11 / 15
2.まずいぞ王宮
4
今回の里帰りは、ノルメール公爵の母君、つまりアマールカの祖母が先日体調を崩したのでその見舞いということになっている。
しかしもちろんそんなものは建前で、実際は今回の王太子の女性問題のせいだというのは誰の目にも明らかなことだった。
そして、王太子妃である自分がそう簡単に王宮を離れるわけにはいかないと言っていたアマールカが結局里帰りを承諾したのは、祖母君ご本人の強い希望のためだった。
『頭がしっかりしているうちにどうしても孫娘に会いたい。来たる収穫祭に合わせて家族や親戚が公爵家に集まる、その時に死後の財産分与について話をする予定だ。アマールカに譲ると決めているものもあるし、老い先短い老人の願いをどうか聞いてほしい』
という祖母君からの手紙を見て、アマールカは両陛下と王太子に、しばらく実家に帰らせていただきたいと願い出たのだった。
その時すでにアマールカはいつもよりかなり痩せていた。
そのため王も王妃も王太子も、実家でゆっくり静養するよう言った。
長くても数週間程度で戻って来るものと思い、それを疑うことすらしなかった。
王太子は自分がやらかした事の後始末のためとはいえ、すっかり疲弊していた。
「やらかした事」の詳細をアマールカに説明することはしなかった。
結局自分に非があるのだから、女々しく言い訳をしてこれ以上恥の上塗りをするのは嫌だった。
嘘をつくことはそれ以上に嫌だったので、端的に説明し、謝罪した。
『泥酔して、夜会に来ていたオーシバ男爵の娘と関係を持った。馬鹿なことをした、本当に申し訳ない』
生まれて初めて誰かの前に跪き、頭を垂れ、どうか許してくれと嘆願した。
アマールカは表情を変えぬまま、今夜はひとりにしてほしいと言った。
長い長い夜が明け、ようやくアマールカから聞けた言葉が耳に残って離れない。
『わたくしが許すとか許さないとか、それは重要ではありません。ただ、この国のことを考えて行動していくしかありません。それが王家の人間というものですから』
凪いだ海にように穏やかで、静かで、強い声だった。
アマールカは一個人としての感情を捨て、王室の一員として、王太子妃としてどうするべきなのか考え、答えを出したのだ。
その言葉は、シュタイナーの胸に刺さった。いっそ罵倒してくれたら、怒って泣いてくれたらと思った。
(自分が立てた貞操の誓いを破ったことを、アマールカはどう思っているのだろうか。なんの効力ももたない口約束だからと諦めているのだろうか。それとも、初めから守らないだろうと思われていたのだろうか)
そう思うと寂しい気持ちになったが、アマールカの方が正しかった。
国王または王太子に愛された女性はすぐに宮殿に部屋を与えられ、側妃あるいは妾として暮らす。
女が妊娠した場合に備えての決まりだ。
落とし胤が行方知れずになって、民衆に紛れてしまうことがないように。
逆に他の男の胤が直系の血筋に紛れ込むこともないように。
王室における妾の立場は不安定であり、側妃であっても何か大きな問題を起こせば離縁されることもある。
しかし、そのようなことがなければ基本的に王や王太子の妻もしくは愛人として、ずっと王宮の一室で暮らす。
過去には豪奢な離宮を贈られ、そこの女主人として気ままに楽しく暮らした側妃もいた一方で、すぐに飽きられて捨てられた妾や収賄等の罪を犯すなどして離縁されたり投獄されたりした女たちもいた。
(アマールカが望む通り、自分は責任をとらなければいけない)
王太子はそう考えてはいた。
だから、アンナ・オーシバを不安定な弱い立場の妾ではなく、歴とした側妃にすることにした。
一体なぜなのだろう。
しかし、王太子なりに一生懸命考えた結果であったのだ。
しかしもちろんそんなものは建前で、実際は今回の王太子の女性問題のせいだというのは誰の目にも明らかなことだった。
そして、王太子妃である自分がそう簡単に王宮を離れるわけにはいかないと言っていたアマールカが結局里帰りを承諾したのは、祖母君ご本人の強い希望のためだった。
『頭がしっかりしているうちにどうしても孫娘に会いたい。来たる収穫祭に合わせて家族や親戚が公爵家に集まる、その時に死後の財産分与について話をする予定だ。アマールカに譲ると決めているものもあるし、老い先短い老人の願いをどうか聞いてほしい』
という祖母君からの手紙を見て、アマールカは両陛下と王太子に、しばらく実家に帰らせていただきたいと願い出たのだった。
その時すでにアマールカはいつもよりかなり痩せていた。
そのため王も王妃も王太子も、実家でゆっくり静養するよう言った。
長くても数週間程度で戻って来るものと思い、それを疑うことすらしなかった。
王太子は自分がやらかした事の後始末のためとはいえ、すっかり疲弊していた。
