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〜19章〜
ジョレスパオラ
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ルナシリス王国の中部に位置する町『ジョレスパオラ』
多くの住民がそこに住んでいるが、そこを訪れる旅人もまた同様に多い。
王国の中心に位置するとだけあって、たくさんの人々が旅の往来に立ち寄るためだ。
一見すると背の高い木々が密集する森のようなところだが、一度足を踏み入れてみるとそこには聳え立つ木々を上手に利用した町が築かれており、木から木へと道が繋がれている。
注ぎ込む木漏れ日が木々を照らし、鬱蒼とした森の中にも関わらずその町はキラキラと輝いている。
「すごいね、あの森の中がこんな町になっていたなんて想像もしなかったよ」
グラグラと不安定な吊り橋を歩きながらソルが感心したようにあたりを見回している。
その橋を渡り終えると、左手には大きな木の幹の中に家があり、右手には太い枝の上に家が建てられている。
「よく考えてるなぁ。あの家とか、どうして落ちないんだろう」
興味津々であたりを見回しながらフラフラと歩くソル。
「なんだかこないだ来た時より人が少ない気がするなぁ。なんでだろう」
キョロキョロと落ち着きのないソルの手を引き、ルーナが一人呟いた。
「普段はもっと多いの?」
周りを行き交う無数の植物人間たちは、皆自分のことで忙しいようで、誰もソルには気がつかない。こんなにも多くの植物人間たちが行き交っているのにも関わらず、誰一人としてぶつかることはなく、華麗に互いを交わしながら進んでいく様にひどく感心した。
「全然。少ない方よ今日は。」
ふーん、と周りに目を配りながら歩いていたソルだが、ふと素朴な疑問を抱いた。
「ねぇ、今更なんだけどここ普通に歩いていて大丈夫なの?」
ルーナの袖を引っ張り不安げに尋ねるソル。歩き疲れたのだろうか、その肩には黒猫のシェズが乗っている。
機械人間が肩に黒猫を乗せ歩いている。
植物人間たちにとってこれ以上異様な光景はないだろう。が、それに気がついた様子の人はいなかった。
「ふふふ。シニーの魔法よ。周りからはシャイな植物人間の男の子が歩いているだけのように見えているはずよ」
ソルの肩に乗るシェズを撫で、「ありがとうね」と呟いた。その黒猫は退屈そうに欠伸をした。
いつの間に魔法をかけていたのだろう。それにいつルーナはそれを知ったのだろう。
腑に落ちない感覚に陥ったが、ふとルーナが足を止めたのですぐにそれも消えてなくなった。
二人と一匹は巨大な木の実でできたかのような建物の前にいた。入り口のところに『喫茶』と看板が下げられているのを目にした。
「少し休憩。ここすごい人気なのよ」
嬉しそうにそう言うとソルの手を引き店内へと入っていく。
中は薄暗くぼんやりとした小さな光がゆっくりと光ったり消えたりしている。壁には無数の絵が掲げられており、天井を見上げるとまるで天の川が流れているかのようであった。
故郷の星空を思い出したソルは少しだけ郷愁に駆られたが、すぐに思い直しルーナと共に店内の一角を陣取った。
「やっぱりなんか、今日は心なしか人が少ない気がするな」
ルーナがメニュー表を眺めながらそんなことを呟いた。そうは言ったものの店内はそれでも多くの人たちで賑わっているようだった。
「私これにする。ソルは?」
手渡されたメニューを見てみたものの、ソルには何がなんやらわからなかった。
「よくわからないからルーナと同じものでいいや」
メニューをそっとテーブルに戻し、膝に乗る黒猫を撫でた。
しばらくすると細長い容器に入った飲み物が運ばれてきた。
「何頼んだの?」
「マクマイっていう木の実のジュース。さっぱりしてて美味しいのよ」
確かロキエッタの家で彼女のお母さんが出してくれたものだっただろうか。
細長い容器に刺されたストローに口をつけると、やはり知っている味であった。
「美味しいでしょ」
