流行りじゃない方の、ピンク髪のヒロインに転生しました。

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第一章

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「……ん、ゃ」

 ベッドと、向かい合わせに置かれた、一人掛けの椅子が二つに、テーブル。
 ホテルの様な室内で、なぜか黒髪の美少年に、胸を吸われています……!?
 


◇◇◇


 
 私はミア。街のパン屋の娘で、髪の色がピンクブロンドで珍しいとは言われるけど、ごく普通の女の子。
 ……だと、思ってた。この間までは。

 15歳になる年に、このエーディン王国では、神殿に行って神力測定をするきまりがある。
 神力が高い貴族の人達は、小さい頃に神力測定をするらしい。

 神力にも種類があって、火水地風の四属性が四大侯爵家に多く現れ、珍しいのは、光と闇の属性で、王族や公爵家の方達に多い属性だ。もっと珍しいのが、魔属性と聖属性。魔属性は、辺境伯の家系の方に多く、聖属性に至っては、血筋で伝わらないらしく、突然現れるとても貴重な属性らしい。

 ……その、貴重な聖属性だった。……私が!
 

 ――――それって、……まるで、乙女ゲームのヒロインじゃない……?!



 ……………………私はミア。街のパン屋の娘……ってもう言ったよねえ。え、待って、何これ。

 私は、安達友香。27歳でシステムエンジニアやってます。趣味は、ネット小説を読み漁って、現実逃避すること。と、献血。

 黒髪黒目のごく普通のアラサーですけど……!
 
 急に脳内がパニックになったので、落ち着こうと、部屋のベッドに腰掛ける。

 自分の格好を見下ろすと、白いブラウスに、赤色の棒タイがついていて、燕脂色の足首丈のスカートに、紺色のボレロを着ている。

 ……この格好、何故か見たことがある。

 趣味のネット小説で、好きな作品は書籍でも買ったりしていて、その一つにこんな制服を着たヒロインがいた。

「悪役令嬢は、王子様に抱かれたい!」……という、TLもの。いわゆるティーンズラブ。ティーンに読ませて良いの?!というような、大人向きのジャンルの小説だ。

 18禁乙女ゲーム「聖なる乙女は花になる」の悪役令嬢ディアナに転生したアラサーOLが、周りも巻き込んで、幸せになるというお話……

 …………恐らく私も、いわゆる転生したアラサーOL。

 ネット小説で腐るほど読んだ。テンプレ大好きで、悪役令嬢ものも片っ端から読んでいた。

 ……なのに、なんで、ピンク髪のゆるふわ女子になっているんでしょうか?!


 

 この国では、貴族の子息と、高神力保持者の平民が通う、王立エーディン学園という、全寮制の学校がある。

 神力測定で、ものすごく珍しい聖属性だと分かった私も、そこまで神力は高くなかったけれど、入学を勧められた。

 平民は、学費は無料で、制服や、生活に必要な費用なども国が負担してくれる。その代わりというのか、自分の能力に合った仕事に就いて、国に貢献する事を求められる。

 聖属性の人以外は、古の神様の子孫で、その力を受け継いでいる。
 ただ、聖属性の力だけは他の神力とは違う。元々持っていたものではなくて、普通の人間が神様に与えられた力だったらしく、神様の気まぐれの様に、時たま現れる属性らしい。

 学園に入学する前に、神殿に呼ばれ、神官様からお話があった。

「聖属性の神力でできる主な事が、外傷の治癒、結界を張る、場の浄化の三つになります。……それ以外で、もう一つ能力があるのですが……」

 神官様が言い淀む。

「ミアさんは、神力に、いくつ属性があるか知っていますか?」
「はい。火水地風に、光と闇、それから、魔と聖……」
「その通りです。その、神力が対になっているものだというのはご存知ですか?」
「いえ……知らないです」
「火と水、地と風、光と闇、魔と聖が、対になっていて、お互いが交わる事で、力の均衡が取れるようになっています」
「交わる、ですか?」
「……高位貴族の若い男性、少年と青年の間の著しく成長する時期に、神力も同様に強くなります。その力を、人間の身体では受け止めきれず、力が不安定になり暴走してしまう事があります。それを、聖属性の力で抑えることができるんです」
「……対になる属性だけではなく?」
「はい。そうです。聖属性の力は、他の神力とは違い、人間が神から与えられた力になります。聖女マイラ様は、神から与えられた力を、人々の為にお使いになられました。そういった行いを神が喜ばれ、対になる属性でなくとも、力を受け入れられる様になった訳です」
「な、なるほど……?」
「その、要するに、ですね」

 また、神官様が言い淀む。なんだろ?

