17 / 57
〜16章〜
魔女の憂鬱
しおりを挟む
「まったく。嫌になるわ」
煩雑に、それでいて正確に物が積まれた部屋は、今ではまるで泥棒に忍び込まれたかのように散らかり放題だった。
若い娘と幼い機械人間がこの家を去ってから、シニコローレは旅支度を始めていたのだ。
「彼が言ったことが現実になりそうよ」
魔女は暗闇の中に向けてそう投げかけた。
その暗闇は「にゃー」と返事を返す。
「あの馬鹿ども、また戦争をおっぱじめようって気じゃないでしょうね」
ブツブツと文句を垂れ流しながら、シニコローレは乱暴に物をカバンの中へ放り投げていく。
その様子はまるで巨大な穴に物を投げ入れるかのようだ。
〔随分と親切だったじゃないか。お前らしくもない〕
暗闇の中から質問が投げかけられる。その声はどこか面白そうな空気を孕んでいる。
「・・・恋よ」
くすりとその魔女は微笑みをたたえている。
〔あのままだと死ぬぞ〕
「わかってるわ。けど、それは私にはどうにもできない。運命は変えられないのよ」
暗闇の中から黒猫がぬっと姿を表す。
〔約束を忘れたわけではあるまいな〕
ガサガサと物を漁る音がピタッと止まる。
「なあに。そんなに怖い顔して」
じっと見つめ合う二人。緊迫した空気が二人の間を流れる。
シニコローレははぁっとため息をつき、諦めたかのように頭を振った。
「わかってるわよ。だからこうして旅支度をしてるんじゃない。まったくもう」
再びブツブツと不満を垂れ流しながら、荷造りをしていく魔女。
「それにしても、あなたがそんなにも肩入れするなんてどういう風の吹き回し?」
黒猫はふぁっと欠伸をする。そして、魔女の質問に答えることなく、毛繕いを始めた。
「まったく。猫みたいな振る舞いするのはよしてよ」
よしっ。と鞄を床に置く魔女。あれだけ物を詰め込んだというのに、魔女の手にするその鞄はほんの小さな旅行鞄ほどのサイズである。
「それで」と冷たく黒猫の方を向いた。
「あなたは来るの?」
汗だくになった魔女をつまらなさそうに見上げると、その黒猫は何も言わずに暗闇の中へと帰っていった。
「つれないわねぇ。そんなにあの二人のことが気になるのかしら」
呆れた様子でそう一人呟くと、シニコローレはゆっくりと椅子に腰を下ろし、懐からタバコを取り出した。
さっと手をかざし火をつけると、ゆっくりと吸い込み肺を満たした。
「はぁ。めんどくさいわ。・・・ねぇ、シェズ」
暗闇にそう問いかけるが、反応はない。
「ほんと、つれない男」
そっと微笑み、その魔女はそっと煙を吐き出した。
煩雑に、それでいて正確に物が積まれた部屋は、今ではまるで泥棒に忍び込まれたかのように散らかり放題だった。
若い娘と幼い機械人間がこの家を去ってから、シニコローレは旅支度を始めていたのだ。
「彼が言ったことが現実になりそうよ」
魔女は暗闇の中に向けてそう投げかけた。
その暗闇は「にゃー」と返事を返す。
「あの馬鹿ども、また戦争をおっぱじめようって気じゃないでしょうね」
ブツブツと文句を垂れ流しながら、シニコローレは乱暴に物をカバンの中へ放り投げていく。
その様子はまるで巨大な穴に物を投げ入れるかのようだ。
〔随分と親切だったじゃないか。お前らしくもない〕
暗闇の中から質問が投げかけられる。その声はどこか面白そうな空気を孕んでいる。
「・・・恋よ」
くすりとその魔女は微笑みをたたえている。
〔あのままだと死ぬぞ〕
「わかってるわ。けど、それは私にはどうにもできない。運命は変えられないのよ」
暗闇の中から黒猫がぬっと姿を表す。
〔約束を忘れたわけではあるまいな〕
ガサガサと物を漁る音がピタッと止まる。
「なあに。そんなに怖い顔して」
じっと見つめ合う二人。緊迫した空気が二人の間を流れる。
シニコローレははぁっとため息をつき、諦めたかのように頭を振った。
「わかってるわよ。だからこうして旅支度をしてるんじゃない。まったくもう」
再びブツブツと不満を垂れ流しながら、荷造りをしていく魔女。
「それにしても、あなたがそんなにも肩入れするなんてどういう風の吹き回し?」
黒猫はふぁっと欠伸をする。そして、魔女の質問に答えることなく、毛繕いを始めた。
「まったく。猫みたいな振る舞いするのはよしてよ」
よしっ。と鞄を床に置く魔女。あれだけ物を詰め込んだというのに、魔女の手にするその鞄はほんの小さな旅行鞄ほどのサイズである。
「それで」と冷たく黒猫の方を向いた。
「あなたは来るの?」
汗だくになった魔女をつまらなさそうに見上げると、その黒猫は何も言わずに暗闇の中へと帰っていった。
「つれないわねぇ。そんなにあの二人のことが気になるのかしら」
呆れた様子でそう一人呟くと、シニコローレはゆっくりと椅子に腰を下ろし、懐からタバコを取り出した。
さっと手をかざし火をつけると、ゆっくりと吸い込み肺を満たした。
「はぁ。めんどくさいわ。・・・ねぇ、シェズ」
暗闇にそう問いかけるが、反応はない。
「ほんと、つれない男」
そっと微笑み、その魔女はそっと煙を吐き出した。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
4
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる