ヒメジョオンの花びらのような

加糖二次

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ヒメジョオンの花びらのような

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 ありはさまよっていました。
 生きるために地べたをはい回っていました。
 ただひたすら。
 そうして、あたり一面うす桃色のヒメジョオンが咲きみだれる野原に、さしかかったときです。蟻の目に、かろやかに舞うアゲハチョウの姿が映りました。
 きいろとくろ、そしてだいだい色が、心に染み入りました。
(私もあんなはねがほしいな。ほんの少しでいいから、とんでみたい)
 そのとき、アゲハチョウを狙う黒い影に気がつきました。
 ひばりです。
「アゲハチョウさん! はやく、こっち」
 蟻が指し示す先には、すき間をあけて並ぶ大きな石ころがありました。
 逃げるアゲハチョウを、ひばりがもうスピードでおいかけてきました。
 間一髪、ひばりのクチバシは空振りに終わりました。
「ちっ。余計なことをしやがって」
 ひばりは蟻のほうへ向き直ると、とびかかってきました。
 あわてて、蟻もすき間へ向かいました。
 おそいかかるクチバシに、右手を打たれました。
   *
 おちついたころ、アゲハチョウはヒメジョオンの花びらをひとつ摘んできました。そして、蟻のサイズにあわせて細く切ると、傷ついた右手に巻きました。
    
「お礼をさせてください。私にできることならなんでもします」
 蟻はアゲハチョウの翅を、横目で見ました。が、すぐにそらすと、
「そんな、お礼だなんて……。気にしないで」といいました。
「それよりも、お友だちになってくださいな。ね、アゲハさん」
「ええ。ええ、もちろんよ。ずっとずっと友だちでいましょう」
 さわやかな風がとおりぬけていきました。
   *
 二週間後のことです。
「どうしたの。しっかりして」
 いよいよ夏が始まるというのに、アゲハチョウは、柳の根元で力なくうずくまっていました。
「蟻さん。そろそろお別れです。今までありがとうね」
「どうして。病気なら治しましょうよ」
 アゲハチョウは、力なく顔を左右に振りました。
「病気じゃないの。寿命よ。でも悲しくないわ。蟻さんのおかげで最後まで生きのこれたのですもの」
「アゲハチョウさん……」
 蟻は涙をこぼしながら、アゲハチョウを抱きしめました。
「私の翅を……あなたにあげる。あなただったらいい。どうか使って……」
 つぶやくと、アゲハチョウはまったくうごかなくなりました。
 蟻は薄目をあけました。
 なきがらとなっても、翅はきらびやかなままです。
 なんとはなしに、翅をつけた自分の姿を思い描きました。
 くすぐるように胸が高まりました。
 震えが止まりません。
 引き込まれるように、右手が伸びました。
(かまわないよね。アゲハチョウさんだってあげると言ってくれたのだから)
 そのとき、右手に巻かれたヒメジョオンの包帯が目に入りました。しおれて、硬くなっているのに、まだ捨てきれない花びら……。
 ふと、翅をむしられたアゲハチョウの姿が浮かんできました。
――ずっとずっと友だちでいましょう
 蟻は、伸ばした手を引っこめました。そして、思いも新たに、なきがらに土をかけました。
 翅が少しずつ見えなくなっていきます。
 出来あがった盛り土の前で、目をつむって手を合わせました。
 初夏の星空に、ひかえめな風が流れていきました。
 静かに……。
 妙なひややかさを感じて、目をあけました。
 息をのみました。
 ガラス細工のようなアゲハチョウが、夜空を舞っているのです。
 夢を唄うようにはばたいています。
 透明なアゲハチョウは、らせんを描きながらに、天に昇っていきました。
「よかった。ほんとうによかった」
 涙を浮かべて見あげる蟻の背中に、いつのまにか、ヒメジョオンの花びらのような翅が二枚ついていました。
 お日様色に輝いていました。
    
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