君の前でならヌードになれる

矢木羽研

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触れ合い

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 とっくに覚悟は出来ていたはずなのに、それでも裸の胸を自分から見せる勇気は無かった。両胸を隠す手をどけてくれと頼まれたら、あるいは力ずくでどけられてしまったら……話は違ったのかも知れない。でも少なくとも、私から見せるのはまだできなかった。

 決意が薄れてしまうのが嫌だったし、また家に誰もいないというチャンスもそうそう無かったから早めの日付を指定したのだが、本当は少しダイエットするつもりだった。もし、無駄な肉を少しでも落とせていたら、正面から堂々と裸を見せられたのだろうか。今となっては後の祭りだけれど。

 描くのは背中でいいと言ってくれた。思えば、先日のヴィーナス像のときも後ろから描いていた。ヌードという題材は必ずしも正面からだけではないということは私も理解していたとはいえ、アキがそれで手を打ってくれて、ひとまず安心した。

 自分の背中をまじまじと見る機会はあまり無い。先日、鏡の前でヌードをチェックしたときも背中は見ていなかった。アキのデッサンを見せられた時、「これが私?!」というありきたりな反応が口から出かかったが、これは正面を描いてくれたときのためにとっておくことにした。

 一段落して、アキにちょっとしたサプライズを見せてあげたいと思った。先日買ったブラだ。一旦外に出して着替えることにする。なおセットのショーツも穿いているが、さすがにこちらはまだ見せる気になれないのでスパッツでガードする。ドレッサーを見ながら、まだ付け慣れていない補正ブラを頑張って付け、深呼吸をしてドアをノックする。

 *

「どう? この前買ったばかりのブラなんだけど」
「……気のせいか、普段より大きく見えるかも」

 あまりにも直接的な言い方に少し吹き出してしまったが、まさにその通りである。

「当たり。やっぱり、服の上からでもわかる?」
「そうだな。体操服で薄着の時とかはだいたい大きさがわかるかも」
「もう、どこ見てんのよ」

 思わず肘で彼を小突いたが、下着一枚で近い距離で触れるという自らの行為に少しドキドキしてしまった。

「それ、パッドでも入ってるの?」
「はぁ~、なんにも知らないのね」

 まあ、私も知らなかったんだけどね。というわけで私は彼に説明をする。と言っても、下着屋さんの受け売りだけれど。

 *

「なるほど、平たく言えば寄せて上げる、ってことか」
「まあ、そうかもね」
「それにしても、アオイってこういう下着持ってたんだ、なんか意外な感じ」
「そりゃ、高校生だからね」

 まあ、私も先週買ったばっかりなんだけどね。下着を褒めてくれたことは嬉しい。

「もしかして、上下揃いの下着だったりする?」
「うん……見たい?」
「そりゃ、ね」

 下着のデザインに芸術性を感じたのか、あるいは単なる性欲からなのか。とにかく、アキは下着に興味を持ったようだ。

「別にいいけど……引かないでね」
「なにそれ、そんなに過激なの?」

 私は返事の代わりに、スパッツを下ろしていった。半透明のレースから、うっすらとヘアが透けてしまっているデザインがあらわになるが、もう覚悟は決めたのだ。

「……なんか言いなさい」
「……えっと、アオイも大人になったんだなって」
「なにそれ」

 私のショーツから透けるヘアを見てそう言ったのか、それとも全体的なプロポーションか。まあどちらでもいいか。嫌な気はしない。

「アキだって大人だよ。背も伸びたし、肩幅も広くなったし」
「確かに、昔はアオイのほうが高かったもんな」
「本当に、いつの間に抜かされちゃったんだろうね」

 私は身長差を確かめるように、後ろからアキに抱きついてみた。そして手を前に持っていって、彼のパーカーのジッパーを下ろす。

「おい、何を」
「私だって見せたんだから、あんたも見せなさい」

 後で思い返せば大胆な行動だったと思う。私は有無を言わさずに、彼のTシャツも脱がせて、裸の背中に抱きついた。

「あったかい……」
「……抱きつくのはいいけど、俺だって健康な男子なんだぞ?」
「どういう意味?」

 私の問いかけに対して、アキは返事の代わりに私の腕を引き剥がし、振り向いて正面から抱きついた。

「柔らかいな、いい匂いもする。それに比べて俺は……わかるだろ?」
「うん……硬くなっちゃってる」

 どこがとは言わないが、彼の下半身の一部分が硬くなっていることはズボン越しでもよくわかった。

「ごめん、もうやめよっか」
「やだ」

 手を離して離れようとする彼の背中を、今度は私が抱きしめる。彼は戸惑いつつも、再び私を抱いてくれた。

「……これ、邪魔だよね」

 私は自分の背中に両手を回し、ホックを外す。アキは少しだけ驚いたようだが、肩のストラップは彼の手で下ろしてくれた。抜き取ったブラをベッドに放り投げ、今度は二人で同時に抱きしめ合う。私たちはお互いの心臓の音を直接感じた。
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