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第5日目
第37話 到着5日目・昼その7
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ボォーン!
ボォーン!
ボォーン!
ボォーン!
ボォーン!
ボォーン!
ボォーン!
ボォーン!
ボォーン!
ボォーン!
ボォーン!
鐘が12回……。
午後12時になったのですね。1階のホールの大時計の鐘が鳴り響いたことで、どこにいても時間がわかるのです。
そして、その間、私たちはビジューさんの姿を……、あるいは、人狼の姿を探し、館内を歩き回っていたのでした。
館中を探したけれど、ビジューさんはやはりというか見つかりませんでした。
そして、さらに、スエノさんと一緒に行動していた私ジョシュアと、ジニアスさん、コンジ先生はスエノさんの部屋をちょうど調べていたところでした。
パパデスさんの事件の後で、すっごく荒らされて窓ガラスも割られ破片が散らばっていたスエノさんの部屋でしたが、今は片付けられ元通りきれいになっていました。
割られた窓は応急処置で、板やもろもろで塞ぎ、寒い雪風が入ってくることもありませんでした。
すると、そこでコンジ先生が突然、声を上げたのです!
「むっ……!? 僕の『ブレゲ、タイプXXI(トゥエンティーワン)』、ああ、この腕時計ですが、ええ、そうです! あの『ブレゲ』ですよ? 腕時計の背後にあるストーリーにこだわるなら『ブレゲ』だろうなぁ……。腕時計史に燦然と名を残すアブラアン-ルイ・ブレゲ氏が1775年にパリで工房を開いたことがそのはじまりであり、ブレゲ氏は、腕時計の歴史を200年早めたといわれる天才腕時計師であることはみなさんもよくご存知でしょう? 実用的な自動巻き機構や複雑機構トゥールビヨン、さらに針や装飾の意匠におけるまで、その発明は多岐に亘っております。そして、この『ブレゲ』の顧客には、かのマリー・アントワネット妃など、王侯貴族が多かったことからも当時の名声の高さが伺えるところです。そんな超絶技巧を搭載したこのモデル「タイプXXI(トゥエンティーワン)」は、当然1500万円超えですが、比較的手が届くこのくらいの価格なら実にお買い得と言えよう! 実用にふさわしいミリタリーデザインの中に、『ブレゲ』らしい作りの良さが光ってますでしょう?」
「ええ。コンジ先生の高級ブランド腕時計のことはわかりましたけど、なにかおっしゃりたかったのではないのですか!?」
ジニアスさんやスエノさんも苦笑いしながら聞いていましたが、私はもう慣れっこですから、話を先にすすめるよう催促してあげました。
「ふむふむ……。じゃあ、ひとつ質問をしよう! スエノさん。」
コンジ先生がスエノさんを見ながら言った。
「は、はい……。何でしょうか?」
「うん、非常に簡単かつ子供でもわかる質問だ! いったい、今現在は何時何分かな?」
コンジ先生……。
まさかご自身の腕時計の自慢のために、現在の時間をスエノさんに聞いたのではないですよね?
「あ、いえ。だいたいお昼ごろかとは思いますが……。正確な時刻とおっしゃられるとわかりません……。」
「ああ。キノノウさん。僕の腕時計はキノノウさんのものと比べてしまうと見劣りしてしまいますが、オメガ(OMEGA)の150万円くらいのものですが、確認したところ、現在は正午ぴったり……、あ、いえ、少し過ぎたところですね。」
「ああ、その通りです。確認してみましょう!」
コンジ先生が、その『ブレゲ』の腕時計を、何やら操作しました。
低音の単音で、12回音が鳴り、高音の単音で、1回なりました。
「え……っと、それでいったい何時なのかわかるのですか!?」
スエノさんが質問した。
ああ、ダメですよ! スエノさん! コンジ先生がまたうんちくさながら説明しちゃうじゃあないですか!?
「いい質問ですねぇ……! このリピーターは、利用者が時刻を知りたいときにレバーやボタンを押せば、時計に組み込まれたハンマーが鐘を叩き、そのチャイム音の回数で時刻が分かる仕組みなのだが、この時計はミニッツリピーターの機能まで備わっているんだよ!? 照明の未発達な時代に、夜間や暗闇でも時刻が確認できるように考え出されたのがそもそもの始まりなんだけどね……。それで……!」
コンジ先生! どこかのよく分かる解説のフリーになった記者ですか!?