「やらかした事」の詳細をアマールカに説明することはしなかった。
結局自分に非があるのだから、女々しく言い訳をしてこれ以上恥の上塗りをするのは嫌だった。
嘘をつくことはそれ以上に嫌だったので、端的に説明し、謝罪した。
『泥酔して、夜会に来ていたオーシバ男爵の娘と関係を持った。馬鹿なことをした、本当に申し訳ない』
生まれて初めて誰かの前に跪き、頭を垂れ、どうか許してくれと嘆願した。
アマールカは表情を変えぬまま、今夜はひとりにしてほしいと言った。
長い長い夜が明け、ようやくアマールカから聞けた言葉が耳に残って離れない。
『わたくしが許すとか許さないとか、それは重要ではありません。ただ、この国のことを考えて行動していくしかありません。それが王家の人間というものですから』
凪いだ海にように穏やかで、静かで、強い声だった。
アマールカは一個人としての感情を捨て、王室の一員として、王太子妃としてどうするべきなのか考え、答えを出したのだ。
その言葉は、シュタイナーの胸に刺さった。いっそ罵倒してくれたら、怒って泣いてくれたらと思った。
(自分が立てた貞操の誓いを破ったことを、アマールカはどう思っているのだろうか。なんの効力ももたない口約束だからと諦めているのだろうか。それとも、初めから守らないだろうと思われていたのだろうか)
そう思うと寂しい気持ちになったが、アマールカの方が正しかった。
国王または王太子に愛された女性はすぐに宮殿に部屋を与えられ、側妃あるいは妾として暮らす。
女が妊娠した場合に備えての決まりだ。
落とし胤が行方知れずになって、民衆に紛れてしまうことがないように。
逆に他の男の胤が直系の血筋に紛れ込むこともないように。
王室における妾の立場は不安定であり、側妃であっても何か大きな問題を起こせば離縁されることもある。
しかし、そのようなことがなければ基本的に王や王太子の妻もしくは愛人として、ずっと王宮の一室で暮らす。
過去には豪奢な離宮を贈られ、そこの女主人として気ままに楽しく暮らした側妃もいた一方で、すぐに飽きられて捨てられた妾や収賄等の罪を犯すなどして離縁されたり投獄されたりした女たちもいた。
(アマールカが望む通り、自分は責任をとらなければいけない)
王太子はそう考えてはいた。
だから、アンナ・オーシバを不安定な弱い立場の妾ではなく、歴とした側妃にすることにした。
一体なぜなのだろう。
しかし、王太子なりに一生懸命考えた結果であったのだ。
あなたにおすすめの小説
「通訳など辞書で足りる」と追放された令嬢——三国会談で、婚約者は一言も話せなくなった
歩人
ファンタジー
宮廷通訳官エレノーラは五つの言語を操り、婚約者クラウスの外交を陰で支えてきた。
だがクラウスは言った。「通訳など辞書で足りる。お前は要らない」
追放されたエレノーラは隣国で新たな道を歩み始める。
一方、クラウスは三国会談の場で辞書片手に立ち往生。
誤訳が外交問題に発展し、窮地に陥ったその場に、隣国の通訳官として現れたのは——。
「その言葉は、もう翻訳できません」
何も言わずメイドとして働いてこい!とポイされたら、成り上がり令嬢になりました
さち姫
恋愛
シャーリー・サヴォワは伯爵家の双子の妹として産まれた 。実の父と双子の姉、継母に毎日いじめられ、辛い日々を送っていた。特に綺麗で要領のいい双子の姉のいつも比べられ、卑屈になる日々だった。
そんな事ある日、父が、
何も言わず、メイドして働いてこい、
と会ったこともないのにウインザー子爵家に、ポイされる。
そこで、やっと人として愛される事を知る。
ウインザー子爵家で、父のお酒のおつまみとして作っていた料理が素朴ながらも大人気となり、前向きな自分を取り戻していく。
そこで知り合った、ふたりの男性に戸惑いながらも、楽しい三角関係が出来上がっていく。
やっと人間らしく過ごし始めたのに、邪魔をする家族。
その中で、ウインザー子爵の本当の姿を知る。
前に書いていたいた小説に加筆を加えました。ほぼ同じですのでご了承ください。
また、料理については個人的に普段作っているのをある程度載せていますので、深く突っ込むのはやめてくださいm(*_ _)m
第1部の加筆が終わったので、ここから毎日投稿致しますm(_ _)m
「仲睦まじい夫婦」であるはずのわたしの夫は、わたしの葬儀で本性をあらわした
ぽんた
恋愛
サヤ・ラドフォード侯爵夫人が死んだ。その葬儀で、マッケイン王国でも「仲睦まじい夫婦」であるはずの彼女の夫が、妻を冒涜した。その聞くに堪えない本音。そんな夫の横には、夫が従妹だというレディが寄り添っている。サヤ・ラドフォードの棺の前で、夫とその従妹はサヤを断罪する。サヤは、ほんとうに彼らがいうような悪女だったのか?
