流行りじゃない方の、ピンク髪のヒロインに転生しました。

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第一章

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 ――ヒロイン値低めの装備とは、まずはメガネ(伊達)、それから、ふわふわのピンク色の髪は、ひっつめにして、後ろで纏めてみる。

 あとは、18禁乙女ゲームヒロインらしく、まあまあ大きな胸を、晒しみたいなもので巻こうかと思ったけど、毎日それをする労力を考えて、断念した。苦しいし……。
 髪型とメガネで随分と雰囲気が変わるから、とりあえず、これでいってみよう。
  
 
 王立エーディン学園では、入学式はなく、入寮した後に、寮毎の歓迎会があるらしい。
 私の住む寮は、平民出身の子達が集まっている寮で、割と気楽な雰囲気でホッとする。

 同室の子は、エマといって、地属性で、親が貿易関係の仕事をしているらしい。ブルネットの髪の、ふんわりとした可愛らしい感じの子だ。

 寮の歓迎会があった翌日から、早速授業が始まった。

「やばい……」

 授業についていくのが思っていたよりも、大変で、焦っています。

 数学は、前世の知識もあるし、何とかなりそう。簡単な読み書きは、神殿の学校で習っていたけれど、地理に歴史に古典が、ほぼ分からなくて、更にこれから専門の科目も増えると思うと震える。

 肝心の悪役令嬢のディアナちゃんは、大人数の授業の時に、遠目で少し見えた。王子様らしき人と一緒にいて、仲は悪くはなさそうだったから、小説の方の世界なのか……?
 確信は持てないので、引き続き観察することにします。

 
 ……とりあえず、勉強するために図書館に来ています。


 この学園には、図書室ではなく、立派な図書館がある。

 煉瓦作りの、重厚で歴史を感じさせる建物だ。
 中に入ると、高い天井の上までぎっしりと本の詰まった、背の高い本棚が周りにあり、その真ん中に、四人掛けの机が、何個も置いてあった。
 天井までの棚の間に、通路の様な所が見え、あの奥にも本があるのかもしれない。

 とりあえず、空いている机に座って、まずは復習のために、持ってきた教科書を開く。分からない所を調べるために図書館に来たのだ。

 勉強がのってきて、集中していると、

「あ、そこの綴り、間違っているよ」

 と、横から声が聞こえる。
 声の方を向くと、赤茶色の髪の男の人が目に入る。
 距離が近い。
 ……ネクタイが黄色だから二年生。先輩か……

「教えて頂き、ありがとうございます」

 一応お礼を言って、机に向かう。

「……君、よく見ると、結構可愛い顔をしてるよね。名前はなんていうの?」

 ナンパですか?
 これは、無視して良いかな?良いよね?

「……ねえ、聞いてる?」

 ……しつこい。……やっぱり距離が近い。

「あ、そうだ! 用事を思い出しました!」

 かなり棒読みだったけれど、思い切って言ってみる。
 
「え、何、」

 先輩らしき人が、驚いた顔をしている間に、目の前の物をかき集めて席を立ち上がる。

「失礼します!」

 ぺこっと頭を下げ、その場所からそそくさと離れた。

 確か、奥に行く通路があったはず……

 天井まである本棚の間の通路にささっと逃げ込む。



 奥に入ると、先程の部屋よりも天井が低く、本棚と本棚の間に、机が置いてある。
 こっちの方が、人も少ないし、集中して勉強できそう。通路の一番奥へと向かう。

 突き当たりの所に大きめの窓があって、北向きだからなのか、日当たりが強すぎず、丁度いい明るさの場所になっている。
 開放感もあるけど、端で落ち着くしここがいいな。
 
 机の方を見ると、一人、黒髪の男の子が突っ伏して寝ているのが目に入る。
 他に人もいないし、寝てるし、この子の斜め向かいに座らせてもらおう。

 再び、勉強に集中する。 

 時間を知らせるチャイムが鳴り、顔を上げる。
 もう、薄暗くなってる……。お腹、減ったな。と、思ったら、どこかから、ぐう。という音が聞こえた。

 私じゃない。という事は、……向かいの男の子を見ると、顔を上げてボーっとしている。
 お腹減ってるのかな。
 
 男の子がこちらを向き、

「あれ、人がいる……」

 と、不思議そうにぼんやりと言う。

「……飴、いりますか?」

 どこかの国のおばちゃんみたいに、飴を取り出す。

「え、あ、ありがとう?」

 紙箱に入った飴を差し出すと、一つ取って、男の子が口に入れる。

「美味しい」
「良かったです」

 ごく普通の、蜂蜜の飴ですよ。
 
「お腹が減っていたから、余計に美味しいよ。ありがとう」

 と、ふにゃりと笑って言う。
 んん、よく見なくても、えらい綺麗な顔の子だな。
 声変わりもまだで、幼さが残ってるけど、さらさらの黒髪に、切れ長の金色?の目の、整った顔立ちだ。
 ……もし、乙女ゲームの攻略対象なら、あんな事やこんな事に急にならない様に、警戒しなきゃいけないけど、まだ幼い顔立ちのせいか、なんだか、気が緩んでしまう。

