48 / 62
第6日目
第43話 到着6日目・朝その4
しおりを挟む『左翼の塔』入り口の扉のところでジニアスさんが扉を開けたままにする押さえ役を買って出てくれました。
そして、『左翼の塔』1階の扉を開き、塔の中に入った私とコンジ先生です。
まずは、螺旋階段をぐるりと登っていき、1階から2階、2階から3階、そして3階から4階へと続く階段のところで足を止めました。
その壁面に飾っている絵画を横目に見ながら、階段を上りました。
塔の壁に飾ってある絵は、有名なミケネコランジェロやラファエロスの作品で、この館に来た初日に見た時は圧倒され、感動しました……。
その圧倒的な存在感と、神々しさはまさに宗教画の名画たる威厳を堂々としていたのです。
ミケネコランジェロの『マンチェスターの聖猫』や、『キリストの飼い猫の埋葬』、ラファエロスの『聖母の結婚初夜』に『大公の聖母の入浴』、それに『美しき女庭師の水浴び』などなど、学校の教科書でも見たことがある名画が飾ってあるのです。
また、中央には『ダビデと巨像』で彫刻でも有名なミケネコランジェロの巨大な彫刻『ソバカスのバッカス像』が悠然と立っていた。
「やっぱ、すごい絵画だけど……。今は見てる場合じゃないよね?」
「そうだな! 本来はゆっくりと鑑賞していたいところだがな……。」
しかし、今は、その飾ってある作品群をゆっくり鑑賞している余裕はないのです。
塔の上階に向かって螺旋状に伸びている時計回りの階段の左側の壁に沿って、展開されていた。
ここにある絵画を説明してくれたビジューさんも今はもういない……。
1階の入り口を除けば、3階だけ扉がある。
まあ、もちろん、3階の扉は鍵がかかっていて、固く閉ざされていると予想していました。
構造から考えて、3階のその扉の先の部屋は、ママハッハさんの部屋になります。
ママハッハさんの部屋側からだとロックを外して簡単に出られるようになっているのですが、それが、なんと……。
塔側に面したママハッハさんの部屋の扉は開きっぱなしになっていたのでした!
コンジ先生は素早く部屋の中に踏み込みました。
「ジョシュア! まだ部屋に入ってこなくていい!」
先に部屋に入ったコンジ先生が私に向かってそう叫んだ。
「部屋の中は、ど……、どうなっているんですか?」
私はコンジ先生に聞いてみた。
「ああ……。ひどい状況だよ……。ジョシュア、ジニアスさんのところに行って、ジェニー警視を呼んできてくれ……。シュジイ医師にもジジョーノさんの検死が済めばこっちに来るように言ってくれ。」
「わ、わかりました。コンジ先生も気をつけてくださいね。」
「ああ……。」
こうして、私は塔の螺旋階段を今度は下りていき、入り口のところのジニアスさんに、そのことを簡単に伝えて、ジェニー警視を呼びに向かいました。
シュジイ医師はまだ検死中だったので、後から来るように伝え、私とジェニー警視はすぐに、一緒に階下に降りて、『左翼の塔』に来ました。
ジニアスさんには悪いけど、また扉の係を続けてもらい、私とジェニー警視はそのままコンジ先生の待つ3階のママハッハさんの部屋に行きました。
ママハッハさんの部屋に入ると、すぐに異常に気が付きました。
部屋の中は、どす黒い赤ー!!
血の飛沫が部屋中に、飛び散っていたのだ。
ママハッハさん……らしき物体が、ベッドの上に散らかっており、もう一人(?)と思われる死体が、床の上に転がっていた。
ベッドの上の物体は、四肢が引きちぎられ、数個の塊になっていたから、物体としてしか見えなかったのです。
しかし、それは明らかに人間でした。
なぜ、それがわかったか……ですって?