「これ飲んだことある。ロキエッタの家でお母さんが出してくれたやつだと思う」
ロキエッタの名前を聞き、一瞬ルーナの顔が陰ったがすぐに気を取り直した様子で笑顔で頷いた。
「このお店ね、若い子たちの間ですごい人気なのよ。まさかここに一緒に来れるなんてね」
黒猫のシェズが大きな欠伸をする。黒猫にとってはどうでもいいことなのだろう。
その首筋をそっとくすぐるとなんとも気持ちよさそうな表情でまどろんだ。
確かにルーナのいう通り、よくよく見てみると若い植物人間しか店内にはいないようだった。
長旅で疲れていたソルは、ひんやりと落ち着く店内でゆったりとした時間を過ごしていた。
「いいところだね」
ルーナはまるで自分のお店のように、「それはどうも」とたっぷりとした口調で言った。
二人は顔を見合わせ思わず笑い合った。
特になにか話すわけでもなく、二人は無言のひと時を過ごす。
ぼんやりと物思いに更けていたソルだが、そうするとやはりすぐさま親友の顔が脳裏に浮かび上がってくる。
「ルーナ、あのさ」とソルは心配を悟られないよう気楽な調子で声をかける。
ん?と口に咥えたストローを離すことなく眉を上げるルーナ。
「僕の親友のことなんだけど」
ソルがそう言うとルーナはゆっくりと飲み物を机に置き姿勢を正した。
「いや、大したことじゃないんだけどさ」
硬直しそうになる空気を嫌いソルは軽い調子で話を続けた。ソルは自身の緊張をほぐすかのように黒猫の頭を撫で続ける。
ルーナはじっと黙ってソルのことを見つめた。
「多分、助からなかったんだろうなぁって。僕の他に機会人間が島に流れ着いてたら、きっと噂話が流れてくるだろうし。・・・なんかさ、夢にその友達が出てきて僕に言うんだよね。『しっかりしろよ』って。それだけなんだけど、あぁ、もうきっとトットはこの世にいないんだろうな、って。トットてのは僕の親友の名前なんだけど」
ルーナは口を挟むことなくじっとソルの言葉に耳を傾けている。
ソルは何かタガが外れたかのように話を続ける。
「だけどやっぱりトットが死んじゃったなんて信じられないし、信じたくもなくてさ。ちゃんと決別しないといけないってわかってはいるんだけど、なかなか難しくてさ。・・・なんかいいおまじないとか、ない?」
心に秘めていた想いを一気に吐き出したソルは、どこか照れ臭そうにストローを咥えた。
最後はおどけてみせたソルであったが、ルーナはそんなソルの目を真っ直ぐに見つめゆっくりと口を開いた。
「決別なんてしなくていいと思うな、私は・・・」
ルーナはそういうとゆっくりとソルの手を包み込むように握った。
自身の手を握り真っ直ぐにこちらを見つめている瞳を見て、ソルは鼓動が速くなるのを感じた。
そんなことはつゆ知らず、といったところであろう。ルーナは真剣な眼差しで話を続けた。
「人との別れは淋しいわ。私もおじいちゃんが死んじゃった時はとても悲しかった。1週間以上家から出ることなく泣き腫らしたと思う。けどね、そんな時ロキーが私に会いにきてくれて言ったの。『死んだ人の分まで幸せになりなさい』って。そして私の手を引いて家の外まで連れ出してくれたのよ。・・・その後、ちゃっかりロキーの家の手伝いをさせられたけど」
懐かしむように優しく微笑んだルーナは、喧嘩をしたロキエッタのことを思い浮かべているのだろうか。
死んだ人の分まで幸せになる。
いい言葉だ。
ソルは機械人間だと自分のことを嫌い、ルーナともども追い出したロキエッタのことをよくは思っていなかったが、ルーナの彼女との思い出を聞き少しだけ親近感を覚えた。
きっと僕たちはそう変わらないんだろうな。
ルーナはストローに口をつけると、口元に笑みを浮かべながら続ける。
「ちゃっかりしてるわよね。私を励ますためなのか、自分が楽したいだけだったのか。まぁロキーらしいっていえばロキーらしいんだけど」
その時の情景を思い浮かべるかのように、ふふふ、と優しく笑うルーナ。
たちまちソルも釣られて笑顔を浮かべる。
