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1983年
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黄昏れが来たら泣けば良い 夢野とわ著
一九八三年、東京の春。東京の市街は、喧騒を求め多くの人が集っている。僕はその年、十八歳になったばかりだった。東京の街は格別だった。都営地下鉄新宿線市ヶ谷駅を下車して、暁大学文学部の校舎に向かった。
その時のニュースは千葉県の浦安市に、東京ディズニーランドが開園することであった。足の底が痛む。高校時代に買ったスニーカーをそのまま履き潰していたからだ。昨夜は入学を済ませた興奮も有り、眠れなかった。暁大学文学部のキャンパスを目指して歩いて行くと東京の桜が見え、春が来た事を感じるのに充分な気持ちだった。
大学の構内まで歩いて行くと、汗をかいて気持ちが良くなった。人も多く、今年の春は賑やかだと思った。新入生歓迎コンパが賑わっていた。少し立ち止まると、美術サークル、文芸サークル、歌唱サークルなどで、チラシで手の上がいっぱいになる。手の上の重みを少し感じていると、気持ちが一転して、重くなった。大学入学前の、高校生の時の暗澹たる気持ちが強くなった。きっと大学に入っても、良いことがないという妙な気持ちだった。大学の講義室に入って五分くらい座っていると教授が入って来た。黒いスーツに、ネイビー色のネクタイをしている。まだ四十五歳くらいの若い経済学の教授であった。
「大学入学おめでとう」とその経済学の真下教授が言った。
「沢山の夢が有ると思います」と真下教授が言った。
沢山の夢、と言われて、講義室の中から、クスクスと笑い声が起こった。しばらくして、教室は静まった。その後、講義が始まって、僕は経済学の話しに聞き入った。高校の担任教師から、田下は要領が悪いと、非難された思い出を、僕は思い出して、急に気が重くなった。講義自体は、淡々と進んで行き、若干僕は退屈だった。経済学は古典派経済学と、新古典派経済学が有るということ。それにケインズと言う人がいて、ケイジアンという言葉があることなどを習った。
初春の光が窓の外では、強く滲んでいる。僕はノートを聞き漏らさないように付け始めた。きっと外濠公園の桜は、綺麗だろう、と僕は急に思った。僕は、大学の授業が終わったら、夕暮れの外濠公園の桜を一人で見に行こうと思った。
経済学と文学の講義を済ませると、大学内の学生食堂に来てみた。ロールキャベツの定食をつつき、一人でお茶を合間に飲んだ。先程から、少し前に座って居る、ショートカットの女性が気になっている。人目を引くような華やかな美人で、揺れる髪の下の首元が涼しげで、清潔だ。僕はロールキャベツを半分食べてしまうと、また手元のお茶を飲んだ。食器を片付けて、通り過ぎる真際に、ショートカットのその女性を振り返って僕は見た。そして、揺れる髪をちらと見ると、僕は足早に学生食堂の外へ出て行った。
夕方の五時の手前になって、僕は外濠公園の桜を見に行った。弾んだ呼吸を整えて、僕は外濠公園の中で、立ったまま、午前中の朝に貰った新入生歓迎のチラシを、取り出して見始めた。合唱、剣道、軽音楽、美術、文学サークル。一通りすべての分野のサークルが揃っている。僕は外濠公園の椅子に腰掛けると、もう一度丁寧に見始めた。モダンジャズの研究会というサークルが有って、僕は興味を引かれたが、僕はあまりジャズが良く分からなかったので、止めた。合唱は歌が下手なので、候補から外すことにした。美術もあまり興味を引かれなかった。そうすると入れるサークルがない事に気が付いた。僕はため息をついて、外濠公園を出ることにした。僕は外濠公園の外側を歩きながら、また明日に期待しようと思った。
一九八三年、東京の春。東京の市街は、喧騒を求め多くの人が集っている。僕はその年、十八歳になったばかりだった。東京の街は格別だった。都営地下鉄新宿線市ヶ谷駅を下車して、暁大学文学部の校舎に向かった。
その時のニュースは千葉県の浦安市に、東京ディズニーランドが開園することであった。足の底が痛む。高校時代に買ったスニーカーをそのまま履き潰していたからだ。昨夜は入学を済ませた興奮も有り、眠れなかった。暁大学文学部のキャンパスを目指して歩いて行くと東京の桜が見え、春が来た事を感じるのに充分な気持ちだった。
大学の構内まで歩いて行くと、汗をかいて気持ちが良くなった。人も多く、今年の春は賑やかだと思った。新入生歓迎コンパが賑わっていた。少し立ち止まると、美術サークル、文芸サークル、歌唱サークルなどで、チラシで手の上がいっぱいになる。手の上の重みを少し感じていると、気持ちが一転して、重くなった。大学入学前の、高校生の時の暗澹たる気持ちが強くなった。きっと大学に入っても、良いことがないという妙な気持ちだった。大学の講義室に入って五分くらい座っていると教授が入って来た。黒いスーツに、ネイビー色のネクタイをしている。まだ四十五歳くらいの若い経済学の教授であった。
「大学入学おめでとう」とその経済学の真下教授が言った。
「沢山の夢が有ると思います」と真下教授が言った。
沢山の夢、と言われて、講義室の中から、クスクスと笑い声が起こった。しばらくして、教室は静まった。その後、講義が始まって、僕は経済学の話しに聞き入った。高校の担任教師から、田下は要領が悪いと、非難された思い出を、僕は思い出して、急に気が重くなった。講義自体は、淡々と進んで行き、若干僕は退屈だった。経済学は古典派経済学と、新古典派経済学が有るということ。それにケインズと言う人がいて、ケイジアンという言葉があることなどを習った。
初春の光が窓の外では、強く滲んでいる。僕はノートを聞き漏らさないように付け始めた。きっと外濠公園の桜は、綺麗だろう、と僕は急に思った。僕は、大学の授業が終わったら、夕暮れの外濠公園の桜を一人で見に行こうと思った。
経済学と文学の講義を済ませると、大学内の学生食堂に来てみた。ロールキャベツの定食をつつき、一人でお茶を合間に飲んだ。先程から、少し前に座って居る、ショートカットの女性が気になっている。人目を引くような華やかな美人で、揺れる髪の下の首元が涼しげで、清潔だ。僕はロールキャベツを半分食べてしまうと、また手元のお茶を飲んだ。食器を片付けて、通り過ぎる真際に、ショートカットのその女性を振り返って僕は見た。そして、揺れる髪をちらと見ると、僕は足早に学生食堂の外へ出て行った。
夕方の五時の手前になって、僕は外濠公園の桜を見に行った。弾んだ呼吸を整えて、僕は外濠公園の中で、立ったまま、午前中の朝に貰った新入生歓迎のチラシを、取り出して見始めた。合唱、剣道、軽音楽、美術、文学サークル。一通りすべての分野のサークルが揃っている。僕は外濠公園の椅子に腰掛けると、もう一度丁寧に見始めた。モダンジャズの研究会というサークルが有って、僕は興味を引かれたが、僕はあまりジャズが良く分からなかったので、止めた。合唱は歌が下手なので、候補から外すことにした。美術もあまり興味を引かれなかった。そうすると入れるサークルがない事に気が付いた。僕はため息をついて、外濠公園を出ることにした。僕は外濠公園の外側を歩きながら、また明日に期待しようと思った。
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