鬼に成る者

なぁ恋

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地獄鬼

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身体が、
熱い熱い熱い。
燃える燃える燃える。

ココロが、
苦しい苦しい苦しい。
憎い憎い憎い。


なのに、
愛しくて。
求めて止まない。

お前は、俺の愛しくて憎いただ一人の……―――。
ただ一人の大切な片割れ。

その名は、ライ。
 
 


地獄鬼じごくおに




****


*ライside*

  
夢だと判っているのにやけにリアルで、心音が痛い程早く鳴っている。

「ライ。大丈夫か?」

まほろばの優しい声色。
夢の彼は、悪意の籠った震えてしまう程に恐ろしい声で……。

「うん。大丈夫だよ」

夢だから。
夢の筈だから。

「また夢を視たのか?」

黙って頷く。
この夢は、何故かまほろばには読めない。
ココロを読む事が出来る。それは夢も共有出来る筈。なんだけど、この夢だけはまほろばには視えない。

ボクの作り出した夢なのか?
それだって自分がガードしない限り、まほろばには判る。

まほろばに対してココロは開放しているんだから、何でそうなのか解らない。

内容が内容だけに、無意識に見せない様にしているのかもしれない。

まほろばから憎まれて居る。そんな夢なんて。

「辛そうだ」

まほろばの気遣いに笑って誤魔化す。
この数日同じ夢を毎夜視る。だから深く眠れてなくて、寝不足が続いてる。
一緒に眠るまほろばが常に癒してくれているから、身体は疲れて居ない。

辛いのは神経。
頭が疲れて、動く気になれない。

「珈琲でも淹れよう」

「ありがとう」





まほろばの腕が完治した数日前に、自宅へ帰っていた。

その前日くらいから視始めた“夢”
自分なりに分析した結果“もしも”まほろばがボクと再会出来なかったら。

再会出来ずに眠りから目覚めてしまったなら、結果は、憎しみにココロ壊れてしまうんじゃないかと。

そう言ったボクの想像が作り出した夢なのかな?

まほろばが“朱色の鬼”に呑み込まれそうになった時、あの恐怖は忘れられない。

まほろばを失ってしまう。あの、恐怖!!
 


布団に寝転んだまま、眼を閉じる。

「「ライ!!」」

ほら、ボクを呼ぶ声が聞こえて来る。
夢の中のまほろば。

薄暗い空に長い爪の生えた両手を伸ばして、赤い長髪を振り乱し、額に掲げた二本角は長く捩じれていた。

「「ライぃい―――!!」」

その声は悲痛で、ボクのココロを引き裂く。

「「ライ―――お前はどこに居る? お前は俺を狂わす。
約束は、いつ実を結ぶ? 俺はいつまで待てばいい??」」

切なくて、夢のまほろばに答えていた。

「ボク等は、一緒に居るよ」

夢のまほろばの動きが止まる。
背中から視ていた。
その顔がゆっくりとこちらを振り向く。
左目は金、右目は赤く光っていた。
その両目から流れ出る赤い涙が、頬を流れ、首から下の裸体まで赤く濡らす。

違う?
肌が、朱色?

あれは前世に見た、初めての朱色の鬼を思い起こさせる姿。

「「ライ?」」

呼ばれ、意識が夢のまほろばへ。
視線が合う。
 
「「。ライ―――お前は、俺のもの。
誰にも渡さない。
渡さない。

お前は、俺のものだ―――……」」

心底から震えてしまう様な暗く悪意の籠った声色。

動けずに、浅く息を吸う。




「ライ?」

まほろば。まほろばの声。

まほろばの……。

涙が溢れ、嗚咽する。

夢なのか現実なのか?
その境目が判らなくなっている。

目を開けると、心配げにボクを見つめるまほろば。堪らず手を掴み、引き寄せる。

「まほろば!」

ボクを包む温かい腕に安心して、でも、涙は止らない。
 



  
*まほろばside*


ライの憔悴しきった顔。
俺が治ったのと交代にライに変化が生じた。

“夢”を視ると言う。

内容を教えてはくれず、

としても、覗く事さえ出来ない。

一緒に横になり身体を癒す。けれども、心体は一体。どんなに身体を癒しても、弱る神経、ココロは癒せない。
一瞬は楽に出来ても、また夢を視れば元の木阿弥。
珈琲を作りに行った間に視たのか。

抱き締めると、抱き返される。
泣いて震える肩。

何があった?
固く口を閉ざして話そうとさえしない。

「まほろば」

ライの口から零れた俺の名は、何故か違う誰かを呼んだ様で―――。


「ライ?」

が……迎えに来る」
言ってから、また、深く深い眠りに堕ちた。
ライの力の抜けた身体を支えて考える。

“まほろば”が迎えに来る?

不可解なつぶやきに首を傾げる。

「ライ。何を隠してるんだ?」
眠る愛しい人の頬を擦る。
その瞼から一筋の涙が零れ、俺の手の甲を濡らす。
俺の、新しい左手の。


あの時の感覚。
体中の血液が沸騰し、悪意が、俺の中の“悪”そのものが俺を呑み込んだ。


あれは、あの感覚は、麻薬の様に簡単に体を支配した。
ライが居なければ、今の俺は存在して居なかっただろう。
それこそあのまま地獄へ戻っていたかもしれない。


ライ。何があったんだ?
助けを拒まないで、俺を受け入れて。
ライは無意識に俺を締め出している。
そこまでは判る。

神経を磨り減らしてまで隠して居るのは何だ?
 
 
 
抱きすくめ、癒す。
それしか出来ず、口端を噛む。

―――迎えに来る。

そう言ったライは、どこを見て居た?


何か、不吉な予感がする。

ライを失いそうで……恐ろしい。

もしもまた失う事があったなら、俺は俺で無くなるだろう。

俺はそんなに強くはないから、二度は立ち直れない。それどころか……朱色の鬼に変貌する。そうなる確信がある。







ざわざわと首の後ろが逆立つ。
嫌な感覚。悪意に満ちた意思、その存在しなかったものがこの地に現れたのを感じた。

肌に感じる存在感。

それはそう遠くはない場所。


!!


場所。あれは、昔の住家。

地獄の入口。









*元気side*

空気から澱みが感じられる。
なんとも言えない悪意に満ちたものが突如現れた。

「元気!」

ベランダから顔を覗かすまほろばの腕には青い顔をしたライが眠って居た。

「まほろばも感じたのか?」

布団から起き上がり、まほろばを手招く。
ライを俺の横に寝かせて、ライを挟む様にまほろばも座る。

「始めに感じて居たのはライだ」

珍しく苦痛をあらわにした表情に、まほろばの困惑が解りやすく、

「ライが? この所体調が悪かったんだろう?」
道彩のとこから帰宅してからすぐ、見るからに辛そうで大半を家で過ごして居た。
    
「もしもなら、大変な事だ」

まほろばがかぶりを振ると、

「地獄の入口が開いた」

思わぬ事を言われて絶句する。

“地獄の入口”
 
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