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迷路館の戦い

第237話 迷路館の戦い『王の最後』

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 魔女レダが必死で迷路の通路を駆け抜けていく……。

 そのすぐ傍をガグ種族の女首領ガグベルドナが並走している。

 二人はもちろん迷路の構造を把握しているので、迷わず進んでいけるのだ。



 「レダ様……。トゥオネタル王妃と王女様方はいかが致しましょうや?」

 「それは心配いらぬ……。すでにゼウス様が私に召喚遣わせし者の中でも最強の……、あのオトコを遣わせている……。」

 「はっ……!? それはまさか……、あの北十字星の……『ジュウモンジサマ』ですか!?」

 「ふふふ……。そう……。かのヤマトダマシイとやらを持つあのオトコ……白鳥武者『ノーザンクロス』ならば、きっと王妃たちの役に立つことでしょう……。」



 魔女レダは白鳥の姿のゼウスによって孕まされたとされるその卵をあずかり、卵がかえるまで注意深く胸に収めたという……。

 卵がかえると、レダは卵から生まれたヘレネーを娘として育てたのだ。

 ゼウスはヘレネーの誕生を記念して、天空に白鳥座を創造したという……。

 その白鳥座の白鳥に霊魂を吹き込み、召喚したのが『ノーザンクロス』なのだ。



 「あの霊魂は白鳥と関連したタマシイだったのであろうな……。ヤマトダマシイとか言っておったな……。ヤツにまかせておけば王妃も安心だ。そういえばヘレネーは元気にしておろうかのぉ?」

 「心配ないでしょう……。ヘレネー様は超美人でございます……。男どもが放おっておきませんわ。」

 「それならええがな……。」



 ガグベラドンナは身震いがした……。

 そして心のなかで『ノーザンクロス』のことを思い出す。

 『ジュウモンジサマ』ならば、まかり間違っても心配はないでしょう。

 あれほど恐ろしい者をあたしは知らない……。




 「それより、カストールとポルックスが心配だ……。かの息子たちがまったく動きを見せぬ……。不死のポルックスまで動かないなど……、いったい、どうなっているのか……?」

