鬼に成る者

なぁ恋

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影鬼

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*元気side*

ケータイから鬼気を感じた。
伯母の不安と戸惑いの気持ちも感じられた。

あんな話をしてまともに信じる者も居ないと判っている。

伯母を説得する気もなくて、ただ真実を言っておきたかったから話したまで。それが別れてすぐ“鬼退治”の話。

これもまた繋がりだろうかと首を傾げる。

鬼は鬼を呼ぶ。

それはあながち嘘じゃない。と証明する様な出来事。
何にせよ、行けば判る。
“鬼”絡みである事に間違いないのだから。






静かな廊下に響く足音。県病院にその少年は入院していて、ナースステーションから見える場所に少年の病室があった。

病室前の長椅子に母親は座っていた。

「心子さん」
伯母の声掛けに顔を上げた母親は憔悴しきっていて、今にも倒れそうな雰囲気だ。

「すみません。誰に相談すれば良いのかも判らなくて……無断欠勤も、すみません」
「良いのよ。理由が理由だし……大丈夫?」

伯母が手を取ると立ち上がるがよろめく。

「何があったの?」
「……えぇ。部屋から出た途端、裕理ゆうりの身体から血飛沫が飛んだの……何が何だか判らなくて」

もう一度座り直すと、伯母はその隣りに座り背中を擦ってやる。

「あっという間の出来事で……」
震える身体がその恐怖を物語って居た。

「今どうして居ますか?」俺の問い掛けに顔を上げた宮崎さんが、目をしばだたせる。

「え? 元気くん?」
「はい。お久し振りです」
「本当に、久し振りね。貴方が何故?」
「専門家なんです。こう言った事柄の」

宮崎さんは、息子と二人母子家庭で暮らしてる堅実な女性で、俺にも優しくしてくれた。

厳しい伯母と正反対の母親を感じさせてくれた人だ。
 
 
「今息子さんはどうしていますか?」

「あの子は……今は安定していて眠ってます。部屋を暗くして、機械も布をかぶせて光りが漏れない様にして頂いて。
あの子の影に鬼が居るんでしょうか?」

影に棲む鬼?

「部屋に籠ったのは何時からですか? 影を怖がる様になったのはどうしてか心当たりありますか?」

少し考えた宮崎さんが、口を開く。

「“影踏み鬼”を、裕理が小学四年の時、近所の公園でしていたのだけど、その時年上の女の子が亡くなった事故があったの。
裕理は見てたみたいで、でもショックが酷くてあの時の事も女の子の事も忘れてた」

でも、と、首を振って、
「引き籠もる前に、言ったのよ。ぼくの影は“鬼”に踏まれてたんだ。って」

影踏み鬼は文字通り、鬼が影を踏むと踏まれた者が次の鬼に成る。
いわゆる“鬼ごっこ”皮肉だが、人間の間には、“鬼”に関する事柄が多数残されていて、子どもの身近な遊びにもそれが潜んでいる。

「部屋に入っても?」
「えぇ、大丈夫です。壁際にベッドは据えてありますから」

許可を貰うとすぐさま扉を開け、閉じる。


ピッピッ―――と言う機械音と、包帯を全身に巻かれた裕理の身体が闇に溶ける様にあって、“千里眼”を使うまでもなく、眠る裕理の胸に人型の塊が“白い影”が乗っていて、それは鬼気を発して居た。

だが、不思議とその影は動かない。まるで裕理と一緒に眠って居る様に。
 
 
 
静な暗闇の空間。

裕理、君の過去を、問題を読み解く為に“千里眼”を使うよ。
横たわる裕理の身体に触れる。
眼を瞑り、集中する。

過去へ、過去へ、裕理の意識下へ潜る。


****
………………………

*裕理side*

圭子けいこちゃんが鬼だよ~」

肩までの長い黒髪を可愛いシュシュで一つにまとめた六年生のお姉ちゃん。

ぼくは鬼になりたくなくて、駆け出す。

「待って! 公園の外に出ちゃダメ!!」

言っている意味は判ってた。けど、振り向く事なく公園から駆け出す。

それはあっと言う間だった。

ぼくの目の前に自転車。スピードが早く、驚いたぼくは身動き出来なくて、圭子ちゃんがぼくを引っ張って反対に自転車の前に飛び出す格好になった。

次の瞬間には、圭子ちゃんが空を飛んでた。


自転車に跳ねられて、頭から道路に突っ込んだ。圭子ちゃんの頭を中心に水が溢れて、よく見るとそれは“血”で。血溜まりに長い髪が浸されてふんわりしていた髪がべとついている。



悲鳴を上げる。
ひたすらに叫ぶ事しか出来なくて、

圭子ちゃんをいたわる事も助ける事も出来なくて。
ぼくの代わりに圭子ちゃんは死んだんだ。

なのに、ぼくが見ていたのは、圭子ちゃんの血溜まりに重なるぼくの影。

ぼくは“鬼”になった。
鬼に。

そこで、その時の記憶は途切れ、長い間忘れていた。


忘れる事で罪の意識から逃れて居た。

ぼくは最低で卑怯な人間だ。
 
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