ひかる宮のお話 男女逆転源氏物語

糸掛 理真

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第一章 桐壺

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 宮中では、帝が中庭の秋草の花が今を盛りと色美しく咲き誇っているのをご覧になるふりをして、気配りのきく優しい女房四、五人だけをおそばに召し、しんみりとお話などしていました。

 この頃は、宇多上皇が描かせた長恨歌の絵を明け暮れ見ています。

 長恨歌は、玄宗皇帝と楊貴妃の悲恋を題材にした詩です。

 その絵に添えてある伊勢や紀貫之の和歌なども、恋人との死別の悲しみを歌ったものだけを口ずさみ、そういうお話ばかりを常に話題にしています。

 初めて更衣に出会った頃の思い出まで掻き集め、生前は束の間も離れずにいられなかったのに、よくぞまあこうして死別した月日を過ごせたものだと、自分のことながら呆れ果ててしまうほどなのでした。

 「故大納言の遺言に背かず宮仕えの本意を立て通してくれた礼としては、いつかは更衣を女御や中宮にして報いてやりたいと思い続けてきたのに、それも今は甲斐のないことになってしまった」

 と帝は言い、更衣の母君の身を一層哀れに思いやります。

 風の声、虫の音につけても、帝にはこの世のすべてが物悲しく思われます。

 その一方で、帝に召されることのないまま久しく清涼殿のお局にも上がっていない弘徽殿の女御は、今夜は美しい月を鑑賞し、夜遅くまで管弦のお遊びに興じています。

 帝は、伝わってくるその賑やかな楽の音を耳にして、

 「なんという気性の烈しい人だろう、不愉快な」

 と苦々しく思うのでした。

 この頃の帝のご様子を見ている殿上人や女房たちも、はらはらして聞いていました。

 もともとこの女御はひどく我の強い、刺々しい気性なので、帝の傷心など無視しきってそんな振る舞いをするのでしょう。
 
 そのうち月も見えなくなりましたが、帝は寝所に入ってからも、うとうとすることも出来ません。

 朝目覚めても、更衣の生前は二人で夜の明けたのも知らず共寝して、朝政あさまつりごとを怠っていたことを恋しく思い出します。

 それにつけても更衣と愛し合った昔の日々が懐かしくてならず、やはり今もついつい朝政は怠りがちになるようでした。

 食事も摂らず、略式の朝食にほんの形ばかり箸をつけるだけです。

 帝のお側に仕える人々は皆、

 「本当に困ったことですね」

 と言い合っています。

 「こうなる前世の約束がきっとおありだったのでしょうね。帝は更衣のことで多くの人々から恨まれたり、謗られたりなさっても一向にお気にかけず、このことに関してだけはものの道理も失われていらっしゃった。更衣の亡くなられた今はまた、こんなふうに世の中のことを何もかも思い捨てられたようになっていかれるのは、全く困ったことです」

 などと、よその国の朝廷の例まで引き合いに出して、ひそひそと嘆き合うのでした。
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