 「たしかに……。それは不可思議ですね? カストール様とポルックス様がそろって動きを封じられるとは……、どういう魔法なのか……?」

 「この魔女たるレダにも計り知れないほどの魔力の持ち主……なのであろうな……。ジン……、いったい何者なんだ?」



 レダは自分の双子の息子達が、まさか身動きを封じられるとは思ってもいなかった。

 それほどあの『デュクローイの双子』には全幅の信頼を置いていたのだ。

 複雑な迷路を抜けていち早く双子の元へ行くために、レダが呪文を唱える。



 「レベル6の補助呪文・迷宮の道標『Three blind Mice』!」

 『3匹の盲目ねずみ 走る姿を見てごらん! 農家の奥さんを追っかけてるよ。彼女がナイフでねずみのしっぽを切ったんだ! 今までこんな光景みたことあるかい?』

 レダが呪文を唱えると、3匹のネズミが召喚され、道をトコトコと走っていく……。

 「ふむ……。こんな呪文もなかなか……であるな。」

 「はい。可愛いものですねぇ……。」

 「ずっと見ていたい気もするな。」

 「はい! ずっと見られるものがあれば……、あたしはハマっちゃうかも……ですわ。」

 「そんな魔法があれば……、ヤバいなww」

 二人はそんな話をしつつ、先を急ぐのであった……。



 *****




 トゥオニ王の妃であるトゥオネタルが、娘たちの部屋へ入ってきた。

 「ロヴィアタル! キップ・テュッテョ! キヴタル! ヴァンマタル! 急ぎ身支度を整えよ!」

 「あら? お母様! それは……、いったいどうしてですの!?」

 「それは後で話します! 今は急ぎなさい!」

 「えええーー!? 今から新しく用意させたチョコケーキ『ラ・レーヌ・ド・シバ』を食べようと思ってたのにぃ~~!」

 「あたし、眠いぃー……。」

 「ふわぁ……。おかあたま……。なんだか必死そう……。」



 「お母様……。まさか!? 敵がこの王の広間のエリアまで侵入してきたの……?」

 「さすがはロヴィアタルね……。そうよ。王は敵と対峙するためにお残りになられたわ……。本宮たちは脱出せよとの命よ……。」

 娘たちは険しい表情になった。

 「身の回りのことは……、ガグ種族たちがします。早く本宮たちはここから出なければいけませぬ……。」

 いつのまにかガグ種族の者共が周囲に控えていた。

 そして、そこに一陣の風が吹き、白鳥の姿の男が現れた。



 「何者!?」

 妃たちは身構えた。

 だが、それよりも早く、白鳥の男がひざまずき、礼をしたのだ。



 「吾(あ)は白鳥の化身『ノーザンクロス』なり! レダ様により魂を授かりし者。これよりトゥオネタル様御一行を守護する者である!!」

 「ああ……! そちはジュウモンジ様ではなかりしか……!?」

 「ええ!? あのレダの秘蔵の守護精霊と名高い『ジュウモンジ様』なの!?」

 「初めて見たぁー! わたしー!」

 「あたくしも噂では耳にしていましたが……、なんと神々しい……!」



 「ふん! ジュウモンジとやら! それよりも、わらわと母君を早よう、この館より脱出させるのじゃ!」

 ロヴィアタルが強く命じた。

 「よかろう……! では吾の羽根の生み出せし馬車に乗るが良い!」

 そういって白鳥の羽根を数本抜くと、それを空に舞わせたかと思うと、呪文を唱えた。



 「馬車召喚の呪文『幌馬車』!!」

 『おくれば 君が幌馬車! はろばろと小さくなりゆく。はろばろと並木の路を粉雪降る夕にとおく。ひとときの後なり、いまも空幽か……。君が馬車見ゆ。あわれそは恋のまぼろし……、月の上をくくろくゆく鳥。』

 ジュウモンジ様ことノーザンクロスが呪文を唱えると、白鳥の羽根がまばゆく光る馬車に姿を変えたのだ!



 「ジュウモンジ様。感謝します!」

 「お気になされずに……。レダ様から、くれぐれもお達者でとの言伝を授かってまいりました。」

 「まぁ……! レダ……。双子のお子たちも無事であればよいが……。」

 こうして、トゥオネタルと娘たちは魔法の馬車に乗り、『迷路館』を脱出するのであった……。



 *****





 王の間ー。

 王の座に座っているのは……。

 トゥオニ王ではなかった。



 王の座に座っているのは、恐ろしく冷たい気を放つ黒尽くめの仮面の男であった。

 その前の床に、血を流しながら、伏しているのが『トゥオネラ』のトゥオニ王そのひとであった。

 周囲に何十と倒れているのは、トゥオネラ王の下僕種族・ガグ種族の者たちだった。



 「トゥオニ王……。貴様、死者の魂を呼び寄せ、この地に留めているらしいな? しかも……!」

 ヴァニタスが怒気を込めて言う。

 「トゥオネラ (Tuonela) は死者の国である。ここは全ての死者が赴く地下の都市であり、死者は善悪を問わずここへ還るのだ……。死者の魂を留めているのではない……。ここが安住の地なのだ……。」

 トゥオニ王が息も絶え絶えに答える。



 「うるさい……。そんなことはどうでもいい……。『あの世界』から死者の魂を呼ぶことは……、『この世界』の崩壊にもつながるのだ! 貴様はそれを理解しているのか!?」

 「なんだ……と……?」

 「大いなる意思に逆らうこととなるのだ……。貴様はその罪を償うがいい!! 『反物質召喚』!!」

 「な……!? 不死の余の身体が……! 消えて……い……く……。」



 「対消滅……というものだ……。貴様がたとえ魔力を駆使しようが……、この世にその存在すら残すことはできん……。」

 「やはり……、『虚空』のチカラ……か……!? ぐっ……。」

 トゥオニ王が消えていく……。



 「うぅ~。ヴァニタス様、ハンパねぇ~!!」

 「くふふ! ヴァニタス様、さすが!」

 「恐ろしい御方よ……。」

 黒タイツ紳士、リリン、パズズたちもあらためて身震いをするのであったー。




~続く~

©マザーグース『Three blind Mice スリー・ブラインド・マイス』
©幌馬車(作詞:西条八十見/曲:橋本国彦)




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