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完結
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坊ちゃんは何においても好き嫌いが多いのである。色とりどりの温野菜の載ったハンバーグプレートは主役の肉のみ食べなんと他はゴミ箱に捨ててしまうのだ。調理され食されるのみだったはずの野菜たちはなんたる不運だろうか!
話変わって本日はおめでたいことに坊ちゃんの八度目の誕生日。冷蔵庫の中はお母様の
張り切りが反映され通常より活気がある。中でも坊ちゃんの大好きなケーキの入った箱は
ひときわ輝いて見えましょう!「ケーキは良いわよね。絶対に美味しく食べて貰えるのだから」冷蔵庫の中でボソッと嫉妬の声が上がった。その声は本当に小さなものだったが時刻は昼七つ。この時間帯の冷蔵庫内は静かなものであった。恐らく皆聞こえたのだろう。
いつもは沈黙を守っているそれらは続く様に
声を上げた。「絶対に望まれ美味しく食べられるケーキのなんと幸福なことか!」「嫌々食べられるならマシよ。私はきっと捨てられて孤独に腐るのを待つのだわ!」「坊ちゃんの皿に載ったらと恐怖する日々はもう嫌さ」
さて此処で一番困惑するのは文字通り箱入りのケーキであろう。ケーキはきっと意思を持った時にはもう人々から望まれる存在であった。そしてこの箱入りケーキの周りにあった砂糖塗れの甘い洋菓子らも皆そうであったろう。第一に、己が捨てられる可能性など考えたこともなかったのだ。……いや、此処に来る前は先程嘆いた皆もそうだったのかも知れない。兎に角、箱の中に鎮座していたケーキは理不尽な嫉妬と巻き起こった不満の嵐に困惑し……憤った。「何です?勝手に私の幸せを決めつけて。勝手に盛り上がるなんて!
そもそも私は美味しく食べられることなど最初から望んでいませんことよ。私は私が誕生した素敵なケーキ屋さんのショーケース。その最前列に鎮座し輝くことこそが私の夢であり幸せでしたのよ!だけど最前列に行くことはなくこんな狭く面白みのない箱に入れられて今日中に食べられて終わりだなんて!と静かに嘆いていたのよ」余程不満を抱えていたのだろう。ケーキは強めにそう訴えかけた。
なるほど確かに一理ある。我々食べ物は美味しく食べられることこそが使命であり幸せなのだ。という固定概念に縛られ己がそうであるなら相手もそうだろうと決めつけていたのだ。しかし己の中で常識となっている固定概念を疑うということは非常に疲れることであり出来るならばしたくないことなのだろう、
冷蔵庫の住民らはケーキを変わり者と評し次
々と罵るではないか!「貴方は恵まれているからそんなことが言えるのよ」「こんな食べ物失格の出来損ないがいただなんて」ケーキを批判する声は大きくなるばかりである。ケーキは「なんなの……なんなのよ……」とぶつくさ疑問を言葉にしようとするもののあまりの否定されように気圧されているようだ。
外はすっかり暗くなり、先程ケーキが箱ごと此処を出ていったことから坊ちゃんらは手の込んだ夕飯を食べ終えついにお楽しみのケーキの出番となるのだろう。ケーキは此処を出るその瞬間まで嘆いていた。そして恨みを
明後日の方向に向け始めていた。ああ恐ろしいケーキは食べ物でありながら己を食べるだろうまだ見ぬ坊ちゃんへの恨みを吐き始めたのだ。己が食べられることなく捨てられることを危惧する住民の多いなかその恨み言は実に傲慢に映っただろう。非難の声は再び轟いた。「うるさい、うるさい!なんと言われようが恨んでやるわ!呪ってやるわ!私は食べられたくないのに食べられることが幸せだろうと勝手な思想を押し付けてくる奴らも、そして嬉々として私を食べるだろう人間も!」
坊ちゃんは何においても好き嫌いが多い。
だが不思議なことにそれを正そうとする大人がいないのだ。ああ可哀想に、坊ちゃんはきっと高慢で忌み嫌われ大人になってしまうのではないか?勝手ながらそう心配しはするものの何も出来ないことのなんと歯痒いことか
そういえば先日はめでたい坊ちゃんの誕生日であった。しかし可哀想に坊ちゃんは大好きなケーキを食べたことでなんとそのケーキに恨まれ呪われ高熱を出してしまったらしい
食べ物の恨みは怖いとはよく言ったものだ。
冷蔵庫の住民たちはその知らせを聞いて醜いことに大喜びしたものだ。彼らはこんなにも醜かっただろうか。いや、いや我らは短い命だ、思考が熟知する前に大半は食べられ捕食者の血肉となるのだから。つまり彼らはまだ幼く残酷なほどに無邪気で素直なのだろう。
「あら?こんな奥に何か……」そう私が思案していると、突如としてそんな声が降ってきた。先日とは打って変わり何か消化によいものをと珍しく冷蔵庫を長く物色していたお母様の声であった。お母様の大きな手は私に触れる。私は歓喜した!実のところ私は随分と長い間坊ちゃんやお母様は疎か冷蔵庫の他の住民にすら認知されていなかったのだ。私の正体は長いこと冷蔵庫の奥底に入り込み恐らく半年は放置されていた“カビの生えたチーズ”である!この半年間私はこの家庭の冷蔵庫の中で多く思考したものだ。しかしそれも今日終わりを迎えよう!
