鬼に成る者

なぁ恋

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夢乱鬼

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「さあ! 行くわよ」
堤が目で合図し外へ飛び出すと、末将が嬉しそうに後を追う。

「あんたが気にする事はない。俺は俺で幸せなんだから。ただ、華子様を彼女を悲しませないでやってくれ。」

その言葉に強い意思を持って頷いた。

二人は大型バイクにまたがり軽やかなエンジン音を上げて出掛けて行った。
運転は堤で後ろに末将。彼は運転が苦手だと言っていた。私の迎えも弟が運転手だった。

二人を見送りながら思う。
愛にはそれぞれ形がある。
月頭の者や、ライ達。皆自分達の形を見つけて育んで行く。

私の形は?

私は気が長い方だ。
横に立つ幼い姿の可愛らしい女性の成長を根気良く待つつもりだ。

「そんなに待つ事はないかもしれませんよ?」
細い指先が私の指に絡められ、強く握られる。

「貴女の美しく成長する姿を見るのも楽しそうだと思いましたが?」
身を寄せて来た華子が小さく吐息する。
    
「女性のは昔から早いものです」
上目使いでこちらを見る華子は可愛らしく、だが、その美しい空色の瞳は成熟した女性の持つ自信に溢れて居る。
初めて彼女を見た時から、見姿の幼さ等気にならなかった。“華子”と言う存在に私は惹かれて居たのだから。

「ゆっくりと育みましょう」
「道彩。しつこい様ですが、私は貴方よりもかなり年上。それでも良いのですか?」
何度目かの華子の問いに女性ならでわの悩みなのだと感じた。

「私には丁度良い。それに、貴女が気にするから告白しますが、“魂”の年齢を言えば私の方が年上ですよ」

そっと柔らかな金髪に触れ、視線を合わせた二人の間に笑みが生まれた。二人で居る時間はとても自然で温かく、未来が想像出来た。
 



 
*ライside*

赤い髪がさらりとその人の肌を滑る。
その額には二本角。
伏せられて居た眼がこちらを見ると、金の瞳そのものがまるで光を発して居る様に輝いて居る……見つめられると苦しくなる。息が出来なくなるくらい、見とれてしまうから。

「まほろば……腕は痛くない?」
「何も? こうしてライを抱けるくらい、支障はない」
まほろばがボクの肩を抱き、引き寄せられる。その左手が、器用に服のボタンを外して行く。
それを目にして笑みが零れた。“造り物”とは思えない腕。
実際は“再生”された。と言った方が良いのかもしれない。
呑気に考えて居ると、首筋を撫でられ、躰が跳ねる。

「ライ、良いか?」
耳元で囁かれて、思わず喉を鳴らす。
フッ とまほろばの吐息の様な笑みにくすぐられた首筋に唇が触れた。舐められ、次に、甘い……痛み。

「まほろば……」
彼の名は、甘い飴玉の様にボクの口内を転がり、その存在は、ボクを夢中にさせる。

体内から流れ出る血潮は、まほろばを満たす。
ボクがまほろばを満たす。
彼の体内を巡る。
まるで、一つに成った感覚。




突如思い出す。
朱色の鬼の血がまほろばを狂わせた。
その血が彼の中を巡った。

「ハァアァァ……」

まほろばの腕を奪った。

「……ライ」
呼ばれ、瞬きをする。

「あ?」頬を伝う涙に気付く。
「ライ。泣くな」
まほろばが優しく涙を拭う。

「何もいらない。ボクは、まほろばだけがすべて……この温もりだけが欲しい」
まほろばの左腕を擦り、確認する。それは温もりの通う腕。
  
でも、を奴に奪われた。
金と銀の鬼。
想像もつかない力を持った朱色の鬼。
 
 
まほろばが下を向いたボクの顔を上げさせ、視線を合わせる。

「確かに地獄で何かが起こっていて、それに係わった。だが、もう過ぎた事だ」
「でも……」
続く言葉は唇で塞がれた。

―――まほろば。

「黙って。何も考えるな……」

まほろばの呼吸が、体温が、ボクを包む。

―――名前を呼ばせて。
「まほろば」
唇が微かに離れた隙間から彼を呼ぶと、返事をする様にまた唇を塞がれた。

まほろばの左腕は元からそうであった様にそこに在って、夢の様にボクを撫でる。
彼の熱がボクを燃やす。

「ライ……」まほろばが呼ぶのはボクの名前。
魂に染み付いた名前。
名前を呼ばれる度に躰が魂が震える。
「まほろば―――」
ボクはまほろばに支配されたい。
まほろばの、彼の存在がボクを形作る。

触れられた箇所が熱を持ち、躰から見えない炎が立ち上ぼる。
それはまほろばの赤い髪に揺られて、天高く飛んで行く。
ボクの意識、五感は、まほろばだけを感じて、幸福感に包まれて行く。

どこまでも、
いつまでも、
ボクの隣りにはまほろばが居て、それは変わらないと願い、信じて。




だから、
まほろばが腕を失った時、永遠はもしかしたら無いのかもしれない。
いつかは居なくなってしまうのかもしれない。

そんな恐怖に囚われた。
不安で、押し潰されそうになった。


まほろばは“恐怖”に打ち勝ってボクを待ったけれど、
ボクがまほろばを失ったら……待って居るのは奈落の底。

朱色の鬼へと変貌するだろう。


「ライ」まほろばがボクを呼ぶ。
愛しさが伝わって来る。
「まほろば」ボクはちゃんと、愛を伝えられて居るのだろうか?

まほろばが、時間ときを越えて愛を現してくれた様に……。
 
  




*まほろばside*

「ライ。愛してる。」
懺悔にも似たライの想いが切なく俺に伝わる。
彼の手を取り口付け、その手を辿り、肩を甘噛む。
「あぁ!」ライの叫び声が耳に響く。
“食事”をした甘く噛んだ首痕に舌を這わせ、くすぐる青い髪を顔に押し当てる。
ライの匂い。甘い彼の匂い。
ライの存在が俺を確かなものにする。
ライの唇から零れる俺の名は特別。

“まほろば”この名の由来は“理想郷”地獄から地上へ出る時、ライが俺に名付けた。
元の名がどうであったかは覚えて居ない。

“まほろば”は、特別。この地を現す名前。
だからこそ俺はライと共にこの世界を選んで残った。

目覚めてからそれ以前の事“地獄”の事は殆ど覚えて居なかった。
思い出すのは断片的で、その殆どがライと交わした言葉やライの姿。
現在いま過去むかしも俺の大切な宝はライだけ。

口付ける。
ライを、ライのすべてを自分のものにする為に。深く、深く。
彼を貪る。


ライが、「まほろば……」俺の名を呼ぶから。




失くした左腕が蠢いた。地獄の淵で左腕が叫びを上げて居る。
そう感じるのは気のせいだろうか?
何故今更“地獄”が口を開いたのか?
嫌な予感がする。

いつまでもこのままでと願うのは、その予感がするからだろうか?
何か起こる様な。予知にも似た感覚。

だが、今はライのすべてを感じて愛を交わそう。
ライの頭上に有る一本角をねぶると、ライが悶える。
“角”はその人そのもの。

「ライ」
「まほろば」

互いの名を呼ぶ。それがすべて。
二人だけの確かな世界で。
 
 
 
 
 
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