ルーナの話してくれたロキエッタの言葉を心で噛み締めながらソルは笑顔で言った。
「トット、虹が見たいって言ってたんだ。一緒に世界中を旅して、いつか必ず虹を見ようって」
ルーナは眉を上げ目を輝かせながら答える。
「なら、私たちがそれを叶えなきゃね。いつか一緒に虹を見ようね。・・・必ず」
彼女の言葉に、ソルの悲しみは洗い流されるかのようであった。
「虹ってどんなんなんだろうなぁ。きっとすっごく綺麗なんだろうなぁ」
はぁっと深いため息をつきながら上を仰ぐルーナ。頭の中で思い浮かべているのだろうか。
綺麗な石を集めることが大好きなルーナにとって、七色に輝く虹の橋というものはとても魅力的なのだろう。
うっとりとした表情で空を見つめている。
「約束ね」とルーナは満面の笑みを浮かべ、手を差し出してきた。
ソルはその手を取り「必ず」と言って頷いた。
幸せな時間がゆっくりと流れ、ソルの心に渦巻いていたモヤがすっきりと晴れた気がした。
嬉しそうに笑っていたルーナであったが、ふと咳込み始めた。
「どうしたの?大丈夫」
思わず立ち上がりルーナの背中をさする。心なしかルーナの息使いにザラザラとしたものが混じっているように思える。
黒猫のシェズが驚いたようにルーナの方へと身を乗り出す。
心配するソルを片手で制して、ふぅーっと深い深呼吸をした。
「ごめんごめん。ちょっと疲れたのかも」
チョロチョロとマクアイのジュースを口に含み、一息置くルーナ。
「ごめんね、僕のために。たくさん歩かせちゃったね」
「大丈夫よ」とふふっと笑った。
それからもうしばらくゆっくりと過ごした後、二人と一匹は店を後にして再び帰路に立った。
行き交う人々を上手に交わしながら、二人はやっとのこと町の出口へとたどり着いた。
すっと地面に飛び降り、大きな欠伸と共に背を伸ばした黒猫は、声をかける間も無くとぼとぼと歩いてどこかへ行ってしまった。
「追いかけなくていいのかな」
「魔法猫の気まぐれには何もできないわ」
さぁ、行きましょう、とソルの手を取り歩き始めた。
少しずつ小さくなっていく森の町は、やがてすぐに地平線の向こうへと消えていった。
多くの住民がそこに住んでいるが、そこを訪れる旅人もまた同様に多い。
王国の中心に位置するとだけあって、たくさんの人々が旅の往来に立ち寄るためだ。
一見すると背の高い木々が密集する森のようなところだが、一度足を踏み入れてみるとそこには聳え立つ木々を上手に利用した町が築かれており、木から木へと道が繋がれている。
注ぎ込む木漏れ日が木々を照らし、鬱蒼とした森の中にも関わらずその町はキラキラと輝いている。
「すごいね、あの森の中がこんな町になっていたなんて想像もしなかったよ」
グラグラと不安定な吊り橋を歩きながらソルが感心したようにあたりを見回している。
その橋を渡り終えると、左手には大きな木の幹の中に家があり、右手には太い枝の上に家が建てられている。
「よく考えてるなぁ。あの家とか、どうして落ちないんだろう」
興味津々であたりを見回しながらフラフラと歩くソル。
「なんだかこないだ来た時より人が少ない気がするなぁ。なんでだろう」
キョロキョロと落ち着きのないソルの手を引き、ルーナが一人呟いた。
「普段はもっと多いの?」
周りを行き交う無数の植物人間たちは、皆自分のことで忙しいようで、誰もソルには気がつかない。こんなにも多くの植物人間たちが行き交っているのにも関わらず、誰一人としてぶつかることはなく、華麗に互いを交わしながら進んでいく様にひどく感心した。
「全然。少ない方よ今日は。」
ふーん、と周りに目を配りながら歩いていたソルだが、ふと素朴な疑問を抱いた。
「ねぇ、今更なんだけどここ普通に歩いていて大丈夫なの?」
ルーナの袖を引っ張り不安げに尋ねるソル。歩き疲れたのだろうか、その肩には黒猫のシェズが乗っている。
機械人間が肩に黒猫を乗せ歩いている。
植物人間たちにとってこれ以上異様な光景はないだろう。が、それに気がついた様子の人はいなかった。
