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1章 見覚えのない場所へ
14 透明水と喉の使い方
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「これって、やっぱり恐竜か何かなのかな」
とボクはシオリに言ったが、シオリは恐竜を見つめたまま動かない。
「ねえ」
シオリは細かく震え出し、僅かに口を動かした。
「か...」
「か?」
「......かめーーーーーっっ!!!」
シオリは突然茂みから飛び出し、恐竜のもとへ飛びついた。
ボクは驚いて、茂みから飛び出しシオリと恐竜を確認した。
良く見ると、この恐竜...というかワニは、とてもマヌケな顔をしていた。深緑の横に広く平べったい顔と体を地面すれすれに抱えて、短い4本の足でよちよちと歩いている。大きさは、全長4メートルくらいだろうか。シオリは”かめ”と呼んでいたが、甲羅はない。
「シオリ、まだ人が何処にいるかわからないんでしょ?あんまり騒がないほうがいいと思うんだけど」
「ああ、それなら大丈夫だよ」
シオリは抱きついていたワニから一度離れた。
すると、身動きが取れるようになったトカゲは川の石を次々とひっくり返し、その下にあったいくつかの銃弾を口に頬張った。
「わ、このワニ、弾を食べてるよ!?」
「これね、食べてるんじゃなくて、持ち運ぶために咥えてるだけなんだよ。なんだか、金属を集める習性があるらしくてね」
「金属か...」
「コイツ、こう見えて頭がいいらしいんだよ。私も初めて見たんだけどさ」
ワニは、一通り銃弾を回収すると、シオリをじっと見つめたまま動かなくなった。
「あ、悪い悪い。今返すよ」
シオリはそう言うと、さっき拾った3つの銃弾をポケットから取り出し、ワニの前に投げた。
ポチャン、ポチャンと音を立てて弾が川に沈んでいく。
ワニは落ちた銃弾をノソノソと頬張っていた。
「さっきからカメって呼んでるけど、これってカメなの?甲羅無いけど」
「えっと名前は”ナマケヒラトカゲ”だったと思う」
「え?トカゲなの?」
「いや、名前はトカゲなんだけど、甲羅が退化しただけでカメに近い分類なんだよ。だから、動きがチョーのろい。噛んだりしないから大丈夫だよ」
ワニっぽいこのカメは、特に動くことなく、会話するボク達をずっと下から見つめてくる。
ボクはしゃがみこんで、カメに目線を合わせてみた。大きな黒い瞳が、こちらを見ているのがわかる。パチっと、カメは瞬きをする。表情一つ動かないので、何を考えているのか全くわからない。
すると、カメは突然ぐぅっと前足を伸ばし、ゆっくりと渦巻きの方へ移動し始めた。
のしのしと数歩歩くと、またカメは前足を曲げて座り込む。口には、罠にかかったさっきの赤い魚があった。
「この川の渦巻きトラップも多分コイツが作ったやつだね。川に細工する事があるって、どっかで聞いたことあったかもしれない」
川にトラップを仕掛ける爬虫類がいるとは、初耳だ。ほんとにこの生物がそんな高度な事をできるのだろうか?
すぐ横ではシオリは楽しそうにカメを見つめているが、カメは御構い無しに魚もモヒモヒと食べている。
「私も魚食べたいなー」
ボクだってそうだ。なんだったら、この赤い魚をみすみすカメに譲る事にすら疑問を感じはじめている。
「カメのトラップを参考にしてみよう」
シオリはそう言って渦巻きの周りに配置された石を注意深く観察しはじめた。
しかし、石の配置はとても奇妙で、いくら考えてもそこから規則性を見いだす事ができない。
「降参です」
シオリはカメに頭を下げたが、カメはやっぱりモヒモヒと魚を食べているだけでちっとも反応を見せない。
「シオリ、あんまりゆっくりしてるとまたご飯探す時間なくなっちゃうからさ、そろそろ行こうよ」
「んー、もうちょっとコイツの事見てたいけど...」
シオリはすっと立ち上がる。
「ま、しゃーないね。コイツが頭を使って魚を取るなら、私達は力技で魚を取ればいいんだよね!」
人類の然るべき発言ではない。
ボク達は川の上流へと向かい、食べられそうな木の実や河原の生き物、魚がいないか探しにいく事にした。まだ3個だけ最初のお菓子が残っているが、いざという時の為にも、これ以上は消費したくない。色々な事を考えながら、ボク達はカメの元を後にする。
「バイバーイ!」
と、シオリはカメに手を振っていた。
ボクは別の形でもいいから何か魚をトラップにかける方法を考えていた。せめて網でもないと、もはや力技でも魚を取れないだろう。味気ない植物なら見つかるかもしれないが、肉っぽい物をずっと食べていないから、どうしても魚が食べたかったのだ。
ガサッ
背後から音がした。なんだろうと思って振り返ると...そこには、さっきのカメがいた。