「コンジ先生! 時計の説明はもういいですから、早く説明してくださいよ! そんなごたいそうな腕時計を持っているのに、時計を持ってらっしゃらないスエノさんに時間を聞くなんて、嫌味としか思えないんですけど!?」
「ああ! ジョシュア! 君ってヤツはなんて愚かで単純バカで、かつ知能の欠片も持ち合わせていないから、ブレゲの功績に対して『時計の歴史を200年早めた』、また『時計業界のレオナルド・ダ・ヴィンチ』と称えられ、賛辞を惜しまれないなんてことは、ありんこ……、いや、ミジンコほども理解できないだろうが、そんなことではない!」
「じゃあ、いったい何だって言うんんですか……!?」
「はからずもさきほど、ジョシュアが述べたとおり、スエノさんは時計を持ち歩いていらっしゃらない……。」
「あ、はい。この『或雪山山荘』の中では1階玄関ホールのあの大時計の音が聞こえるものですから、わざわざ持ち歩かなくてもだいたいの時間はわかるのですよ。」
「なるほど。それはそうだろうねぇ。だが、しかし! 今、この素晴らしい僕の『ブレゲ、タイプXXI(トゥエンティーワン)』が音を鳴らして教えてくれたように、今現在は正午を1分ほど回った時刻ということになる。ちなみにだが、18世紀から現代まで一般的に使われている古典的な方式だが、基本的に音を発するのは、2本のハンマーと、低音と高音にそれぞれ調整されたリング状のゴングなのさ。持ち主が任意に作動レバーを操作すると機構に必要な動力が供給され、ハンマーがゴングを叩くストライク音で時刻を知らせる。ストライク音は連続する3パートから成っている。
1つは、時単位の数(アワー)で、これは低音の単音で、1回=1時から12回=12時を表す。
2つ目に、60分を15分単位に分割した数(クォーター)を表すのだが、高音と低音を交互に組み合わせて鳴らし、高音→低音の1セット=15分、2セット繰り返し=30分、3セット繰り返し=45分ということになっている。今さきほどは鳴らなかっただろう? だからまだ正午を回ったばかりということがわかる。
そして最後に機械式の素晴らしいミニッツリピーターだが、15分に満たない残り分数(ミニッツ)を、高音の単音で、1回=1分から14回=14分まで表すのさ!
そこで、さきほどは低音の単音が1回、高音と低音を交互に組み合わせた音は鳴らず、高音の単音が1回だけ……。つまり?」
「ええ。そうですね。さっき、僕も言いましたよ? 正午を1分ほど過ぎたところだとね!」
若干ですが、ジニアスさんはスエノさんをバカにされたとでも思われたのでしょうか?
少し、食い気味に、苛つきながら言いました。
「そうです! スエノさんはこの館に住んでいらしゃるからよぉーっく、知っているのだよ。いちいち腕時計を持たなくとも、時間はだいたいわかるとね。」
「は…‥、はぁ。それがどうかしたんですか?」
私もそれを聞いて思わず聞いていました。
「ふん! ジョシュア? 君はいったい僕の助手、いや単なるお手伝いさんってところだが、それでも何年やっているんだ!?」
「いやぁ……。あはは……。」
「今、君たちは、正午を回ったにも関わらず、あの大時計の鐘の音が聞こえた人はいるかい!?」
そう言って、コンジ先生がドヤ顔をする。
「そういえば、聞こえませんでしたね? ジニアスさん! スエノさん!」
「ああ。そう言われると聞いた覚えはないですね……? 妙だね……。」
私がそう言うと、ジニアスさんも同意する。
「ああ、それは私の部屋の壁や床に遮音ボードが入っていて、防音室になってるんですよ。」
スエノさんがさらりとそう説明してくれました。
それで、あの大時計の鐘の音が聞こえなかったんですねぇ……。
でも、いったいどうしてそんな防音室になってるんでしょうか?
まさか、スエノさんってカラオケ好きとかそんな趣味があったりしてねw
窓の外の雪の風巻く音がかすかにしている……気がしているだけでしたー。
~続く~
※ミニッツリピーターについて参照サイト
webChronos
https://www.webchronos.net/mechanism/22267/
18世紀から現代まで一般的に使われている古典的な方式は基本的に下記の通りだ。音を発するのは、2本のハンマーと、低音と高音にそれぞれ調整されたリング状のゴングである。ユーザーが任意に作動レバーなどを操作すると機構に必要な動力が供給され、ハンマーがゴングを叩くストライク音で時刻を知らせる。ストライク音は連続する3パートから成る。
(1)時単位の数(アワー):低音の単音で、1回=1時から12回=12時。
(2)60分を15分単位に分割した数(クォーター):高音と低音を交互に組み合わせて鳴らし、高音→低音の1セット=15分、2セット繰り返し=30分、3セット繰り返し=45分。
(3)15分に満たない残り分数(ミニッツ):高音の単音で、1回=1分から14回=14分まで。
ストライク音の回数が最も多くなり、よくデモンストレーションにも使われる12時59分の例ではこうなる。
●まず低音が12回鳴って12時。
●続いて59分を15分単位で割ると(15分×3回)+14分だから、高音と低音との組み合わせによるクォーターを3セット打って45分。
●最後に残った14分を高音で14回打つ。
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