「ふふふ。シニーの魔法よ。周りからはシャイな植物人間の男の子が歩いているだけのように見えているはずよ」
ソルの肩に乗るシェズを撫で、「ありがとうね」と呟いた。その黒猫は退屈そうに欠伸をした。
いつの間に魔法をかけていたのだろう。それにいつルーナはそれを知ったのだろう。
腑に落ちない感覚に陥ったが、ふとルーナが足を止めたのですぐにそれも消えてなくなった。
二人と一匹は巨大な木の実でできたかのような建物の前にいた。入り口のところに『喫茶』と看板が下げられているのを目にした。
「少し休憩。ここすごい人気なのよ」
嬉しそうにそう言うとソルの手を引き店内へと入っていく。
中は薄暗くぼんやりとした小さな光がゆっくりと光ったり消えたりしている。壁には無数の絵が掲げられており、天井を見上げるとまるで天の川が流れているかのようであった。
故郷の星空を思い出したソルは少しだけ郷愁に駆られたが、すぐに思い直しルーナと共に店内の一角を陣取った。
「やっぱりなんか、今日は心なしか人が少ない気がするな」
ルーナがメニュー表を眺めながらそんなことを呟いた。そうは言ったものの店内はそれでも多くの人たちで賑わっているようだった。
「私これにする。ソルは?」
手渡されたメニューを見てみたものの、ソルには何がなんやらわからなかった。
「よくわからないからルーナと同じものでいいや」
メニューをそっとテーブルに戻し、膝に乗る黒猫を撫でた。
しばらくすると細長い容器に入った飲み物が運ばれてきた。
「何頼んだの?」
「マクマイっていう木の実のジュース。さっぱりしてて美味しいのよ」
確かロキエッタの家で彼女のお母さんが出してくれたものだっただろうか。
細長い容器に刺されたストローに口をつけると、やはり知っている味であった。
「美味しいでしょ」
「これ飲んだことある。ロキエッタの家でお母さんが出してくれたやつだと思う」
ロキエッタの名前を聞き、一瞬ルーナの顔が陰ったがすぐに気を取り直した様子で笑顔で頷いた。
「このお店ね、若い子たちの間ですごい人気なのよ。まさかここに一緒に来れるなんてね」
黒猫のシェズが大きな欠伸をする。黒猫にとってはどうでもいいことなのだろう。
その首筋をそっとくすぐるとなんとも気持ちよさそうな表情でまどろんだ。
確かにルーナのいう通り、よくよく見てみると若い植物人間しか店内にはいないようだった。
長旅で疲れていたソルは、ひんやりと落ち着く店内でゆったりとした時間を過ごしていた。
「いいところだね」
ルーナはまるで自分のお店のように、「それはどうも」とたっぷりとした口調で言った。
二人は顔を見合わせ思わず笑い合った。
特になにか話すわけでもなく、二人は無言のひと時を過ごす。
ぼんやりと物思いに更けていたソルだが、そうするとやはりすぐさま親友の顔が脳裏に浮かび上がってくる。
「ルーナ、あのさ」とソルは心配を悟られないよう気楽な調子で声をかける。
ん?と口に咥えたストローを離すことなく眉を上げるルーナ。
「僕の親友のことなんだけど」
ソルがそう言うとルーナはゆっくりと飲み物を机に置き姿勢を正した。
「いや、大したことじゃないんだけどさ」
硬直しそうになる空気を嫌いソルは軽い調子で話を続けた。ソルは自身の緊張をほぐすかのように黒猫の頭を撫で続ける。
ルーナはじっと黙ってソルのことを見つめた。
「多分、助からなかったんだろうなぁって。僕の他に機会人間が島に流れ着いてたら、きっと噂話が流れてくるだろうし。・・・なんかさ、夢にその友達が出てきて僕に言うんだよね。『しっかりしろよ』って。それだけなんだけど、あぁ、もうきっとトットはこの世にいないんだろうな、って。トットてのは僕の親友の名前なんだけど」
ルーナは口を挟むことなくじっとソルの言葉に耳を傾けている。
ソルは何かタガが外れたかのように話を続ける。
「だけどやっぱりトットが死んじゃったなんて信じられないし、信じたくもなくてさ。ちゃんと決別しないといけないってわかってはいるんだけど、なかなか難しくてさ。・・・なんかいいおまじないとか、ない?」
