黄昏れが来たら泣けば良い

夢野とわ

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初春の光映える図書室にて

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 次の日の春の朝も、とても晴れて気持ちの良い日だった。僕は大学に行く前に「ケルアック」という名前の喫茶店に入ってコーヒーを飲んだ。店内は清潔で垢抜けていた。マリリンモンローのプリントしたポストカードの入った写真のフレームとか、ビート・ジェネレーションの作家の言葉を収めたポスターが貼ってあった。僕は、ウィリアム・バロウズの顔を見ながら、コーヒーを一口づつ飲んだ。コーヒーの香りを意識しながら、目をつぶると、春の日の特別な暖かさを感じた。「ケルアック」の外へ出て、暁大学の始まりそうな時間になったので、僕は走り出した。桜の木が目に入ったが、それも急いで通り過ぎて暁大学の前まで来た。少し立ち止まって息を整えると、視界の内にふわりと美しい女性の相貌が目に入った。昨日の学生食堂で見かけた印象に残る女性であって、今日もショートカットの髪が涼しげに揺れていた。自然と足先がその女性の後を追うように付いて行って、暁大学の構内まで来た。講義へと急ぐ学生の足並みが近づいて、その瞬間に振り返ったその女性と、僕は目があった。ふわりと揺れる髪の女性が、一瞬に振り返って、目元が涼しげで笑ったような気がした。僕はその瞬間に立ち止まって、息を飲んで、その様子を見ていた。ふわりふわりと暖かな春の風が吹く。僕はそのまま立っていると、時計で時間を確認して、そのまま講義室へと向かった。

 また単調に思える講義の時間を終えると、僕は、暁大学の図書室へと向かった。学生証が有るので、自由に本が借りられるから、図書室の散策を兼ねて、本を見ようと思ったのである。フランス文学が気になったので、ルイ=フェルディナン・セリーヌの棚へと向かった。『なしくずしの死』の巻を手に取ると、丁寧に汚さないようにして、ページをなめるようにして、めくっていった。図書室の窓の外に、樹木が生えていて、初春の春の光に映えるそれらが、あまりに緑で眩しかった。一瞬に目を細めてしまって、じっとそれらを見ていると、高校生の時の時間が、あまりにも遠くに過ぎ去ってしまった様に思えた。僕は、そっとセリーヌの本を、元の棚に返した。一瞬に窓の外から、また風が吹いて、僕はまぶたを閉じた。振り返って、歩き出すと、視界に入ったのは、あの例の美しい女性であった。ショートカットの下に、静かな目があって、その眼がじっと立派な装丁の本の下に落ちている。
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