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迷路館の戦い

第236話 迷路館の戦い『王の決意』

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 「呼ばれて飛び出て、じゃじゃじゃじゃぁーーぁああーーんっ!!」

 そう言って、オレたちの目の前に現れたのは、月氏の種族のアーリくん、ジロキチ、オリンの三人衆だった。

 なんだか聞いたことのあるセリフだな……。

 懐かしい……。



 「いや、アーリくんもジロキチも、オリンも! 元気そうだね?」

 「はい! 実はさっきまで、あの魔女ロウヒ様と交易の商談をしていたのですよ!?」

 「そうなんです! アーリ様はどんどんアニメ上映のための『映画館』なる施設の波及に勤しんでいるのです!」

 「拙者も『イラム』特産のイラム紅茶ティーバッグ詰め合わせの販路を、せっせと開拓しているでございやす!」

 「ほお? よくやってくれているね。」

 「「いやぁ……。それほどでも! あります!!」」

 三人、いや三匹が調子を合わせる。

 なんともお調子者な三匹のネズミたちだな。



 「ところで、ジン様。僕らを呼ばれましたが、どういったご用命でしょうか?」

 「うん。実は……。この『迷路館』の迷路を抜けたいんだ。」

 「は……?」

 「迷路……ですか?」

 「それはまた、どうして私達に?」

 「うん……。実は……。」



 「それはワタクシからご説明いたしましょう。あなた方月氏の種族には『迷路の攻略』の才能があると推測されたのです。」

 「え……!?」

 「そうなんだ。オレのいた世界……、おっと、いや、オレの見立てでは君たち種族は迷路のゴールに向かう感覚・センスに優れていると思うんだよ!」

 「え、えぇ……!?」

 「そんな……!?」

 「いえ。アーリ様。たしかに私たち月氏は砂漠の迷路でもオアシスを探し当てるスキルを持っています。」

 「そういえば、たしかに!!」

 え、ええ……?

 本当に迷路を抜ける習性があるのかよ!?

 ネズミの種族、恐るべし!