心に秘めていた想いを一気に吐き出したソルは、どこか照れ臭そうにストローを咥えた。
最後はおどけてみせたソルであったが、ルーナはそんなソルの目を真っ直ぐに見つめゆっくりと口を開いた。
「決別なんてしなくていいと思うな、私は・・・」
ルーナはそういうとゆっくりとソルの手を包み込むように握った。
自身の手を握り真っ直ぐにこちらを見つめている瞳を見て、ソルは鼓動が速くなるのを感じた。
そんなことはつゆ知らず、といったところであろう。ルーナは真剣な眼差しで話を続けた。
「人との別れは淋しいわ。私もおじいちゃんが死んじゃった時はとても悲しかった。1週間以上家から出ることなく泣き腫らしたと思う。けどね、そんな時ロキーが私に会いにきてくれて言ったの。『死んだ人の分まで幸せになりなさい』って。そして私の手を引いて家の外まで連れ出してくれたのよ。・・・その後、ちゃっかりロキーの家の手伝いをさせられたけど」
懐かしむように優しく微笑んだルーナは、喧嘩をしたロキエッタのことを思い浮かべているのだろうか。
死んだ人の分まで幸せになる。
いい言葉だ。
ソルは機械人間だと自分のことを嫌い、ルーナともども追い出したロキエッタのことをよくは思っていなかったが、ルーナの彼女との思い出を聞き少しだけ親近感を覚えた。
きっと僕たちはそう変わらないんだろうな。
ルーナはストローに口をつけると、口元に笑みを浮かべながら続ける。
「ちゃっかりしてるわよね。私を励ますためなのか、自分が楽したいだけだったのか。まぁロキーらしいっていえばロキーらしいんだけど」
その時の情景を思い浮かべるかのように、ふふふ、と優しく笑うルーナ。
たちまちソルも釣られて笑顔を浮かべる。
ルーナの話してくれたロキエッタの言葉を心で噛み締めながらソルは笑顔で言った。
「トット、虹が見たいって言ってたんだ。一緒に世界中を旅して、いつか必ず虹を見ようって」
ルーナは眉を上げ目を輝かせながら答える。
「なら、私たちがそれを叶えなきゃね。いつか一緒に虹を見ようね。・・・必ず」
彼女の言葉に、ソルの悲しみは洗い流されるかのようであった。
「虹ってどんなんなんだろうなぁ。きっとすっごく綺麗なんだろうなぁ」
はぁっと深いため息をつきながら上を仰ぐルーナ。頭の中で思い浮かべているのだろうか。
綺麗な石を集めることが大好きなルーナにとって、七色に輝く虹の橋というものはとても魅力的なのだろう。
うっとりとした表情で空を見つめている。
「約束ね」とルーナは満面の笑みを浮かべ、手を差し出してきた。
ソルはその手を取り「必ず」と言って頷いた。
幸せな時間がゆっくりと流れ、ソルの心に渦巻いていたモヤがすっきりと晴れた気がした。
嬉しそうに笑っていたルーナであったが、ふと咳込み始めた。
「どうしたの?大丈夫」
思わず立ち上がりルーナの背中をさする。心なしかルーナの息使いにザラザラとしたものが混じっているように思える。
黒猫のシェズが驚いたようにルーナの方へと身を乗り出す。
心配するソルを片手で制して、ふぅーっと深い深呼吸をした。
「ごめんごめん。ちょっと疲れたのかも」
チョロチョロとマクアイのジュースを口に含み、一息置くルーナ。
「ごめんね、僕のために。たくさん歩かせちゃったね」
「大丈夫よ」とふふっと笑った。
それからもうしばらくゆっくりと過ごした後、二人と一匹は店を後にして再び帰路に立った。
行き交う人々を上手に交わしながら、二人はやっとのこと町の出口へとたどり着いた。
すっと地面に飛び降り、大きな欠伸と共に背を伸ばした黒猫は、声をかける間も無くとぼとぼと歩いてどこかへ行ってしまった。
「追いかけなくていいのかな」
「魔法猫の気まぐれには何もできないわ」
さぁ、行きましょう、とソルの手を取り歩き始めた。
少しずつ小さくなっていく森の町は、やがてすぐに地平線の向こうへと消えていった。
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