それは、首がこちらを向いていたからです。
目が開きっぱなしで、こちらを向いていて、ちょうど扉から入ったところで、その目と私の目が合ったのです……。
ママハッハさんに間違いありませんでした。
「床の上の死体は……、アネノさん……で間違いないな?」
コンジ先生は、すでに床の上に転がっている死体を検分していたようです。
「うむ。間違いないようだな。キノノウくん。これを見ろ?」
青と白のドレスが、どす黒い赤で染まり、金髪の美しかった髪がべっとりとした焦げ茶色で固まっていたのだ。
だが、その派手な衣装はアネノさんで間違いないようです。
「ええ……。左手中指にしているこの指輪は、僕たちがこの館に到着した日にアネノさんがしていたものと同一のものです。間違いないでしょう……。」
そうです。
なぜ、顔で判断せずに、その身にまとっている服装やアクセサリーで確認しているのか?
それは、アネノさんの顔は、肉食獣にかじられた草食動物の死骸のように、食いちぎられていて、見分けはつかなくなってしまっていたからなのでした。
****
その後、シュジイ医師もママハッハさんの部屋にやってきて、検死を始めました。
ジジョーノさんについては検死が終わったようで、その結果をコンジ先生とジェニー警視に伝えていました。
そして、その後、ジェニー警視とコンジ先生と私の三人はいったん、部屋の外に出て、螺旋階段の上を見上げていました。
それは……。
アレクサンダー神父のことでした。
今朝から姿が見当たりません。
アレクサンダー神父自身の部屋も宛てがわれていたのですが、神父さんはずっとこの『左翼の塔』の5階で祈祷をされていたのです。
ただし、昨日朝にシープさんが殺されたことが判明し、その際は代わりにジェニー警視が『左翼の塔』に迎えに行ったのでした。
ですから、昨夜は自室にいたのかと思いきや、さきほどジニアスさんとスエノさんを呼びに行った時に、コンジ先生は神父さんの部屋も確認していたのです。
神父さんは自室にはいなかったということでした。
昨夜も祈祷をしていたのでしょうか……?
私たちは、『左翼の塔』の5階に向かって、螺旋階段を上っていったのです。
5階から薄明かりが漏れ出ていた……。
5階に上がってみると、奥に荘厳で見事なアンチャン・ガーデンの制作ステンドグラスがあった。
それは相変わらず、色彩溢れるステンドグラスに負けず劣らずの瞑想の世界に誘われる美しさで、やはり、圧倒されてしまいます。
しかし、そこに、神父さんの姿は見当たりませんでした……。
「アレクサンダー神父……。ここにもいないのか……。」
「キノノウくん……。まさかとは思うけど、アレクサンダー神父が人狼だったのではないか?」
「ふむ……。今の時点ではわかりませんね。だが、ママハッハさんとアネノさんを殺害した人狼は、『左翼の塔』の中から、ママハッハさんの部屋に侵入したのは間違いありません。その時、もし、神父がここにいたのなら……、人狼に気が付かなかったはずはないでしょう……。」
ふと、アレクサンダー神父の祈祷していたであろう祭壇のところに何か手紙のようなものが置いてあるのが見えた。
コンジ先生がそれを拾い上げ、読み始めた。
ジェニー警視と私もそれを覗き込み、一緒に読んだのだ。
それは、まさに、殺人の告白……、自白の内容だったのです!
~~アレクサンダー神父の手紙~~
ワタシ、アレクサンダーは、ここに真実を記す。
やはり、昨夜のバトラー・シープの殺害は“強欲”の大罪を犯したので間違いないデショウ。
初日のミスター・アイティ殺害は1階ホールに堂々と殺害を知らしめようと“傲慢”であったのデスネ。
続いてのミスター・カン、マダム・エラリーン殺害は、ミス・ジジョーノに化けた人狼が“嫉妬”したのデス……。
さらなる悲劇のミスター・イーロウとサー・パパデスは、“憤怒”の気持ちが抑えきれなかったのデショウ!
次のバトラー・シープ殺害が“強欲”というコト……。
そして……。
今、ワタシの心のうちに湧き上がるこの大いなる罪の感情は、“怠惰”……でアル。
ワタシは神に仕える身でありながら、堕落してしまったのデス……。
主よ! 罪深き子羊……、いえ、人狼をお許しクダサイ!