 「じゃあ、アーリくん、オリン、ジロキチ! 案内を頼むね。目指すはトゥオニ王がいる大広間だ!」

 「はぁーい! じゃあ、行きますよ?」

 アーリくんが先陣を切って前を進んでいく。

 アーリくんと一緒に行動するのも久しぶりだな。

 そういえば、この世界で目覚めて一番最初にこの世界で生きているヒト(?)で出会ったのがアーリくんだったな……。

 出会った頃よりずいぶん頼もしくなったなぁ……。

 オレは思わず親目線で見るかのようにアーリくんを見てしまう。

 ハムスターのような見た目がいっそう可愛らしい。



 迷路の奥に向かって、三匹がトコトコと進んでいく。

 こんなアニメがあったなぁ……。

 ぴょっとこハムスケ……だったかな。

 可愛い三匹の後ろをオレたちはただついていくのだった……。



 *****





 『トゥオネラ』の地下迷宮の最奥にある大広間に、『トゥオネラ』の王・トゥオニが座している。

 その大広間に近づく一団がいた……。

 黒い闇の波動をまといし仮面のその男とその配下の者たち……、『虚空の者ら』であった。



 「ヴァニタス様? いかがなさいましたか?」

 「ああ。リリン……。追ってくる者がいる……。」

 「な……!? まさか? この迷宮を抜けてくる者など……、さきほどネズミどもはすべて始末したはずですわ……。」

 「ヴァニタス様の特別な感覚でおわかりになられたのか……。このパズズが風を感じることもできないとは……。」

 「むふ♡ さっすがはヴァニタス様。この黒タイツ……感激…・・・しちゃうわ♡」



 「ふむ……。こんなところで邂逅を果たすとは……な。どうやら、オレが直接出向く必要があるか……。」

 ヴァニタスがつぶやく。

 そこに応える者がいた。



 「ヴァニタス様ぁ……。ここはこの俺にお任せあれ!」

 「ジャック・ザ・リッパー……。いくらおまえでもヤツには叶わぬ……やもしれぬぞ? ヤツには魔神の加護があるのだ。」

 「きひひひ……。ということは、俺が殺っちゃってもかまわない……ってことでいいですかねぇ?」

 「殺れるなら……な?」

 「言質取りましたよ!? きぃーっひっひ! あの小僧め。あの『コショウジャック』の時の借りを返してやる! 待っていろぉ!? ひっひっひ……。」

 そういうが早いか切り裂きジャックは姿を消したのだった……。



 *****



 トゥオニ王が顔を上げ、傍に控えていた王妃トゥオネタルに声をかけた。

 「妃よ。娘たちを連れて、脱出経路を行くのだ。」

 「……っ!? 王!? まさか……!? 本宮らに……、『逃げよ』と仰せか……?」

 「……うむ。ここに今、恐るべき者どもが近づいてきておる。アレは……この世界の理を崩す者、『虚空』の者である。」

 「なっ!? 『虚空』ですって!?」

 「ああ。かの『虚空』の者らはいずれの世界からこの現世に現れたのか誰も知らぬ……。ただ、この世界の魔神をも超越するという……。」

 「そ……、そんな……!? 今、迫ってきているのは『エルフ国』の者たちではなかったのですか!? 王よ……。」



 「どこから舞い込んでこられたか見当もつかぬが、事実である。『不死』の理さえ断たれるその恐るべきチカラに余のチカラでは敵わぬであろうよ。」

 「……わかりました。王の仰せのままに……。娘たちを連れて本宮は脱出を図ります。王も……、お元気で……。」

 「ふふ……。余は『不死』であるぞ? 冥府『トゥオネラ』の王がこのようなことで死ぬはずもあるまい? 早う行くのだ。」

 王妃トゥオネタルは、王に別れを告げると急いで、大広間から出ていったのであった。



 「レダ! 近うよれ!」

 「はい。トゥオニ様。」

 魔女レダがトゥオニ王の前に進み出る。





 「カストールとポルックスが破れたぞ?」

 「は! 我が息子たちの不甲斐ない姿をお見せしまして、申し訳ありません……。」

 「よい……。そこは問題ではない。それよりも、『虚空』の者らがここに迫ってきておる……。たとえ余が不死の身であろうと敵うまい。おまえも息子たちの元へ行くが良い。カストールはいざ知らずポルックスは不死身……、生きておろうて?」

 「そ……、そんな! 畏れ多くもトゥオニ王を置いて私だけが逃げるわけに行きません!」

 「そなたはよく余に仕えてくれた。『法国』を裏切ってまで余についてきてくれたこと余は感謝しておる。余は『不死国』の真祖パイア様に大恩があるゆえ、死してもその恩に報いるつもりだ。だが……、そなたはもう余に付き合う必要はない……。」



 「いいえ! 私は!! 最後までトゥオニ様にお仕えしとうございます!!」

 「レダ……。我が息子……カストールを託せるのは……、そなただけであるぞ?」

 「はっ……!? そ……、それは……。でも! トゥオニ様!!」

 「うむ。そなたを日陰の身にさせてしまったことを許せ。そして、カストールにも父として名乗れなかったことを……。」

 「トゥオニ様!!」



 厳密にはカストールとポルックスは双子ではなく、カストールとクリュタイムネーストラーがトゥオニ・テュンダレオース(後の『トゥオネラ』の王)とレダとの、またポルックスとヘレネーはゼウスとレダとの間の双子であった(一種の重複妊娠で、人間では極めて珍しい)。

 つまり神の血を引かないカストールは弟と違って不死身ではないのだ。

 そして、トゥオニ王はカストールのみを案じ、レダに託すというのだった。



 「たれか!」

 「は! ここに!」

 「うむ……。ガグの女頭領、ガグベルドナか……。そなたにレダと双子を託すぞ……。レダを連れて行くのだ!」

 「承知しました! 我が種族は……、トゥオニ王と共に!! いいか!? てめぇら! トゥオニ王をお守りするのだ!!」

 「「ヴォオオヴォオオオオ!!!」」






 ガグ種族たちは、容姿は毛むくじゃらの巨体で身長は優に6mはあり、ガースト(Ghasts)を食べて生活をしている。

 ほぼ人間と同じ形をしているが、腕に前腕が2つずつあり、顔には巨大な牙がはえた口がある。

 またその口は横ではなく垂直に開くのは大きな特徴だ。

 様々な神性を崇拝し悍ましい儀式を行なったためにこの『トゥオネラ』の地下に追いやられたのだった。



 「トゥオニ様!! 私もお傍にいさせてください!!」

 「レダ様! お許しを!」

 ガグベルドナがレダを小脇に抱え、王の間を去っていく……。

 トゥオニはもうレダを見なかった。




 「トゥオニさまぁああああああーーーーっ!!」

 そこには、悲痛なレダの叫び声だけがこだまするのであったー。




~続く~


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