「……いえ、どういたしまして」
「さっき、6時の鐘が鳴ったよね。そろそろ寮に戻らなきゃ。飴、ありがとう。じゃあ、失礼するね」

 と、通路の奥へ消えて行った。
 ……攻略対象じゃないのかな。
 まあ、いいか。お腹減ったし、私も帰ろう。
 

◇◇◇

 
 次の日、また図書館へと向かう。今日は直接、通路の奥の席を目指す。

 昨日の男の子が、今日は本を読んでいた。

「こんにちは」

 と、声をかけ斜め前に座ろうとすると、

「こんにちは。……そっちの席、手元が見えづらくない? 隣、良ければどうぞ」

 と、隣の席をすすめられる。
 確かに、手元がそっちの席の方が明るいんだよね。お言葉に甘えて座らせてもらう。

「昨日は、飴をありがとう。美味しかったよ」
「それは、良かったです。街でよく売ってる、普通の蜂蜜の飴ですよ?」
「そうなんだね。今度見かけたら買ってみよう」

 飴一つに、改めてお礼を言われる。よっぽどお腹が空いていたのかな。それか、よっぽど育ちが良いのかも。
 
「僕は、ルカ・クレア。君は?」
「ミア・カーソンといいます」
「ミア・カーソン……?」
「はい、そうですけど……?」

 何故か驚いた顔をされる。

「あ、いや、なんでもないんだ」

 目を逸らされ、あまり突っ込んで欲しくなさそうだったので、気にせずに勉強を始める。

 ふ、と集中力が切れたので横をちらりと見る。
 クレアさんは、昨日と違って、寝てはいないけれど、本を読んでいるというより、ボーっと眺めている様に見える。

「……眠いんですか?」
「ん、ああ、夜、あまり眠れなくてね。寮で寝るにも、なんだか周りが騒がしいから、ここの方が静かで良いんだ。でも、図書館に寝に来ているなんて、失礼かと思って、本を手に取ってみたんだけど……」
「別に、本に失礼も何もないですし、寝てしまっては? 寝不足は身体に良くないですよ」

 特に成長期は! 寝なくちゃ大きくならないよ。

「そう、だね。勉強している横でごめんね。じゃあ、お言葉に甘えて、少しだけ……」
「はい。おやすみなさい」

 と言うと、少しびっくりした顔をされたけど、何故か微笑んで、

「……おやすみ」

 と、言うと、腕に頭を乗せて目を瞑った。

 ……やっぱり、綺麗な顔してるな。ずっと見てられるもんね。……いや、美少年の寝顔を見つめる女とか怪しすぎる?! 勉強勉強!!

 専門の科目の授業も始まり、色々と調べなければ分からない事が増えてきた。
 薬学の本を探していると、丁度、取りたい本の前に、見知った人が立っていた。
 サラサラの黒髪に、長いまつ毛、切長だけれど、大きな、深い青色の目。「悪役令嬢は王子様に抱かれたい!」のヒロイン、ディアナちゃんだ。

「あ、あの、すみません。そこの本取っても良いでしょうか?」

 推しを前に緊張して、少し声が震える。

「あ、ごめんなさい。邪魔だったわね」

 と、顔を上げたディアナちゃんと目が合い、驚いた様に一瞬目を見開く。

「あなた……」

 あ、そうか、ディアナちゃんは、前世で乙女ゲームをやり込んでた人だから、ミア(私)を知ってるんだ。
 ……と、いう事は、前世アラサーOLのディアナちゃんてことで合ってますか?!
 ……ゲームの詳しい事を聞いてみたい。今がチャンスじゃないの?!

「『聖なる乙女は』……」
「……『花になる』…………って、えっ、あなた、なんで?!」
「……………………おそらく、同じ、です」

 転生したアラサーOLが二人。

「え、え、ちょっと待って、じゃあ、あなたも、もしかして……」
「そうなんです!」

 と、思わず大きな声を出してしまい、周りを見回す。

「……良かったら、明日にでも、私の部屋にお茶しに来ないかしら?」
「良いんですか?」
「もちろんよ。お話したい事が沢山あるでしょう?」
「……はい!」


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