※ハッピーエンド確約。ざまぁあり。ご都合主義のゆるゆる設定はご容赦願います。
「美しい女性(ヒト)、貴女は一体、誰なのですか?」・・・って、オメエの嫁だよ
猫枕
恋愛
家の事情で12才でウェスペル家に嫁いだイリス。
当時20才だった旦那ラドヤードは子供のイリスをまったく相手にせず、田舎の領地に閉じ込めてしまった。
それから4年、イリスの実家ルーチェンス家はウェスペル家への借金を返済し、負い目のなくなったイリスは婚姻の無効を訴える準備を着々と整えていた。
そんなある日、領地に視察にやってきた形だけの夫ラドヤードとばったり出くわしてしまう。
美しく成長した妻を目にしたラドヤードは一目でイリスに恋をする。
「美しいひとよ、貴女は一体誰なのですか?」
『・・・・オメエの嫁だよ』
執着されたらかなわんと、逃げるイリスの運命は?
生贄として捧げられた「忌み子」の私、あやかし皇帝の薬膳料理番になります ~呪いで拒食症の白虎陛下は、私のおかゆに胃袋を掴まれたようです~
腐ったバナナ
恋愛
実家の「一条家」で霊力なしの忌み子として虐げられてきた凛。生贄としてあやかしの国・天厳国へ捧げられた彼女を待っていたのは、呪いによって食事がすべて「泥の味」に変わる孤独な白虎皇帝・白曜だった。
死を覚悟した凛だったが、前世で培った「管理栄養士」の知識は、あやかしの国では伝説の「浄化の力」として目醒める!
最高級の出汁、完璧な栄養バランス、そして食べる者を想う真心。凛が作る一杯の「黄金の粥」が、数年間不食だった王の味覚を劇的に呼び起こした。
「美味い。……泥ではない味がする」
胃袋を掴まれた皇帝の態度は一変。冷酷な暴君から、凛を誰にも触れさせたくない「超絶過保護な独占欲の塊」へと豹変してしまい……!?
嫌がらせをする後宮の妃や、手の平を返して擦り寄る実家を「料理」と「陛下からの愛」で一掃する、美味しくて爽快な異世界中華風ファンタジー。
夫「お前は価値がない女だ。太った姿を見るだけで吐き気がする」若い彼女と再婚するから妻に出て行け!
佐藤 美奈
恋愛
華やかな舞踏会から帰宅した公爵夫人ジェシカは、幼馴染の夫ハリーから突然の宣告を受ける。
「お前は価値のない女だ。太った姿を見るだけで不快だ!」
冷酷な言葉は、長年連れ添った夫の口から発せられたとは思えないほど鋭く、ジェシカの胸に突き刺さる。
さらにハリーは、若い恋人ローラとの再婚を一方的に告げ、ジェシカに屋敷から出ていくよう迫る。
優しかった夫の変貌に、ジェシカは言葉を失い、ただ立ち尽くす。
殿下をくださいな、お姉さま~欲しがり過ぎた妹に、姉が最後に贈ったのは死の呪いだった~
和泉鷹央
恋愛
忌み子と呼ばれ、幼い頃から実家のなかに閉じ込められたいた少女――コンラッド伯爵の長女オリビア。
彼女は生まれながらにして、ある呪いを受け継いだ魔女だった。
本当ならば死ぬまで屋敷から出ることを許されないオリビアだったが、欲深い国王はその呪いを利用して更に国を豊かにしようと考え、第四王子との婚約を命じる。
この頃からだ。
姉のオリビアに婚約者が出来た頃から、妹のサンドラの様子がおかしくなった。
あれが欲しい、これが欲しいとわがままを言い出したのだ。
それまではとても物わかりのよい子だったのに。
半年後――。
オリビアと婚約者、王太子ジョシュアの結婚式が間近に迫ったある日。
サンドラは呆れたことに、王太子が欲しいと言い出した。
オリビアの我慢はとうとう限界に達してしまい……
最後はハッピーエンドです。
別の投稿サイトでも掲載しています。
【完結】旦那様!単身赴任だけは勘弁して下さい!
たまこ
恋愛
エミリーの大好きな夫、アランは王宮騎士団の副団長。ある日、栄転の為に辺境へ異動することになり、エミリーはてっきり夫婦で引っ越すものだと思い込み、いそいそと荷造りを始める。
だが、アランの部下に「副団長は単身赴任すると言っていた」と聞き、エミリーは呆然としてしまう。アランが大好きで離れたくないエミリーが取った行動とは。