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第46話 協力者
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明朝、シェーナとキシャナは台所に集まって開店の最終準備を終えていた。
「そろそろルトルスを起こしてくるよ」
「ああ……昨日は悪いことをしてしまったな。まさかグラス一杯で倒れるとは思わなかった」
葡萄酒のほとんどはキシャナが飲んで、シェーナはルトルスと同じくグラス一杯のみ頂戴した。
多少の酒癖は悪かったキシャナだが、今は完全に酒が抜けている。
シェーナは昨日のことを思い出すと、ルトルスと顔を合わせるのは気恥ずかしい。
「ルトルス、入るよ」
部屋をノックして入ると、ルトルスは鏡の前でエプロン姿になって着心地を確認していた。
「おはよう。昨日は慣れない酒を飲ませてごめん……」
「ああ、シェーナか。昨日は楽しかったよ。酒のことは話してなかったし、気にしないでくれ。情けない話だが、酒を飲んだ後のことは記憶が曖昧で覚えていないんだ。何か変な事をやらかしたりしてなければいいのだが……」
「それは大丈夫だよ! 俺も酒はあまり強くはないから、ルトルスの気持ちはよく分かるよ」
どうやら酒を飲んで後のことは覚えていないようなので、シェーナはとりあえず一安心する。
安易に酒の力に頼って場を盛り上げようと考えていたシェーナはルトルスが酒に弱いことを知らずに気まずい雰囲気を作ってしまった。前世なら、上司が部下に酒を強要させてパワハラと罵ののしられても仕方がない。
「前世で健在だったら、今頃はシェーナやキシャナはお互いにオジサンだったのだろう? 転生者ならではの貴重な話で面白かったよ」
「事情を知らない普通の人にあんな会話をしたら引かれるけどね」
キシャナと出会わなかったら、異世界転生したことを誰にも告げずにいただろう。魔物退治を生業にする冒険者か傭兵稼業に身を投じて、今とは違う人生を踏み出していたかもしれない。
「中身がオッサンの女か……ルトルスは嫌じゃないのか?」
「それでシェーナやキシャナを嫌いになる理由にはならないよ。人なんて隠し事の一つや二つぐらい内に秘めているものさ」
「ルトルスも私に隠し事を?」
「ふふ……秘密さ」
ルトルスは意味ありげな笑みを浮かべると、シェーナの手を握って階下のキシャナと合流する。本当は昨日の台詞を記憶しているのではないかと、シェーナは不安に駆られる。
一同揃ったのを確認すると、まずは経営責任者としてシェーナが一言。
「今日から料理店の開業となります。店の経営は初めての経験なので至らぬことはあるかと思いますが、皆の力を合わせて繁盛させていきたいと思いますので、よろしくお願いします!」
シェーナは頭を軽く下げると、キシャナとルトルスは拍手を送る。
「元気の良い声だね。店の経営者としての風格があるよ」
正面玄関からリィーシャと背後に男の子を連れて現れると、シェーナはリィーシャに一礼して感謝の言葉を述べる。
「今日はお手伝いに参加して下さって、ありがとうございます。その子は……リィーシャさんの子供ですか?」
「君もサリーニャと付き合っている内に冗談が上手くなったね。彼は店を手伝うもう一人の協力者だよ」
リィーシャは男の子にシェーナ達を紹介すると、ルトルスの顔を見て思わず声を上げる。
「ほう……一人だけ懐かしい人物が混ざっているな。ガフェーナの暗黒騎士か」
どうやら男の子はルトルスと知り合いのようだが、ルトルスは首を捻って覚えがないようだ。
「私に子供の知り合いはいない。君は一体?」
単純に男の子がルトルスの武勇を知っていただけかもしれないが、男の子の口ぶりから古くからの知り合いと出会ったような感じだ。
「まあ、こんな姿では分かるまい。以前は勇者を倒すために共闘した魔王とでも言えば分かるかな?」