~~神父の手紙より~~
手紙には、そう書かれてありました。
やはり……。
人狼の正体は、アレクサンダー神父だったようです。
昨夜、ママハッハさんやアネノさんをその手にかけたのは、神父さんに化けた人狼だったんですね…‥。
塔の中のこの部屋には、窓の外から雪の風巻く音が、ただ、ゴォゴォと響いていたのでしたー。
~続く~
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】結界守護者の憂鬱なあやかし幻境譚 ~平凡な男子高校生、今日から結界を繕います~
御崎菟翔
キャラ文芸
【平凡な高校生 × 妖従者たちが紡ぐ、絆と成長の主従現代和風ファンタジー!】
「選ぶのはお前だ」
――そう言われても、もう引き返せない。
ごく普通の高校生・奏太(そうた)は、夏休みのある日、本家から奇妙な呼び出しを受ける。
そこで待っていたのは、人の言葉を話す蝶・汐(うしお)と、大鷲・亘(わたり)。
彼らに告げられたのは、人界と異界を隔てる結界を修復する「守り手」という、一族に伝わる秘密の役目だった。
「嫌なら断ってもいい」と言われたものの、放置すれば友人が、家族が、町が危険に晒される。
なし崩し的に役目を引き受けた奏太は、夜な夜な大鷲の背に乗り、廃校や心霊スポットへ「出勤」することに!
小生意気な妖たちに絡まれ、毒を吐く蛙と戦い、ついには異世界「妖界」での政変にまで巻き込まれていく奏太。
その過程で彼は、一族が隠し続けてきた「残酷な真実」と、従姉・結(ゆい)の悲しい運命を知ることになる――
これは、後に「秩序の神」と呼ばれる青年が、まだ「ただの人間」だった頃の、始まりの物語。
★新作『蜻蛉商会のヒトガミ様』
この物語から300年後……神様になった奏太の物語も公開中!
https://www.alphapolis.co.jp/novel/174241108/158016858
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
アガルタ・クライシス ―接点―
来栖とむ
SF
神話や物語で語られる異世界は、空想上の世界ではなかった。
九州で発見され盗難された古代の石板には、異世界につながる何かが記されていた。
同時に発見された古い指輪に偶然触れた瞬間、平凡な高校生・結衣は不思議な力に目覚める。
不審な動きをする他国の艦船と怪しい組織。そんな中、異世界からの来訪者が現れる。政府の秘密組織も行動を開始する。
古代から権力者たちによって秘密にされてきた異世界との関係。地球とアガルタ、二つの世界を巻き込む陰謀の渦中で、古代の謎が解き明かされていく。
「魔物の討伐で拾われた少年――アイト・グレイモント」
(イェイソン・マヌエル・ジーン)
ファンタジー
魔物の討伐中に見つかった黄金の瞳の少年、アイト・グレイモント。
王宮で育てられながらも、本当の冒険を求める彼は7歳で旅に出る。
風の魔法を操り、師匠と幼なじみの少女リリアと共に世界を巡る中、古代の遺跡で隠された力に触れ——。
春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話
登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。
サイレント・サブマリン ―虚構の海―
来栖とむ
SF
彼女が追った真実は、国家が仕組んだ最大の嘘だった。
科学技術雑誌の記者・前田香里奈は、謎の科学者失踪事件を追っていた。
電磁推進システムの研究者・水嶋総。彼の技術は、完全無音で航行できる革命的な潜水艦を可能にする。
小与島の秘密施設、広島の地下工事、呉の巨大な格納庫—— 断片的な情報を繋ぎ合わせ、前田は確信する。
「日本政府は、秘密裏に新型潜水艦を開発している」
しかし、その真実を暴こうとする前田に、次々と圧力がかかる。
謎の男・安藤。突然現れた協力者・森川。 彼らは敵か、味方か——
そして8月の夜、前田は目撃する。 海に下ろされる巨大な「何か」を。
記者が追った真実は、国家が仕組んだ壮大な虚構だった。 疑念こそが武器となり、嘘が現実を変える——
これは、情報戦の時代に問う、現代SF政治サスペンス。
【全17話完結】
おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう
お餅ミトコンドリア
ファンタジー
パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。
だが、全くの無名。
彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。
若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。
弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。
独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。
が、ある日。
「お久しぶりです、師匠!」
絶世の美少女が家を訪れた。
彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。
「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」
精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。
「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」
これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。
(※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。
もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです!
何卒宜しくお願いいたします!)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる

