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ロマンスグレーとジミヘン
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講義が終わりの時間になると、立花が近づいてきた。
「みきと君。ギター上手くなった? レスポールタイプのギターあげたんだから、ちゃんと練習してよね」
「うん、まあまあ。本当に、まあまあ……」
僕がまあまあを繰り返すと、立花が、ふふん、と笑った。
立花洋子は、大学の「現代ロック研究会」という、軽音楽サークルに所属していて、僕に要らなくなった、ギターをくれたのだ。
立花洋子は、入学式の席で、隣に座っていた女性だった。少し話しがはずんで、どこのサークルに入りたいだとか、国文科に入ったからには、好きな作家とか文豪は誰か、という話しをして、親しくなった。
立花は、その後勧誘されるがままに、現代ロック研究会に入り、今は三年間続けた、女性ベースを担当している。
僕は、結局どこのサークルにも、入らなかった。
「貸した、ジミ・ヘンドリックス聴いた?」
「うん、それはちゃんと聴いたよ」
そう言うと、立花が、ふふん、とまた満足げに笑った。
「就職活動、大丈夫みたいね。内定でそうだって。おめでとう、みきと君」
立花が、遊びすぎて落ちたりしないのよ、と好きなことを言って、そのまま教室から去って行ってしまった。
僕は、しばらくまたぼんやりとすると、そのまま後を続けて出ていくように、教室を出た。
次の講義まで、二限空いているから、街へ出た。
近ごろ、気になる雑貨屋が出来たのだ。
街へ出ると、牛丼店とか、ゲームセンターとか、あちこちで人が賑わっていた。
珍しく僕は、いらいらとしていて、平日の昼間なのに、なんでこんなに人が多いのだろう、とか、思っていた。
牛丼屋に入って、珍しく安い牛肉を食べた。普段は、あまり入らないのだが、急に空腹をおぼえたのだ。もそもそと米を食べていると、かれんのことが急に頭にうかんだ。
かれん。
そう、かれんは、モーツァルトのピアノ・ソナタと、ドビュッシーのアラベスクが、好きだった。
あの後、高校を卒業するあたりから、僕はクラシック音楽とか、ジャズを聴き始めて、いっぱしの音楽通を、気取るように、なってしまった。
ドビュッシーの、CDやレコードも、色々集めて聴いた。
夜中に、その静謐な音楽を聴いていると、かれんの思い出が、清潔な感情のまま、甦ってくるのを、感じた。
かれん。
そう、彼女は、初めて会った時から、僕のことを好きであったに違いないのだ。
それは、仄かな姉のような心であったのかもしれなかったが、それは僕も同様であった。
ぬるい冷たい緑茶を、コップから飲み切ってしまうと、そのまま店を出た。
そのまま、疲れが抜けない体を抱えて、ふらふらと都内の街を歩く。
その雑貨屋は、元レンタルビデオ店と、レコードショップを兼ねていた、店を潰した後に出来たので、色々と、音楽のものが、充実している店だった。
内装も、無機質な音楽ショップのようなものではなく、木の温もりがある、都会としては、珍しいお店だった。
最近は、インターネットのウェブ・マガジンにも、洒落た店として、取り上げられるようになった、らしい。
月末には、音楽好きの客を集めて、お茶とお茶菓子を出して、「音楽カフェ」の集会のようなことも、催しているらしい。
僕は、そこまでしなくても、とお節介なことを、思っていたが、それも人気の理由の秘訣のようなものになっているらしかった。
そう――思いながら、雑貨店に来た。
あと、一限ちょっとで、また大学のキャンパスに、戻らなければいけなかったので、ちょっと見たら、帰ることに、決めていた。
「みきと君。ギター上手くなった? レスポールタイプのギターあげたんだから、ちゃんと練習してよね」
「うん、まあまあ。本当に、まあまあ……」
僕がまあまあを繰り返すと、立花が、ふふん、と笑った。
立花洋子は、大学の「現代ロック研究会」という、軽音楽サークルに所属していて、僕に要らなくなった、ギターをくれたのだ。
立花洋子は、入学式の席で、隣に座っていた女性だった。少し話しがはずんで、どこのサークルに入りたいだとか、国文科に入ったからには、好きな作家とか文豪は誰か、という話しをして、親しくなった。
立花は、その後勧誘されるがままに、現代ロック研究会に入り、今は三年間続けた、女性ベースを担当している。
僕は、結局どこのサークルにも、入らなかった。
「貸した、ジミ・ヘンドリックス聴いた?」
「うん、それはちゃんと聴いたよ」
そう言うと、立花が、ふふん、とまた満足げに笑った。
「就職活動、大丈夫みたいね。内定でそうだって。おめでとう、みきと君」
立花が、遊びすぎて落ちたりしないのよ、と好きなことを言って、そのまま教室から去って行ってしまった。
僕は、しばらくまたぼんやりとすると、そのまま後を続けて出ていくように、教室を出た。
次の講義まで、二限空いているから、街へ出た。
近ごろ、気になる雑貨屋が出来たのだ。
街へ出ると、牛丼店とか、ゲームセンターとか、あちこちで人が賑わっていた。
珍しく僕は、いらいらとしていて、平日の昼間なのに、なんでこんなに人が多いのだろう、とか、思っていた。
牛丼屋に入って、珍しく安い牛肉を食べた。普段は、あまり入らないのだが、急に空腹をおぼえたのだ。もそもそと米を食べていると、かれんのことが急に頭にうかんだ。
かれん。
そう、かれんは、モーツァルトのピアノ・ソナタと、ドビュッシーのアラベスクが、好きだった。
あの後、高校を卒業するあたりから、僕はクラシック音楽とか、ジャズを聴き始めて、いっぱしの音楽通を、気取るように、なってしまった。
ドビュッシーの、CDやレコードも、色々集めて聴いた。
夜中に、その静謐な音楽を聴いていると、かれんの思い出が、清潔な感情のまま、甦ってくるのを、感じた。
かれん。
そう、彼女は、初めて会った時から、僕のことを好きであったに違いないのだ。
それは、仄かな姉のような心であったのかもしれなかったが、それは僕も同様であった。
ぬるい冷たい緑茶を、コップから飲み切ってしまうと、そのまま店を出た。
そのまま、疲れが抜けない体を抱えて、ふらふらと都内の街を歩く。
その雑貨屋は、元レンタルビデオ店と、レコードショップを兼ねていた、店を潰した後に出来たので、色々と、音楽のものが、充実している店だった。
内装も、無機質な音楽ショップのようなものではなく、木の温もりがある、都会としては、珍しいお店だった。
最近は、インターネットのウェブ・マガジンにも、洒落た店として、取り上げられるようになった、らしい。
月末には、音楽好きの客を集めて、お茶とお茶菓子を出して、「音楽カフェ」の集会のようなことも、催しているらしい。
僕は、そこまでしなくても、とお節介なことを、思っていたが、それも人気の理由の秘訣のようなものになっているらしかった。
そう――思いながら、雑貨店に来た。
あと、一限ちょっとで、また大学のキャンパスに、戻らなければいけなかったので、ちょっと見たら、帰ることに、決めていた。
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