「あれ、なんかついてきちゃってる」
ボクがそういうと、シオリもこちらを見る。
「あら、ほんとだ」
ボク達が立ち止まると、カメもその場で動きを止める。
「おいカメ!」
シオリがそういうと、カメは視線だけをシオリに移す。
「お前、なんて名前なの?」
と、シオリが言うとカメはシオリの方向に体制をかえる。
「......」
「...オアアゥ!」
低い声でカメは答える。
「おう、そうか! いい名前だな!」
「なんて言ってるの?」
「...いや、全然わかんない」
「...だよね」
シオリは腕を組んで何か考えている。
「しめた。ロン、ちょっときて」
そう言って、シオリが素早く茂みの方へ数歩歩く。ボクはその後をついていく。
そして、シオリとボクは後ろを振り返ると...のしのしとこちらにゆっくり歩いてくるカメの姿があった。
「やっぱついてきてるよね」
ボクがそういうと、シオリは突然、頭上にあるツル植物をブチブチと抜き始めた。
シオリは抜いた植物を引きずってカメの元まで歩いていくと、背負っていたリュックをカメの上にズムッと置いて、ツル植物でぐるぐる巻いて固定した。
シオリは作業を終えると、満足そうにボクの方を見る。
「もしかして、荷物持ちさせる気?」
ボクは白い目線を向けながらシオリに言った。
「だ、だって力持ちっぽいし、ほら嫌がってないじゃん」
カメは重そうなリュックを背中に抱えながら、よちよちとボクのほうに近づいてきた。
カメはボクの前で立ち止まり、何か言いたげにじっと下からボクの目を見つめている。
「それも持ってくれるんじゃない?」
シオリはそう言ってボクのショルダーバッグを指差す。
「えぇっ、いいよボクは...自分で持てるから」
「ガアウ」
ボクはカメの瞳を覗き込んだが、深くて黒い視線が返ってくるだけで、何を考えてるのかやっぱりわからない。
ボクはカメを見つめるのをやめ、先に進むことにした。
ボクは早歩きで前を進む。シオリがボクの後に続く。さらにその後ろからは、巨大な爬虫類が続く。
とボクはシオリに言ったが、シオリは恐竜を見つめたまま動かない。
「ねえ」
シオリは細かく震え出し、僅かに口を動かした。
「か...」
「か?」
「......かめーーーーーっっ!!!」
シオリは突然茂みから飛び出し、恐竜のもとへ飛びついた。
ボクは驚いて、茂みから飛び出しシオリと恐竜を確認した。
良く見ると、この恐竜...というかワニは、とてもマヌケな顔をしていた。深緑の横に広く平べったい顔と体を地面すれすれに抱えて、短い4本の足でよちよちと歩いている。大きさは、全長4メートルくらいだろうか。シオリは”かめ”と呼んでいたが、甲羅はない。
「シオリ、まだ人が何処にいるかわからないんでしょ?あんまり騒がないほうがいいと思うんだけど」
「ああ、それなら大丈夫だよ」
シオリは抱きついていたワニから一度離れた。
すると、身動きが取れるようになったトカゲは川の石を次々とひっくり返し、その下にあったいくつかの銃弾を口に頬張った。
「わ、このワニ、弾を食べてるよ!?」
「これね、食べてるんじゃなくて、持ち運ぶために咥えてるだけなんだよ。なんだか、金属を集める習性があるらしくてね」
「金属か...」
「コイツ、こう見えて頭がいいらしいんだよ。私も初めて見たんだけどさ」
ワニは、一通り銃弾を回収すると、シオリをじっと見つめたまま動かなくなった。
「あ、悪い悪い。今返すよ」
シオリはそう言うと、さっき拾った3つの銃弾をポケットから取り出し、ワニの前に投げた。
ポチャン、ポチャンと音を立てて弾が川に沈んでいく。
ワニは落ちた銃弾をノソノソと頬張っていた。
「さっきからカメって呼んでるけど、これってカメなの?甲羅無いけど」
「えっと名前は”ナマケヒラトカゲ”だったと思う」
「え?トカゲなの?」
「いや、名前はトカゲなんだけど、甲羅が退化しただけでカメに近い分類なんだよ。だから、動きがチョーのろい。噛んだりしないから大丈夫だよ」
ワニっぽいこのカメは、特に動くことなく、会話するボク達をずっと下から見つめてくる。
ボクはしゃがみこんで、カメに目線を合わせてみた。大きな黒い瞳が、こちらを見ているのがわかる。パチっと、カメは瞬きをする。表情一つ動かないので、何を考えているのか全くわからない。
すると、カメは突然ぐぅっと前足を伸ばし、ゆっくりと渦巻きの方へ移動し始めた。
のしのしと数歩歩くと、またカメは前足を曲げて座り込む。口には、罠にかかったさっきの赤い魚があった。
「この川の渦巻きトラップも多分コイツが作ったやつだね。川に細工する事があるって、どっかで聞いたことあったかもしれない」
川にトラップを仕掛ける爬虫類がいるとは、初耳だ。ほんとにこの生物がそんな高度な事をできるのだろうか?