「対になった属性同士であれば、その、男女の交わりを持つ事で、神力の暴走を抑える事ができます」

 ああ、18禁乙女ゲーム……。
 
「聖属性の力を持った方は、どの属性と交わっても、神力の暴走を止める事が出来ますし、また、交わりをもたずとも、抑える事が出来るんです」
「そうなんですか?」
「はい、性的に感じた際に出る、『聖蜜』と呼ばれる体液を摂取する事で、抑える事が出来ます」

 ああ、やっぱり18禁乙女ゲーム……。

「あの、……神力が暴走した場合、その人はどうなってしまうんですか……?」
「どうしても、抑える手段がない場合は、薬を飲む事で、成長を抑制し、一時的に抑える事は出来ます」
「……それって、副作用、何か身体に害は無いんですか?」
「常用すれば、無理に力を抑え続ける事で、身体に負担がかかってしまい、どうしても、寿命を縮める事になります」
「じゃあ、……魔属性の方は、私の力が無ければ、成長出来ないという事でしょうか?」
「そうですね。……ただ、この力を使われるのは、強制ではありません。聖属性の力は、神聖視されており、無理強いする事は、神の意に反すると言われています。高位貴族の方達には、聖属性の女性が現れたという情報は与えられますが、ミアさんの意に反してまで、その力を得ようとする方は、力を鎮める行為自体を禁止されてしまいます。ですので、ミアさんのお心のままに、力をお使い下さいね」
「そう、なんですね……」

 そうか、……嫌だったら断れるんだ。
 でも、人の命を左右する様な力でもあるから、良く考えて使わないといけない。
 とりあえず、その、……魔属性の人は、私しかなんとか出来ないって事だもんね……。うう、……なるべくなら使いたくないけど。

「ミアさんが、入学される予定の王立エーディン学園に、現在、神力を抑制する薬を飲まれている方が、通われる事になっています。きっと、接触する機会があるだろうと思います。その時に、もし、無理強いをされるなど、不正を働かれる様な事がありましたら、すぐに神殿に連絡を下さいますか? 必要でしたら、神殿で保護する事もできますので」
「分かりました。……今まで、保護される様な必要に迫られた事はあったんでしょうか?」
「そうですね。複数の方に、体液や交わりを求められ、対象者同士で刃傷沙汰になってしまい、逃げ込んでこられた方はいらっしゃいました」

 な、なるほど……。私の為に争わないで状態になったわけね。刃傷沙汰って、恐ろしいな……。
 前世が、恋愛弱者の自分には無い事だろうけれど、攻略対象の人には近づくのは、必要最低限にしなくては。

「お話した事は、一般の方達には知られておりません。貴族の中では公然の秘密となっており、基本的に、口外無用となっていますが、対象者である方々とやり取りされる事は、必要であればして下さいね」

 それは、そうだよね。大っぴらに話せる様な事ではない。

 

  私に一番必要な情報は、神殿では知ることが出来ない。
 そう、ここは、18禁乙女ゲーム「聖なる乙女は花になる」のゲームの中なのか、それとも、「悪役令嬢は王子様に抱かれたい!」のお話の中なのか……それをまず知らなくては。

 私の希望としては、「悪役令嬢は、王子様に抱かれたい!」の中であって欲しい……。だって、小説が好きで読んでたし、主人公の中味アラサーOLのディアナちゃんは良い子だったし。ガチの悪役令嬢とか怖いですし……。
「悪役令嬢は、王子様に抱かれたい!」の中なら、ディアナちゃんのおかげで、攻略対象の人達が、ちゃんと自分の婚約者と仲良くなっていたし。できれば、そうであって欲しい。
 それに、複数の人と、同時に恋愛するとか、ちょっと考えられない。前世でも、恋人ができたのは一人だけでしたし……。

 このまま、無防備にヒロイン全開で入学してしまえば、18禁乙女ゲームだし、あんな事やこんな事がいきなり始まってしまうかもしれないので、ヒロイン値が低めの装備にして、推し(悪役令嬢)の学園生活も垣間見つつ、平穏無事に過ごせます様に……。
 そして、真面目に勉強して、この世界では数少ないけれど、女性でも出来る仕事にありつけます様に……!


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