「やだ、カビ生えているじゃない。」その声を最後に私は暗いゴミ箱の中へと消えた。
話変わって本日はおめでたいことに坊ちゃんの八度目の誕生日。冷蔵庫の中はお母様の
張り切りが反映され通常より活気がある。中でも坊ちゃんの大好きなケーキの入った箱は
ひときわ輝いて見えましょう!「ケーキは良いわよね。絶対に美味しく食べて貰えるのだから」冷蔵庫の中でボソッと嫉妬の声が上がった。その声は本当に小さなものだったが時刻は昼七つ。この時間帯の冷蔵庫内は静かなものであった。恐らく皆聞こえたのだろう。
いつもは沈黙を守っているそれらは続く様に
声を上げた。「絶対に望まれ美味しく食べられるケーキのなんと幸福なことか!」「嫌々食べられるならマシよ。私はきっと捨てられて孤独に腐るのを待つのだわ!」「坊ちゃんの皿に載ったらと恐怖する日々はもう嫌さ」
さて此処で一番困惑するのは文字通り箱入りのケーキであろう。ケーキはきっと意思を持った時にはもう人々から望まれる存在であった。そしてこの箱入りケーキの周りにあった砂糖塗れの甘い洋菓子らも皆そうであったろう。第一に、己が捨てられる可能性など考えたこともなかったのだ。……いや、此処に来る前は先程嘆いた皆もそうだったのかも知れない。兎に角、箱の中に鎮座していたケーキは理不尽な嫉妬と巻き起こった不満の嵐に困惑し……憤った。「何です?勝手に私の幸せを決めつけて。勝手に盛り上がるなんて!
そもそも私は美味しく食べられることなど最初から望んでいませんことよ。私は私が誕生した素敵なケーキ屋さんのショーケース。その最前列に鎮座し輝くことこそが私の夢であり幸せでしたのよ!だけど最前列に行くことはなくこんな狭く面白みのない箱に入れられて今日中に食べられて終わりだなんて!と静かに嘆いていたのよ」余程不満を抱えていたのだろう。ケーキは強めにそう訴えかけた。
なるほど確かに一理ある。我々食べ物は美味しく食べられることこそが使命であり幸せなのだ。という固定概念に縛られ己がそうであるなら相手もそうだろうと決めつけていたのだ。しかし己の中で常識となっている固定概念を疑うということは非常に疲れることであり出来るならばしたくないことなのだろう、
冷蔵庫の住民らはケーキを変わり者と評し次
々と罵るではないか!「貴方は恵まれているからそんなことが言えるのよ」「こんな食べ物失格の出来損ないがいただなんて」ケーキを批判する声は大きくなるばかりである。ケーキは「なんなの……なんなのよ……」とぶつくさ疑問を言葉にしようとするもののあまりの否定されように気圧されているようだ。
外はすっかり暗くなり、先程ケーキが箱ごと此処を出ていったことから坊ちゃんらは手の込んだ夕飯を食べ終えついにお楽しみのケーキの出番となるのだろう。ケーキは此処を出るその瞬間まで嘆いていた。そして恨みを
明後日の方向に向け始めていた。ああ恐ろしいケーキは食べ物でありながら己を食べるだろうまだ見ぬ坊ちゃんへの恨みを吐き始めたのだ。己が食べられることなく捨てられることを危惧する住民の多いなかその恨み言は実に傲慢に映っただろう。非難の声は再び轟いた。「うるさい、うるさい!なんと言われようが恨んでやるわ!呪ってやるわ!私は食べられたくないのに食べられることが幸せだろうと勝手な思想を押し付けてくる奴らも、そして嬉々として私を食べるだろう人間も!」
坊ちゃんは何においても好き嫌いが多い。
だが不思議なことにそれを正そうとする大人がいないのだ。ああ可哀想に、坊ちゃんはきっと高慢で忌み嫌われ大人になってしまうのではないか?勝手ながらそう心配しはするものの何も出来ないことのなんと歯痒いことか
そういえば先日はめでたい坊ちゃんの誕生日であった。しかし可哀想に坊ちゃんは大好きなケーキを食べたことでなんとそのケーキに恨まれ呪われ高熱を出してしまったらしい
食べ物の恨みは怖いとはよく言ったものだ。
冷蔵庫の住民たちはその知らせを聞いて醜いことに大喜びしたものだ。彼らはこんなにも醜かっただろうか。いや、いや我らは短い命だ、思考が熟知する前に大半は食べられ捕食者の血肉となるのだから。つまり彼らはまだ幼く残酷なほどに無邪気で素直なのだろう。
「あら?こんな奥に何か……」そう私が思案していると、突如としてそんな声が降ってきた。先日とは打って変わり何か消化によいものをと珍しく冷蔵庫を長く物色していたお母様の声であった。お母様の大きな手は私に触れる。私は歓喜した!実のところ私は随分と長い間坊ちゃんやお母様は疎か冷蔵庫の他の住民にすら認知されていなかったのだ。私の正体は長いこと冷蔵庫の奥底に入り込み恐らく半年は放置されていた“カビの生えたチーズ”である!この半年間私はこの家庭の冷蔵庫の中で多く思考したものだ。しかしそれも今日終わりを迎えよう!
「やだ、カビ生えているじゃない。」その声を最後に私は暗いゴミ箱の中へと消えた。
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