すぐ横ではシオリは楽しそうにカメを見つめているが、カメは御構い無しに魚もモヒモヒと食べている。
「私も魚食べたいなー」
ボクだってそうだ。なんだったら、この赤い魚をみすみすカメに譲る事にすら疑問を感じはじめている。
「カメのトラップを参考にしてみよう」
シオリはそう言って渦巻きの周りに配置された石を注意深く観察しはじめた。
しかし、石の配置はとても奇妙で、いくら考えてもそこから規則性を見いだす事ができない。
「降参です」
シオリはカメに頭を下げたが、カメはやっぱりモヒモヒと魚を食べているだけでちっとも反応を見せない。
「シオリ、あんまりゆっくりしてるとまたご飯探す時間なくなっちゃうからさ、そろそろ行こうよ」
「んー、もうちょっとコイツの事見てたいけど...」
シオリはすっと立ち上がる。
「ま、しゃーないね。コイツが頭を使って魚を取るなら、私達は力技で魚を取ればいいんだよね!」
人類の然るべき発言ではない。
ボク達は川の上流へと向かい、食べられそうな木の実や河原の生き物、魚がいないか探しにいく事にした。まだ3個だけ最初のお菓子が残っているが、いざという時の為にも、これ以上は消費したくない。色々な事を考えながら、ボク達はカメの元を後にする。
「バイバーイ!」
と、シオリはカメに手を振っていた。
ボクは別の形でもいいから何か魚をトラップにかける方法を考えていた。せめて網でもないと、もはや力技でも魚を取れないだろう。味気ない植物なら見つかるかもしれないが、肉っぽい物をずっと食べていないから、どうしても魚が食べたかったのだ。
ガサッ
背後から音がした。なんだろうと思って振り返ると...そこには、さっきのカメがいた。
「あれ、なんかついてきちゃってる」
ボクがそういうと、シオリもこちらを見る。
「あら、ほんとだ」
ボク達が立ち止まると、カメもその場で動きを止める。
「おいカメ!」
シオリがそういうと、カメは視線だけをシオリに移す。
「お前、なんて名前なの?」
と、シオリが言うとカメはシオリの方向に体制をかえる。
「......」
「...オアアゥ!」
低い声でカメは答える。
「おう、そうか! いい名前だな!」
「なんて言ってるの?」
「...いや、全然わかんない」
「...だよね」
シオリは腕を組んで何か考えている。
「しめた。ロン、ちょっときて」
そう言って、シオリが素早く茂みの方へ数歩歩く。ボクはその後をついていく。
そして、シオリとボクは後ろを振り返ると...のしのしとこちらにゆっくり歩いてくるカメの姿があった。
「やっぱついてきてるよね」
ボクがそういうと、シオリは突然、頭上にあるツル植物をブチブチと抜き始めた。
シオリは抜いた植物を引きずってカメの元まで歩いていくと、背負っていたリュックをカメの上にズムッと置いて、ツル植物でぐるぐる巻いて固定した。
シオリは作業を終えると、満足そうにボクの方を見る。
「もしかして、荷物持ちさせる気?」
ボクは白い目線を向けながらシオリに言った。
「だ、だって力持ちっぽいし、ほら嫌がってないじゃん」
カメは重そうなリュックを背中に抱えながら、よちよちとボクのほうに近づいてきた。
カメはボクの前で立ち止まり、何か言いたげにじっと下からボクの目を見つめている。
「それも持ってくれるんじゃない?」
シオリはそう言ってボクのショルダーバッグを指差す。
「えぇっ、いいよボクは...自分で持てるから」
「ガアウ」
ボクはカメの瞳を覗き込んだが、深くて黒い視線が返ってくるだけで、何を考えてるのかやっぱりわからない。
ボクはカメを見つめるのをやめ、先に進むことにした。
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