらに行く」
溜め息と、反対する声。
「北の地は私には想い深い場所でもあるしな。それに、金と銀の鬼は、その役割を思うと共に居ない方がいい」
地獄の入口など、開けて良い事はない。
「それは、でもっ!」
「ライ様。口約の為に生まれた地に縛られる鬼がその地を離れる。滅多に無い幸運です。
私も100を越える年寄りですから、役立つ為に、請われる場所に行くのは幸せですよ」
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「償いです」
龍太郎が口をつぐむ。
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