Hな短編集・夫婦純愛編

矢木羽研

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妻のスカートをめくる時 ~なぜ男はパンチラを求めるのか~

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 一陣の春風が桜の花びらを散らし、冬の名残の枯れ草を吹き飛ばし、そして俺の目の前にいた女子高生のスカートをめくり上げた。

「きゃっ」

 彼女は短い悲鳴を上げると、こちらを見て照れ笑いをして足早に去っていった。

「わーお♪」

 横にいる妻が茶化すように小声でつぶやく。この場に妻がいてよかったと思う。もし俺一人だったらあの女子高生に睨まれていたかも知れない。

「いいもの見れたとか思ってるんでしょ、この変態♪」

 こういう時、変に嫉妬して機嫌を悪くしたりしないのが彼女のいいところだ。

「と言っても一瞬だからなぁ」

 ピンクのパンツらしきものがちらっと見えただけである。もしかしたら見せパンの類かも知れない。

「まあね」

 妻はクスッと笑う。

「ねえ、男の人ってやっぱり女の子のパンツ見えたりすると嬉しいの?」
「うーむ」

 改めて聞かれると答えづらい。別にパンツが見えたからどうだというのだ。スカートがめくれることで単に太ももが見えるのと、その上にある布切れが見えることになにか違いはあるのだろうか。

「なんだろうな。男というのは隠れているもの、つまり本来見えないもの見えるということ自体に喜びを感じる生き物なのかも知れない」
「ふむふむ」

 妻は興味深そうに相槌を入れる。

「それに、見られたときに恥ずかしがる反応もなかなか可愛いじゃないか」
「やっぱり変態じゃない」

 俺の答えに妻が呆れたような返事をする。

「というよりガキ臭いんだよな男ってのは。特に好きな子ほどイタズラしたい感情は間違いなくある」
「なるほどねぇ……」

 そんな会話をしているうちに、俺たちは家に着いた。

「さっきの話の続きだけど、私にも意地悪したいとか思ったりするの?」
「うーん、お前の場合は特にそういうことをする機会というか、必要がなかったからなぁ」

 妻とは出会った頃から気が合い、恋愛から結婚までトントン拍子で事が運んだ。子供じみたイタズラなどをする必要などなかったのである。

「じゃあ今度、私にイタズラしてみない? どんなことするのかちょっと興味あるかも」
「おいおい、自分から求めてきたらイタズラでもなんでもないだろうが」
「あはは、確かにね」

「ふと思ったんだけど、あんたって最近私のパンツ見たことあったっけ?」

 俺たちの夫婦仲は良い。もちろん体の関係も日常的にある。しかし、行為のときは部屋を暗くするという習慣がすっかり定着してしまったし、そもそもパジャマごと脱がしてしまうことが多い。

 一緒に風呂に入ることはあるが、片方が湯船に浸かっている間にもう片方が体を洗うような時間差入浴になるので、裸は見慣れていても着替え中の下着を見る機会が無い。お互いの仕事の都合で別室で寝ることが多く、一緒に寝ても起きる時間が違うので、朝に着替える姿を見る機会もあまりない。

「そういえば無い、かもな」

 若い頃こそお気に入りの下着をよく披露してくれたものだが、今やすっかり値段や機能性のみで選ぶようになったようで、わざわざ見せる機会もなくなっていった。

「ねぇ、私のパンツ見てみたい?」

 妻はいたずらっぽい表情を浮かべて聞いてくる。

「そりゃ……うん、そうだな」

 俺は少し考え、正直に答えることにした。すると妻はおもむろに立ち上がり、俺に尻を向けた。

「めくっても、いいよ」

 俺は妻のスカートに手をかける。なぜか妙に緊張する。つい先週セックスしたばかりだというのに、たかがスカートをめくってパンツを見るという行為がこんなにも気恥ずかしいとは思わなかった。

「どうしたの?ま、私は逃げないから焦らしてもいいけどね」

 俺は覚悟を決め、思い切ってスカートをめくり上げる。そこには、飾り気のないピンク色の、面積の広いガードルタイプのショーツが現れた。

「いやーん♪……なんてね。色気のないおばさんパンツでごめんね」

 妻は苦笑しながら言う。

「ま、予想はできたけどな」

 直接見るまでもなく、洗濯物を見れば普段妻がどんな下着を付けているのかくらいはわかる。ただ、もしかしたらセクシーなTバックやシースルーでも履いてきているかと、少しは期待してしまっていた。

「まじまじと見られるとちょっと恥ずかしいかも。だいぶくたびれちゃってるし」
「珍しいな、お前が恥じらうなんて。それならもっと見てやらないとな」

 俺は妻を振り向かせると、今度は正面からめくり上げた。

「あーん、意地悪ぅ♪」

 お望み通りの「イタズラ」をされた妻は嬉しそうな声を上げながら腰をくねらせた。
 俺はさらに悪ノリをすることにした。ポケットから携帯を取り出すと、カメラを起動して妻のスカートの下を撮影した。

「ちょ、何撮ってるの!?」

 妻は慌てて俺の手をはらいのけたが、もう遅い。

「あーん、本当に恥ずかしいかも」

 真っ赤になって抗議してくる。こういう反応もまた新鮮だ。

「イタズラしてくれって頼んだのは誰だったかな?」
「そうだけど……もう、バカ!」

 さすがにこれ以上は気まずくなりそうなので、俺も携帯をポケットにしまった。

「もう、私のパンツなんか撮って何が楽しいわけ?」

 まだ顔の赤い妻は不満げにつぶやく。

「いやぁ、予想以上にかわいい反応が返ってきたな」
「うう~」

 妻はしばらく恨めしげに睨んできたが、やがてクスクスと笑い始めた。

「ま、たまにはいいか。こんなにドキドキしたの久しぶりかも」

 昔は下着姿どころか裸を撮ったりもしたものだが、そのようなプレイもすっかりご無沙汰になってしまっていた。

「じゃ、そろそろご飯の支度しましょうか」

 妻はいつものようにエプロンをつけ、台所に向かった。

「晩飯は何にするんだ?」
「今日はね、豚のにんにく焼き!」

 精力の付くにんにく料理。これを妻が作るということは、夜に俺を求めるサインである。

「お、楽しみだな」
「うふふ、いっぱい作るからね。にんにくは何かけ入れる?」
「2つ、いや3つくらい入れてもいいんじゃないか?」

 俺はおろし金を戸棚から取り出しながら妻に答えた。言うまでもなく、個数=回数の匂わせである。

「えー、そんなに?……寝られなくなっちゃうかも」
「いいじゃないか、明日は休日なんだし」
「えへへ、お手柔らかにね」

 2人で笑いあう。俺は漬けダレ用のにんにくをすりおろしながら、夜の愉悦に思いを馳せるのであった。
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