龍魂

ぐらんじーた

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ある一族

条件

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静まり返る室内。苦しい空気だ。
だが、レイラたちは何も言えない。今、場を支配しているのは、ヘイゼルだ。
それに、こちらが伝えたいことは伝えた。彼が何か言わない限り、こちらから重ねて何か言うことはない。


リゼルの危機だ。さっさとイエスと言えばいいのだが、この時間は何だ。
すんなり返事が出ないということは、あまり期待はできない。

「…………」

長い。
ただ、ヘイゼルも黙っているだけではなく、「うむ……」や「んーーー……」など、何かしら思考している様子を見せている。
これが、本当に考えているのか、思考しているフリをしているだけなのかは分からない。
仮に、この行動が交渉術の一つだとしても、レイラたちは受け入れるしかない。

(さっさとなんか言えよ……)

背筋を伸ばした、この姿勢を維持するのも疲れてきた。
そうレイズが思っていた頃、ヘイゼルはベルに耳打ちした。
ベルは初めは軽く頷いていたが、彼の言った意味が理解できた瞬間、表情がすこし明るくなった。
その後、しきりに頷きも見せている。

(何だ……?)

我が子が『劣化』で大変な時に時間を使うな、と思いつつも、その表情の変化が気になるレイズ。

両親の変化に戸惑っていると、ヘイゼルが口を開いた。

「……確かに、うちで確保している龍魂は存在する」
「!」
「でしたら……」
「だが、タダとはいかない」

レイラのそれを遮り、ヘイゼルはそう言った。「タダではない」と。レイズにはそれが許せなかった。
バージルが制止する前に立ち上がり、吠える。

「いい加減にしろ!!」
「レイズ!?おい!!」
「リゼルはアンタらの息子だろ!!困ってんだから、助けやがれ!!」

レイズの咆哮の後、シン、と静まる部屋。

「……元気が良いな」
「元気?うるさいだけだわ」
「…………」

ここでベルが初めて口を開いた。見た目通りのキツめな声。
リルナは黙ったままだが、不快そうな表情を見せる。

「うるさいヤツは好かん。そう言ったはずだが?」
「うるせぇ!!家族の危機に動けねぇヤツに嫌われようが、どうだっていい!!」
「…………」

ここで、リゼルは顔を伏せる。
レイラ以外どうでもいい存在だった。
レイズたちは同じ部隊で仕事をする同僚で、それ以上の関わりや感情はないと思っていた。
しかし、自分の(選択とはいえ)危機に動こうとしない親に、ここまで本気で怒ってくれている。

普通なら、ここで交渉決裂。
リゼルは『劣化』の一途を辿るだけ。しかし、ヘイゼルはレイズたちを帰すことなく、口を開く。

「……先ほども言ったように、月龍以外は家族と認めていない」
「あぁ!?だから、関係ないってか!?」
「……龍魂を付与しても構わん」
「!」

レイズの一連の激昂を無視し、レイラに言うヘイゼル。

「その代わり、ある『仕事』を頼みたい。騎士団なら、お手の物だろう?」
「……リゼルには、時間がないと言ったはずですが」
「分かっている。だから、リルナを同行させる。龍魂の付与もすぐにできるものではなく、時間が掛かるのだ。仕事が終わった連絡が入れば、『最後の仕上げ』を行おう」

「リルナを同行させる」の瞬間、興味なさげに聞いていた彼女が顔を上げる。
その顔は、驚きが強く「面倒くさ」や「なぜ自分が」などの感情が見て取れた。

「よく、分かんねぇが……雑用さえすれば龍をくれんのか」
「そうだ。それと、付与する龍は、『月龍』とする。他はない」
「!」

月光龍が定着せず、長年闇龍と付き合ってきたリゼル。それを、このタイミングで覆そうと言うのか。
幼少期に家を出たリゼルが、この町でどの程度知名度があるかは分からないが、そうまでして月龍の家系を守りたいか。

(かわらない……な……)

リゼルは目を閉じ、舌打ちする。
元々期待はしていなかった。こちらが『お願い』する立場である以上、ここは向こうの言いなりになるしかない。

「それでいい……やってくれ」
「リゼル!?」
「ほかに、みちはない……」
「う……」

バージルは言葉に詰まる。

それはそうだが、いくら闇龍で龍魂の知識や経験が以前よりあるとはいえ、月光龍が定着するとは限らない。
こればかりは、努力で変えられない。生まれつきや、生育環境による体質変化・性格変化でも変わってくる。
そういう意味では、可能性はゼロではないのだが……

ただ、属性が変わるということは、それまでに積み上げてきた闇龍の知識が無駄になるということだ。
龍魂の取り扱いについては、属性で変わることはなさそうに思えるが、厳密には違う。半身が以前とは全く違う性質のものとなるのだから、これもやり直しである。
それに、彼には月龍の知識はない。こっちに関しても、ゼロからのスタートとなる。
龍魂は、属性により、それだけ技や術の構築が異なる。多くの道場が属性で分かれているのも、そのためだ。

「適性は生まれつきのものだが、イレギュラーが起これば変化する(かもしれない)。それが今だ」
「ち……」

都合のいい解釈をしやがる。レイズは舌打ちをすることしかできない。
本人も了承しているし、実際、他に道はない。

限られた選択肢の中で、ようやく見つけた可能性。
この関門も、突破した。
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