88 / 110
第88話 克服
しおりを挟む
心的外傷後ストレス障害についての症状をペトラは簡単に説明する。
治療方法は主に薬物療法や心理療法がある。
残念ながら、この異世界で薬物療法の治療は難しいと判断せざるを得ない。
残るは心的療法になるが、症状の軽減を図れて治療方法を熟知した医者がいない。
シェーナは拳を強く握り、グラナに詰め寄って回復の手立てはないか訊ねる。
「グラナの回復魔法で完治させることはできないのか?」
「無理だ。ある程度の魔法効果は見込めるけど、根本的な部分はルトルス自身が克服するしか方法はない」
グラナは回復魔法による治療を終えると、普段の生活を営むのは問題ないが、魔物討伐は無理だと診断を下す。
魔物討伐中に天候が晴れのままだと言う保証はないし、命を落とす危険が大きい。
ルトルスにとって、騎士としての生命線を絶たれることは残酷な現実である。
完治させるには険しい道のりだろう。
シェーナはできることなら何でもするつもりだし、せめてルトルスに不安や苦痛を与えない環境を整えていくことから始めようと思う。
今後の『闇核』回収はルトルスを外して、ギルドに委託する方法にシフトさせるしかない。
ルトルスは嫌がるだろうが、彼女を守るには仕方ない処置だ。
「店の責任者として……ルトルスには俺が直接話すよ。納得してくれるか分からないけど、俺は彼女の完治を全面的に支援するつもりだ」
「私も回復魔法による治療は続けていく。きっとルトルスなら克服してくれると信じている」
シェーナとルトルスは覚悟を決めてルトルスの治療に努めるつもりだ。
回復魔法は使えないペトラも仕事仲間の復帰を心から祈る。
「私も彼女とはそれなりに付き合いは長い。これはお守りだが、目を覚ましたら渡してあげてくれ」
リィーシャは懐から小さなお守りを出すと、シェーナに託して宮殿の仕事へと戻っていった。
しばらくすると、雨足は弱くなって雷は鳴り止んだ。
ルトルスはベッドから目覚めると、傍にシェーナの姿があった。
「よかった。気分はどうだい?」
「……少し頭がぼーっとするが、大丈夫だ」
「ご飯を用意してあるから、待っててね」
「いや、ちゃんと歩けるから平気だ。ここは私の自室だろう? 階下の食堂まで歩いて行くよ」
足取りはしっかりしていて、精神も安定して問題はなさそうだ。
階下ではキシャナがルトルスの好物な料理を作っていた。
「目が覚めたかい。シェーナとルトルスのデート中に、こっちはサリーニャがペトラに説教を始めて大変だったよ」
キシャナは食卓に料理を並べていくと、皆は席に着いて食事を始めた。
「……すまない。皆には黙っていたが、私は雷が苦手だ。それでシェーナや周りの皆に迷惑をかけた」
「俺も苦手な物はあるから、お互い様さ」
「シェーナ……気を遣わないでくれ。グラナが魔法で治療を施してくれた時から、皆の会話は聞いていた。私を『闇核』回収から外すこともな」
ルトルスは皆に視線を移すと、無念そうな顔で涙を浮かべる。
シェーナは立ち上がると、ルトルスの横で中腰になって目線を合わせる。
「確かに回収の仕事からは外すよ。でも、ルトルスにはここで料理を一緒に作って欲しい。治療は長期になるけど、完治は必ずできる!」
「剣を振るえない私を……見捨てないのか?」
「ここにそんな薄情な奴はいないよ。むしろ、ルトルスには料理と回収を兼任させて申し訳ないと思っていた。雷が苦手なことを隠すために回収を頑張っていたのなら、もうそんな必要はないよ。これからは治療に専念していこう」
シェーナはルトルスの頭を軽く撫でると、ルトルスはシェーナに抱き付いて思いをぶつけた。
治療方法は主に薬物療法や心理療法がある。
残念ながら、この異世界で薬物療法の治療は難しいと判断せざるを得ない。
残るは心的療法になるが、症状の軽減を図れて治療方法を熟知した医者がいない。
シェーナは拳を強く握り、グラナに詰め寄って回復の手立てはないか訊ねる。
「グラナの回復魔法で完治させることはできないのか?」
「無理だ。ある程度の魔法効果は見込めるけど、根本的な部分はルトルス自身が克服するしか方法はない」
グラナは回復魔法による治療を終えると、普段の生活を営むのは問題ないが、魔物討伐は無理だと診断を下す。
魔物討伐中に天候が晴れのままだと言う保証はないし、命を落とす危険が大きい。
ルトルスにとって、騎士としての生命線を絶たれることは残酷な現実である。
完治させるには険しい道のりだろう。
シェーナはできることなら何でもするつもりだし、せめてルトルスに不安や苦痛を与えない環境を整えていくことから始めようと思う。
今後の『闇核』回収はルトルスを外して、ギルドに委託する方法にシフトさせるしかない。
ルトルスは嫌がるだろうが、彼女を守るには仕方ない処置だ。
「店の責任者として……ルトルスには俺が直接話すよ。納得してくれるか分からないけど、俺は彼女の完治を全面的に支援するつもりだ」
「私も回復魔法による治療は続けていく。きっとルトルスなら克服してくれると信じている」
シェーナとルトルスは覚悟を決めてルトルスの治療に努めるつもりだ。
回復魔法は使えないペトラも仕事仲間の復帰を心から祈る。
「私も彼女とはそれなりに付き合いは長い。これはお守りだが、目を覚ましたら渡してあげてくれ」
リィーシャは懐から小さなお守りを出すと、シェーナに託して宮殿の仕事へと戻っていった。
しばらくすると、雨足は弱くなって雷は鳴り止んだ。
ルトルスはベッドから目覚めると、傍にシェーナの姿があった。
「よかった。気分はどうだい?」
「……少し頭がぼーっとするが、大丈夫だ」
「ご飯を用意してあるから、待っててね」
「いや、ちゃんと歩けるから平気だ。ここは私の自室だろう? 階下の食堂まで歩いて行くよ」
足取りはしっかりしていて、精神も安定して問題はなさそうだ。
階下ではキシャナがルトルスの好物な料理を作っていた。
「目が覚めたかい。シェーナとルトルスのデート中に、こっちはサリーニャがペトラに説教を始めて大変だったよ」
キシャナは食卓に料理を並べていくと、皆は席に着いて食事を始めた。
「……すまない。皆には黙っていたが、私は雷が苦手だ。それでシェーナや周りの皆に迷惑をかけた」
「俺も苦手な物はあるから、お互い様さ」
「シェーナ……気を遣わないでくれ。グラナが魔法で治療を施してくれた時から、皆の会話は聞いていた。私を『闇核』回収から外すこともな」
ルトルスは皆に視線を移すと、無念そうな顔で涙を浮かべる。
シェーナは立ち上がると、ルトルスの横で中腰になって目線を合わせる。
「確かに回収の仕事からは外すよ。でも、ルトルスにはここで料理を一緒に作って欲しい。治療は長期になるけど、完治は必ずできる!」
「剣を振るえない私を……見捨てないのか?」
「ここにそんな薄情な奴はいないよ。むしろ、ルトルスには料理と回収を兼任させて申し訳ないと思っていた。雷が苦手なことを隠すために回収を頑張っていたのなら、もうそんな必要はないよ。これからは治療に専念していこう」
シェーナはルトルスの頭を軽く撫でると、ルトルスはシェーナに抱き付いて思いをぶつけた。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
69
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる