海辺の光、時の手前

夢野とわ

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真夏の情景

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夏の朝、母が朝からカレーライスを作っていた。昼と夜にも食べられるから、朝のうちに作っておくと、便利なのだと、母が言った。
「朝もカレー?」と、僕が聞いた。
「ううん。朝はお味噌汁が作ってあるから」と、母が言った。
僕の母は、多代子という。僕の名前は、高梨幸人だ。
「あげの入った味噌汁?」と、僕が聞いた。
「ううん。おネギが入ったのだから……」と、母が丁寧に言う。
母は品が良い。父も色々女の人に、お金の関係でだまされたが、母を本当の人に選んだのは、良かったと僕は、思う。
それから、僕らはだらだらとテレビを付けて、見ながら食事をする。
「環境汚染だって」と、僕がテレビを見ながら言った。
「うん。空気が汚くなるのね……。肺に入るとか、こわいわ」と、母が言った。
僕の母親は、こうして、朝から僕の話しに色々付き合ってくれるのだ。
窓の外の、緑が静かに揺れている。
母は、ことりと音を立てて、味噌汁のお椀を、テーブルの上に置いた。
僕は朝食を黙々と食べる。やはり母の作ってくれたご飯は美味しい。
「そろそろ学校に行こうかな? 今日も暑くなりそうだし」と、僕が言った。
「うん、行ってらっしゃい。幸人くん、気を付けてね」と母が言った。
僕の母は、僕にいつも「くん」を付けて呼ぶ。そのことがなぜか嬉しい。
「それじゃあ行ってきます」
「うん。ずっと家にいるから……」


一歩外に出ると、汗が出てきた。今日もとても暑い一日になりそうだった。僕は息をはきながら、
新見高校に向けて、坂を登って行った。白い後ろ姿が、ゆらゆらと陽炎と混ざってゆれている。
有紀、長谷川有紀の後ろ姿だった。
「長谷川さん?」
「あっ、高梨くん……」
有紀がそう言って、にっこりと笑った。一瞬だけ涼やかな風が吹いたような気分になる。
「暑いね。今日何度あるんだろう」
「三十一度」
有紀がそう細かいことを言う。
そのまま僕らは、新見高校に向けて歩いて行った。
夏の花が、住宅街に静かにゆれている。
僕らは、校門をくぐって行った。
教室に着くと、有紀が金魚鉢に向かって行った。金魚が、プカプカと泡をはいて、ゆったりと自由に泳いでいる。
「エサもうあげたのかな?」
「まだだと思う」
有紀はしばらく、あごに手を当てて考え始めた。
「たまには、エサあげてみたいんだけど」
「いいんじゃない。ちょっとくらいだったら」
有紀はそのまましばらく考えて、金魚のエサをあげはじめた。金魚たちがいっせいにエサをめがけて泳ぎ出す。
「早い」
「うん。早いよね。お腹空いていたのかもね」
それから、僕らは、席に着いて、しばらくじっとしていた。
新見高校の、木々がさやかに陽に当たり揺れている。
僕は、少し吹き出す汗とともに、眠気を覚えた。
「ねえ」と、有紀が言う。
「何?」と、僕が言う。
チクタクチクタクと、時計の秒針が進む音がする。そうしていると、同じ同級生の、南条広人が教室に入って来た。
「どもー。おはようっす!」と、広人が言った。
「え?」と、僕が言った。
「あっ、長谷川さんがいる。めっちゃ美人。美しすぎる」と、広人が少し疲れた顔で言った。
「ありがとう」と、言って、有紀がにっこりと笑う。
そのまま、広人につられるようにして、生徒たちがづらづらと教室に入って来た。有紀が少し疲れたような顔をしていた。僕は、席に着いて、少し目を閉じた。
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