魔王と自称する男の子はルトルスの瞳に語りかけるように見つめると、ルトルスは半歩引いて青ざめた表情へと移り変わる。
「そろそろルトルスを起こしてくるよ」
「ああ……昨日は悪いことをしてしまったな。まさかグラス一杯で倒れるとは思わなかった」
葡萄酒のほとんどはキシャナが飲んで、シェーナはルトルスと同じくグラス一杯のみ頂戴した。
多少の酒癖は悪かったキシャナだが、今は完全に酒が抜けている。
シェーナは昨日のことを思い出すと、ルトルスと顔を合わせるのは気恥ずかしい。
「ルトルス、入るよ」
部屋をノックして入ると、ルトルスは鏡の前でエプロン姿になって着心地を確認していた。
「おはよう。昨日は慣れない酒を飲ませてごめん……」
「ああ、シェーナか。昨日は楽しかったよ。酒のことは話してなかったし、気にしないでくれ。情けない話だが、酒を飲んだ後のことは記憶が曖昧で覚えていないんだ。何か変な事をやらかしたりしてなければいいのだが……」
「それは大丈夫だよ! 俺も酒はあまり強くはないから、ルトルスの気持ちはよく分かるよ」
どうやら酒を飲んで後のことは覚えていないようなので、シェーナはとりあえず一安心する。
安易に酒の力に頼って場を盛り上げようと考えていたシェーナはルトルスが酒に弱いことを知らずに気まずい雰囲気を作ってしまった。前世なら、上司が部下に酒を強要させてパワハラと罵ののしられても仕方がない。
「前世で健在だったら、今頃はシェーナやキシャナはお互いにオジサンだったのだろう? 転生者ならではの貴重な話で面白かったよ」
「事情を知らない普通の人にあんな会話をしたら引かれるけどね」
キシャナと出会わなかったら、異世界転生したことを誰にも告げずにいただろう。魔物退治を生業にする冒険者か傭兵稼業に身を投じて、今とは違う人生を踏み出していたかもしれない。
「中身がオッサンの女か……ルトルスは嫌じゃないのか?」
「それでシェーナやキシャナを嫌いになる理由にはならないよ。人なんて隠し事の一つや二つぐらい内に秘めているものさ」
「ルトルスも私に隠し事を?」
「ふふ……秘密さ」
ルトルスは意味ありげな笑みを浮かべると、シェーナの手を握って階下のキシャナと合流する。本当は昨日の台詞を記憶しているのではないかと、シェーナは不安に駆られる。
一同揃ったのを確認すると、まずは経営責任者としてシェーナが一言。
「今日から料理店の開業となります。店の経営は初めての経験なので至らぬことはあるかと思いますが、皆の力を合わせて繁盛させていきたいと思いますので、よろしくお願いします!」
シェーナは頭を軽く下げると、キシャナとルトルスは拍手を送る。
「元気の良い声だね。店の経営者としての風格があるよ」
正面玄関からリィーシャと背後に男の子を連れて現れると、シェーナはリィーシャに一礼して感謝の言葉を述べる。
「今日はお手伝いに参加して下さって、ありがとうございます。その子は……リィーシャさんの子供ですか?」
「君もサリーニャと付き合っている内に冗談が上手くなったね。彼は店を手伝うもう一人の協力者だよ」
リィーシャは男の子にシェーナ達を紹介すると、ルトルスの顔を見て思わず声を上げる。
「ほう……一人だけ懐かしい人物が混ざっているな。ガフェーナの暗黒騎士か」
どうやら男の子はルトルスと知り合いのようだが、ルトルスは首を捻って覚えがないようだ。
「私に子供の知り合いはいない。君は一体?」
単純に男の子がルトルスの武勇を知っていただけかもしれないが、男の子の口ぶりから古くからの知り合いと出会ったような感じだ。
「まあ、こんな姿では分かるまい。以前は勇者を倒すために共闘した魔王とでも言えば分かるかな?」
魔王と自称する男の子はルトルスの瞳に語りかけるように見つめると、ルトルスは半歩引いて青ざめた表情へと移り変わる。
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