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メタルマックス

第72話:次の予定と木陰と大人の味

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「あ、ドラクエ4の小説!」

 いつもの古本屋に入ると、文庫コーナーでフミさんが声を上げた。

「懐かしいなぁ。小学生のころ、ゲームと一緒に借りて読んでたの」

「そういえば、ドラクエシリーズはどのくらいやったんだっけ?」
「自分でちゃんと最後まで遊んだのは4だけかな。1から3は続き物だけど、4からは新しい天空シリーズになるから、入門向きだって聞いたから」

「へえ、面白そうだね」

 文庫版は全4巻。表紙のイラストが繋がっており、1巻と2巻を合わせるとメインキャラらしき8人が揃う。3巻の背景は魔王だろうか。

 そろそろメタルマックスがクリアできそうな頃だが、次は何をやろうか。ハルキと一緒に『ウィザードリィ2』? フミさんが話してた『ファイアーエムブレム』? 父おすすめの『ドラえもん ギガゾンビの逆襲』? それに、今聞いた『ドラゴンクエスト4』にも興味が出てきた。

 *

「作者の久美沙織さん、MOTHERの小説も書いているみたいなんだけど見つからなくて」

 いつもの公園のベンチに腰掛け、フミさんは小説を開く。今はざっと確認する程度で、読むのは後のお楽しみということで大事そうにカバンにしまった。

 古いゲームの小説や攻略本は、絶版になって希少価値が付いているものが少なくないと父から聞いた。ドラクエの小説は何度も再版されているので安く買えるようだが、これは例外的なケースであるようだ。

 *

「そうだ、忘れないうちに『桃伝』返しておくね。ケースごと持っていっていいから」

 MOTHERを貸してくれたときと同じ、透明なビニールケースに入れて返してくれた。確かに、お互いが持っていれば貸し借りする時に便利だろう。

「最初はギャグばっかりかと思ってたけど、最後はシリアスで良かったかな。でも後半は敵が強くて逃げてばっかりだったかも……」

 確かに、そのとおりだと思った。ただしこちらは回復アイテムが強力なので、薬草6個に全てを託していたDQ1と比べるとどちらがきつかったかは微妙なところだ。いずれもレベルの伸びしろは高いので、根気よくレベルを上げればスムーズにクリアできるようになっているのだろう。

「そう考えると、FF1は終盤でも割と普通に戦いながら進めてたからね。ドラクエ4はどうだった?」
「仲間が8人いて、回復を使えるのは3だから、余裕だったかな。むしろ、簡単に敵が倒せるからレベルが上がりすぎちゃったり」
「8人もいるの?! コマンド入力が大変そう……」
「それは大丈夫。一度に戦うのは4人だし、AIの自動入力だし」

 自動戦闘。そういえばMOTHERにもあったが、ターゲットが無駄に分散したり、さっさと倒せば済む話なのにわざわざ回復を優先するなど、正直いって使い物にならなかったのを思い出す。

「学習型AIだから、戦うほどに無駄な行動が少なくなったりして」
「へえ、ファミコン時代にそんなことができたんだ」

 いま流行の画像生成AIは、好みの画風のイラストを読み込ませて「学習」させられると聞いたことがある。ファミコン時代のゲームの中にも、そのような仕組みが入っていたのだろうか。

 *

「今日のサンドイッチはケバブ風にしてみたんだけど……どうかな? 私、ケバブ食べたことないんだけどね」
「いい匂い!」

 さて、待ちに待ったお弁当だ。タッパーを開けるとエキゾチックな香りが漂ってきた。

「ヨーグルトソース。クミンとチリパウダーに、ケチャップを混ぜてみたんだけど……」
「うん、美味しいよ!」

 ウェットティッシュで手を拭いて、さっそくいただく。この前の祭りで食べたケバブサンドは香ばしく焼いた鶏肉だったが、こちらは茹でたサラダチキンである。しかしソースはこってりしていて、物足りなさは感じない。

「ちょっと辛いかなって思ったんだけど、このくらいでいいよね?」
「うん、いいと思う!」

 どうやら、彼女とは舌が合いそうだ。来週こそ、僕も何か作って持っていってみようか。

 *

「それじゃ、また学校でね」
「うん、またね」

 あずまやの横の木陰で別れのあいさつを交わす。ちょうど、木や塀が死角になっており、周りからは隠れた状態になる。もしフミさんと恋人同士になったとしたら……ここで、さりげなくキスなんかしてみたらかっこいいだろうな、などと思うのであった。
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