群雄割拠した異世界では訳アリな人物で溢れていた

霧矢風月

文字の大きさ
46 / 110

第46話 協力者

しおりを挟む
 明朝、シェーナとキシャナは台所に集まって開店の最終準備を終えていた。

「そろそろルトルスを起こしてくるよ」
「ああ……昨日は悪いことをしてしまったな。まさかグラス一杯で倒れるとは思わなかった」

 葡萄酒のほとんどはキシャナが飲んで、シェーナはルトルスと同じくグラス一杯のみ頂戴した。
 多少の酒癖は悪かったキシャナだが、今は完全に酒が抜けている。
 シェーナは昨日のことを思い出すと、ルトルスと顔を合わせるのは気恥ずかしい。

「ルトルス、入るよ」

 部屋をノックして入ると、ルトルスは鏡の前でエプロン姿になって着心地を確認していた。

「おはよう。昨日は慣れない酒を飲ませてごめん……」
「ああ、シェーナか。昨日は楽しかったよ。酒のことは話してなかったし、気にしないでくれ。情けない話だが、酒を飲んだ後のことは記憶が曖昧で覚えていないんだ。何か変な事をやらかしたりしてなければいいのだが……」
「それは大丈夫だよ! 俺も酒はあまり強くはないから、ルトルスの気持ちはよく分かるよ」

 どうやら酒を飲んで後のことは覚えていないようなので、シェーナはとりあえず一安心する。
 安易に酒の力に頼って場を盛り上げようと考えていたシェーナはルトルスが酒に弱いことを知らずに気まずい雰囲気を作ってしまった。前世なら、上司が部下に酒を強要させてパワハラと罵ののしられても仕方がない。

「前世で健在だったら、今頃はシェーナやキシャナはお互いにオジサンだったのだろう? 転生者リインカーネーションならではの貴重な話で面白かったよ」
「事情を知らない普通の人にあんな会話をしたら引かれるけどね」

 キシャナと出会わなかったら、異世界転生したことを誰にも告げずにいただろう。魔物退治を生業にする冒険者か傭兵稼業に身を投じて、今とは違う人生を踏み出していたかもしれない。

「中身がオッサンの女か……ルトルスは嫌じゃないのか?」
「それでシェーナやキシャナを嫌いになる理由にはならないよ。人なんて隠し事の一つや二つぐらい内に秘めているものさ」
「ルトルスも私に隠し事を?」
「ふふ……秘密さ」

 ルトルスは意味ありげな笑みを浮かべると、シェーナの手を握って階下のキシャナと合流する。本当は昨日の台詞を記憶しているのではないかと、シェーナは不安に駆られる。
 一同揃ったのを確認すると、まずは経営責任者としてシェーナが一言。

「今日から料理店の開業となります。店の経営は初めての経験なので至らぬことはあるかと思いますが、皆の力を合わせて繁盛させていきたいと思いますので、よろしくお願いします!」

 シェーナは頭を軽く下げると、キシャナとルトルスは拍手を送る。

「元気の良い声だね。店の経営者としての風格があるよ」

 正面玄関からリィーシャと背後に男の子を連れて現れると、シェーナはリィーシャに一礼して感謝の言葉を述べる。

「今日はお手伝いに参加して下さって、ありがとうございます。その子は……リィーシャさんの子供ですか?」
「君もサリーニャと付き合っている内に冗談が上手くなったね。彼は店を手伝うもう一人の協力者だよ」

 リィーシャは男の子にシェーナ達を紹介すると、ルトルスの顔を見て思わず声を上げる。

「ほう……一人だけ懐かしい人物が混ざっているな。ガフェーナの暗黒騎士か」

 どうやら男の子はルトルスと知り合いのようだが、ルトルスは首を捻って覚えがないようだ。

「私に子供の知り合いはいない。君は一体?」

 単純に男の子がルトルスの武勇を知っていただけかもしれないが、男の子の口ぶりから古くからの知り合いと出会ったような感じだ。

「まあ、こんな姿では分かるまい。以前は勇者を倒すために共闘した魔王とでも言えば分かるかな?」

 魔王と自称する男の子はルトルスの瞳に語りかけるように見つめると、ルトルスは半歩引いて青ざめた表情へと移り変わる。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

断罪後のモブ令息、誰にも気づかれずに出奔する

まる
ファンタジー
断罪後のモブ令息が誰にも気づかれないよう出奔して幸せを探す話

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

田舎娘、追放後に開いた小さな薬草店が国家レベルで大騒ぎになるほど大繁盛

タマ マコト
ファンタジー
【大好評につき21〜40話執筆決定!!】 田舎娘ミントは、王都の名門ローズ家で地味な使用人薬師として働いていたが、令嬢ローズマリーの嫉妬により濡れ衣を着せられ、理不尽に追放されてしまう。雨の中ひとり王都を去ったミントは、亡き祖母が残した田舎の小屋に戻り、そこで薬草店を開くことを決意。森で倒れていた謎の青年サフランを救ったことで、彼女の薬の“異常な効き目”が静かに広まりはじめ、村の小さな店《グリーンノート》へ、変化の風が吹き込み始める――。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。 毎日19時に更新予定です。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

処理中です...