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メタルマックス

第63話:冷戦とポストアポカリプス

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「なるほどな、つまりポストアポカリプスものか」

 月曜の朝練で、トレーニング部に顔を出したハルキにメタルマックスの話を振ってみると、すぐにジャンル名で返された。さすが小説家志望で、文芸部と掛け持ちしているだけのことはある。

「……なにそれ?」
「アポカリプス、つまり破滅の後の世界だ。例えば世界同時核戦争で文明が滅んだ後に生き残った人類、あるいは別の生物やロボットが主人公の物語だな。例えば……古いけど、漫画でいえば『北斗の拳』とか。映画だと、ジブリの『ナウシカ』くらいは知ってるだろ?」

「うーん、そういのとはちょっと違う気もするんだよな。モンスターはいても人間同士が争っているような感じはしないし、文明もそれなりに復興している感じ。例えば電気もあるし、パソコンのインターネットみたいなのもあるっぽいし」

 北斗の拳は「なんとなく」のイメージでしか知らないが、ナウシカならテレビで見たことがある。メタルマックスでは今のところ、不良との小競り合いだとか、病院にこもっていたマッドマッスルという怪人と戦った程度で、組織だった悪党や軍隊のようなものは登場していない。

「あと、自然も割と豊かな感じかな。砂漠とか腐海とかじゃなくて、緑の森や草原が広がってる」
「となると、同じ宮崎アニメでもコナンに近いかもな」
「名探偵?」
「違う、『未来少年コナン』! まあ、あとで参考リンクとか送っとくよ」

 *

「日々木さんは、こういうの興味ない?」

 横で聞いていた彼女に声をかける。さすがに、ここでは下の名前で呼ぶのはためらわれる。

「うーん、私にはよくわからなかったから。でもゲームは面白そう」

 よかったら、放課後うちに来る? と言いかけてやめた。さすがにハルキがいる前で誘うのはちょっと恥ずかしいし。

 **

「ポストアポカリプス、冷戦時代には多かったって話だよな。俺たちの親よりも少し上の世代向けってイメージがある」

 休み時間に先ほどの続きを話していると、ソウタが乗ってきた。

「最初の一発が引き金になって、すべてが滅びるまで報復しあった後の世界?」
「あ、前に見た古いドラえもんの映画でそんなのがあったような……」
「『海底鬼岩城』だな。古代文明の核ミサイルみたいなのが海底火山に反応しそうになるやつ」

 ソラの言葉で、僕が思い出しかけた映画の情報を、即座にハルキが補足してくれる。

「ま、当時はそういうのにリアリティがあったって話なのかな」

 冷戦の終結。日本ではちょうど昭和が終わって平成が始まった頃、僕たちの生まれるずっと前の話。1985年生まれの僕の両親ですらまだ幼稚園児だった頃だが、当時の雰囲気をおぼろげながら覚えていると以前話してくれた。

 例えば、うちにもあるファミコンソフトの『テトリス』。ソビエト、つまり今のロシアが作ったゲームということで話題になったそうだ。そのためゲーム内のグラフィックや音楽もロシア風になっている。父も母も、コロブチカやトロイカといった民謡はこのゲームで覚えたという。当時のソビエト大統領が主人公のゲームまで出ていたというから驚きだ。

「でも、今ではまた物騒になってきたけどな。ロシアはいい加減に戦争やめてくんないかな」

 本当にその通りである。戦争はゲームや物語の中だけにしてほしい。

 **

「マンモス、さすがに強いな」

 さて、夕方になって家に帰ってきた僕は、フリーザの町の奥に潜む賞金首のマンモスタンクに対峙している。冷気攻撃が得意な分だけ炎の攻撃に弱いようだが、むしろ火炎放射器以外のダメージが全く通らない。打つ手が無くなったところで戦車をボロボロにされて全滅。攻撃手段を見直す必要がある。

 今後もお金の使い道はいくらでもあるだろうし、あんまり出費はしたくない。ここでレンタルタンクの看板に気づく。前に借りたのが1号ということは、2号以降もあるはずだ。ここではレンタ3号まで貸し出されており、その3号はなんと火炎放射器を搭載している。しかも、装甲タイルは貸出時点では0なのに、弾薬はフル装填されているではないか!

 これを使わない手はない。同じ戦車でも複数借りることができるようなので、トミーとイングリをレンタ3号に乗せ、3人がかりでマンモスタンクを焼き尽くす作戦だ。結果、6ターンかけて計18発を撃ち込んだところで討伐に成功した。撃破時点でレベルは15・15・14。火炎放射器は8発しか撃てないので、思ったより際どいラインだった。

 ここでわかったことが一つ。攻撃力が同じ兵器でも、使用者によって明らかにダメージが異なる。主人公タケルが一番強いのだが、これはステータスの「運転レベル」と連動しているようだ。つまり、運転が上手いほうが攻撃を上手に当てられるのでダメージが大きいという意味合いなのだろう。「モンスターハンター」という職業は曖昧な概念だと思っていたのだが、この世界では戦車乗りの専門家というような意味らしい。

 *

 レンタカーはガソリン満タンで返すものだと、以前旅行した時に父が言っていたが、この世界では弾を撃ち尽くした戦車をそのまま返しても問題ない模様。しかも再び借りれば弾が満タンになっている。火炎放射器の弾は1発で60ゴールドくらいするので、12発で720ゴールドがチャラだ。

 レンタルタンクの費用は戦闘後の収入から差し引かれるが、賞金はそのまま受け取れることがわかったので、今回のようにザコ戦の必要がないケースなら確実に黒字である。これは、今後も有効活用できそうな気がする。

 ***

 注:

「当時のソビエト大統領が主人公のゲーム」

 ここでは『ゴルビーのパイプライン大作戦』を想定したものだが、実際のゲームでゴルバチョフ氏が登場するのはタイトル画面のみである。タケルの親はタイトルのみ知っていたので、曖昧な理解だという描写である。
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