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1章 見覚えのない場所へ
5 キタシルベと行進
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ただ歩くという事がここまで疲れる行為だとは思わなかった。日差しは暑いし、お腹は減るし、足は痛いし...恐らく、荷物がやたら重いのが原因なのだと思う。
「ねえ、あそこ、ほらあっち、なんか見えない?」
と、シオリが10時方向遠方を指差す。
「あれは...」
あれは...なんだろう?黄色い何かが、確かに見える。しかも、よく見ると動いているようにも見えた。
「ちょっと見に行ってみよっか」
ボク達がその物体に近づくにつれて、だんだんその全体像がはっきりしてきた。
あれはおそらく、何かしらの生物で、3,4匹で固まって歩いている。それも、相当デカい。ボク達の数倍はあるだろうか?動きはノロそうだが...
「ちぇっ、やっぱり、キタシルベか」
と、シオリが言う。キタシルベというのは、この生物の名前だろう。何故かはわからないが、シオリは若干残念そうにしているように見える。
ボク達は、その獣から10メートル程度のところまで歩いてきた。ここまで近くに来ると、色々な事がわかる。
まずなによりも、異様なほど巨体である事だ。全身は金色の毛で埋め尽くされ、二足歩行で歩いている。
おそらくこの動物は、貘...いやどちらかというと、アリクイに近い。大きな体に対して顔はやたら小さく、全長は小さい個体で3メートル、大きな個体で6メートルといったところだろう。丸まった背をピンと伸ばしたらさらに大きいに違いない。
また、すぐ近くまで行ってもボク達に全く関心を示さず、なんならシオリはこの獣にペタペタと触っているが、こちらの存在に気づいていないのかと疑うほど、無反応だった。
歩く速度は物凄く遅く、ボクらの歩く速度の半分にも満たないだろう。
「この子達の名前、キタシルベっていうんだけどさ」
そう言いながら、シオリは獣の背中をペチペチと叩いている。キタシルベというその獣は、シオリに見向きもしない。
「キタシルベって、なんでかはわからないんだけど、みーんな北に向かって歩いてるの。それで、道に迷ってもこの子達を見ればどっちが北かわかるから、北の導って意味で、キタシルベ」
ボクはキタシルベの顔を見上げてみた。襲ってくる気配はない。彼らはただ、遠く地平線だけを見つめている。
「キタシルベは動きが遅いし抵抗もしないから、簡単に狩れるんだけど...」
そういってシオリは重そうなリュックを地面に下ろし、ガサゴソと何かを取り出そうとしている。
まさか、あの物騒な黒い銃でも取り出して、この獣を殺してごちそうしようとでもいうのだろうか。
と、ボクは思っていたのだが、シオリがリュックから取り出したのは大きな分厚い本だった。
「キタシルベのお肉ってすんごいまずいらしいんだよねー。それに、食べると人格に影響があるって言われてて、毒があるみたい。しかも、殺すとバチが当たるって言われてるんだよ」
シオリが取り出した本を覗いてみると、そこにはキタシルベの絵と、解剖図のようなものが載っていて、下には大量の文字が連なっている。
「あ、これ? これね、結構新しい図鑑なんだよ。高かったんだから」
と、シオリは自慢気に言う。
「ホントは食べれる生物を見つけたかったんだけど...まあ、方角が間違ってない事がわかったってだけでも収穫だったってことにしよっか」
そういって、シオリは図鑑をパタンと閉じ、リュックの中にしまい直した。
「じゃ、この子達にも特に用はないし、そろそろ行こっか」
「うん」
シオリはもう先を歩き始めていたが、ボクはふと思い立って、足を止めて振り返った。
キタシルベの巨大な背中がゆっくりと遠ざかっていく。
「じゃあね」
ボクはその背中に、お別れの挨拶をした。
「ねえ、あそこ、ほらあっち、なんか見えない?」
と、シオリが10時方向遠方を指差す。
「あれは...」
あれは...なんだろう?黄色い何かが、確かに見える。しかも、よく見ると動いているようにも見えた。
「ちょっと見に行ってみよっか」
ボク達がその物体に近づくにつれて、だんだんその全体像がはっきりしてきた。
あれはおそらく、何かしらの生物で、3,4匹で固まって歩いている。それも、相当デカい。ボク達の数倍はあるだろうか?動きはノロそうだが...
「ちぇっ、やっぱり、キタシルベか」
と、シオリが言う。キタシルベというのは、この生物の名前だろう。何故かはわからないが、シオリは若干残念そうにしているように見える。
ボク達は、その獣から10メートル程度のところまで歩いてきた。ここまで近くに来ると、色々な事がわかる。
まずなによりも、異様なほど巨体である事だ。全身は金色の毛で埋め尽くされ、二足歩行で歩いている。
おそらくこの動物は、貘...いやどちらかというと、アリクイに近い。大きな体に対して顔はやたら小さく、全長は小さい個体で3メートル、大きな個体で6メートルといったところだろう。丸まった背をピンと伸ばしたらさらに大きいに違いない。
また、すぐ近くまで行ってもボク達に全く関心を示さず、なんならシオリはこの獣にペタペタと触っているが、こちらの存在に気づいていないのかと疑うほど、無反応だった。
歩く速度は物凄く遅く、ボクらの歩く速度の半分にも満たないだろう。
「この子達の名前、キタシルベっていうんだけどさ」
そう言いながら、シオリは獣の背中をペチペチと叩いている。キタシルベというその獣は、シオリに見向きもしない。
「キタシルベって、なんでかはわからないんだけど、みーんな北に向かって歩いてるの。それで、道に迷ってもこの子達を見ればどっちが北かわかるから、北の導って意味で、キタシルベ」
ボクはキタシルベの顔を見上げてみた。襲ってくる気配はない。彼らはただ、遠く地平線だけを見つめている。
「キタシルベは動きが遅いし抵抗もしないから、簡単に狩れるんだけど...」
そういってシオリは重そうなリュックを地面に下ろし、ガサゴソと何かを取り出そうとしている。
まさか、あの物騒な黒い銃でも取り出して、この獣を殺してごちそうしようとでもいうのだろうか。
と、ボクは思っていたのだが、シオリがリュックから取り出したのは大きな分厚い本だった。
「キタシルベのお肉ってすんごいまずいらしいんだよねー。それに、食べると人格に影響があるって言われてて、毒があるみたい。しかも、殺すとバチが当たるって言われてるんだよ」
シオリが取り出した本を覗いてみると、そこにはキタシルベの絵と、解剖図のようなものが載っていて、下には大量の文字が連なっている。
「あ、これ? これね、結構新しい図鑑なんだよ。高かったんだから」
と、シオリは自慢気に言う。
「ホントは食べれる生物を見つけたかったんだけど...まあ、方角が間違ってない事がわかったってだけでも収穫だったってことにしよっか」
そういって、シオリは図鑑をパタンと閉じ、リュックの中にしまい直した。
「じゃ、この子達にも特に用はないし、そろそろ行こっか」
「うん」
シオリはもう先を歩き始めていたが、ボクはふと思い立って、足を止めて振り返った。
キタシルベの巨大な背中がゆっくりと遠ざかっていく。
「じゃあね」
ボクはその背中に、お別れの挨拶をした。
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