おおかみさまとお酒レビュー配信してみた

色しおり⛩️🐺🍶

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第四酒『山崎』

第四酒『山崎』第四章

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 あおいは昔から普通の人には感じられない『なにか』が視えた。私たちが幼かった頃、蒼は事故があった交差点や古い病院の前でよく身体を強ばらせてしゃがみ込んでいた。

 昔はそんな蒼の手を引いて帰ったこともあったな。私が神様を視れたのは遺伝なのかも……もしかしたら蒼もおおかみさまの事が視えるのかな?

 むらさきはそんな疑問をぐるぐると思い浮かべながらバイト先に向かって歩いていた。授業が終わり晴海はバンド練習に絢瀬もバイトがあるらしく早々に雑談を切り上げ別れてきた。

 紫のバイト先の居酒屋は蒼が働いている『翡翠』と同じ繁華街にあるため、自ずと蒼の事を思い浮かべてしまった。決してブラコンだからではない。

 授業はギリギリだったけどシフトまで時間空いちゃったな。二人とカフェでも行こうと思ってたのに忙しいらしいし……。

 紫は仕方なく繁華街を歩く。ネオンサインが灯るにはまだ早い。気が赴くままに歩を進めて行くと見たことがない道に出ていた。

 あれ、知らない場所に出た……大学入ってからそれなりにここを散策したんだけどなあ。

 紫が辺りを見渡すと繁華街から離れてしまった路地に出ているようだ。閑静な街並みが続いている。

 流石に迷子になったらバイトに遅れるし、来た道から引き返そうかな。

 紫は少し悩んだ後に踵を返す。ふと帰り道に眼をやると少し離れた場所に親しい青年の姿があった。

「蒼!偶然だ……」

 紫は足早に歩いていた弟に声を掛けようとしたが、寸でのところで思い止まる。蒼の手に見慣れない物が握られていたからだ。

 ――桶とタオル?何か掃除でもするのかな?

 好奇心は猫を……という諺が思い浮かんだが、紫は弟の知らない一面を垣間見たくなって後を追う。さながら探偵のように物陰から物陰にさささっと移動していく。

 弟を追跡して入り組んだ路地裏を抜けて行くと、こじんまりとした鳥居が眼に飛び込んできた。

 ――神社?こんな所に?

 困惑している紫を尻目に蒼は一礼して神社に入っていく。

 あ、ヤバい見失う!

 紫が狼狽して鳥居をくぐると、老朽化を感じるが整然としている社が佇んでいた。

「姉ちゃん、追いかけて来たんだから手伝って」

 社に気をとられていた紫は突如、背後から言葉を投げつけられた。飛び上がり声の発生源に振り返ると、蒼が出水舎で手を清めている。

「あ、蒼気づいてたの!?いや、これは違うくて……」

「気にしてないけど、後ろめたかったならこれで境内を掃除してくれる?」

 蒼は手慣れた様子で竹箒を取り出して紫に手渡す。そのまま桶とタオルを手に社に向かっていった。

 竹箒を手に取り残された紫は茫然としていたが、気を取り直して掃き掃除をすることにした。

 ――蒼怒ってはなかったけど勝手に追いかけるなんて悪いことしたな。ちゃんと謝った方が良いよね……。

 しょんぼりしながら境内を掃いていく。秋の葉が色とりどりに散らばっていて、落葉色の絨毯みたいだった。

 境内を秋風が縦横無尽に走り回り、新たな落葉を舞い上げる。掃除するのは中々骨が折れそうだ。

 紫が黙々と手を動かしていると、社の掃除を終えた蒼が新しい箒を持って戻ってきた。

「ありがとう姉ちゃん、狭い神社だけど一人で掃除すると時間かかるから」

「大丈夫だけど……勝手についてきてごめんね」

 しをらしく頭を下げる紫に蒼が優しい声音で返す。

「だから気にしてないよ、それどころか手伝って貰えて助かってる」

「――蒼、聞いてよい?」

「なんで神社なんて掃除してるかって話だろ。知り合いのお婆さんに頼まれたんだよ。この神社に参拝する人なんてもう幸江さんくらいしかいないのにね。デイサービスに通ってる日は代わりに僕が掃除に来てる」

 紫の疑問に先回りして答えた蒼は少し寂しげな横顔をしていた。

「蒼がボランティアしてるなんて意外だったけど、昔から蒼はお年寄りや困ってる人に優しかったもんね。姉ちゃん、立派な弟に育ってくれて嬉しいよ」

 紫の暖かい瞳に見つめられた蒼は頬を紅色に染めながら掃き掃除を始める。

「――蒼は神様っていると思う?」

 紫はふと先程感じていた疑問を聞きたくなって蒼に続けて質問してみた。蒼は一瞬動きを止めたが、手を動かしながら答える。

「神なんて信じてないよ。でも大切な人の安全を祈る人々の想いは尊い物だと思う。神様っていうのはそういう人々の大切な想いが集まって、混ざりあって生まれる『願い』が形になった物何じゃないかな。少なくとも僕はそう思ってる」


 ――『願い』の集合体かあ。蒼は神様を見たことがないって事なのかな。

 蒼の返答に悶々としていた紫だが、ふとスマホに眼をやるとバイトの出勤時間が迫っている事に気づいた。

「やばい、バイト遅れそう!」

「え、本当に?ごめん長いこと手伝わせて。帰り道わかる?」

「大丈夫だと思う!ごめん蒼、最後まで手伝えなくて」

「もう掃き掃除だけだから大丈夫だよ、ありがとう姉ちゃん」

 笑顔の蒼に見送られながら紫は走り出す。なんだか今日、走ってばっかりだな。そう嘆きながら紫は階段を掛け降りていった。
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