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第一章
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しおりを挟む次の日の放課後、ディアナちゃんのいる寮へと向かう。
私のいる寮は、平民の子ばかりが集まっていて、基本的に二人一部屋で使う事になっている。
ディアナちゃんの寮は、一人部屋で、しかもメイドさん用の相部屋が別にあるらしい。
貴族の女の子は、制服の下にもコルセットをつけているらしく、身支度するのも一人では難しいからだろうな。
寮母さんに、ディアナちゃんの部屋を教えてもらい、ドアをノックする。
メイドさんがドアを開けてくれて、部屋の中へ通された。
私とエマの部屋と同じくらいの広さに、ベッドと、テーブルに、向かい合わせの椅子が二つ置いてある。
「お招き下さり、ありがとうございます」
「そんなに、かしこまらないでちょうだい」
ディアナちゃんの向かいの席をすすめられ、座らせてもらう。
メイドさんが、お茶を淹れてくれた後は、「失礼します」と言って、部屋を出て行く。
「ミアさんと二人でお話したいからと、下がる様に伝えておいたの」
「ありがとうございます」
「……それで、その、ミアさんは……ああ! どこから聞いたら良いのかしら? 聞きたいことがあり過ぎると、困ってしまうわね」
「その……私、実は、ゲームの内容をあまり知らなくて、それをディアナさん……と呼んで良いですか?」
「もちろんよ!」
「ディアナさんに、お聞きしたくて」
「そうなのね。私も……全員のルートを攻略したわけではないから、分からない事もあるのだけれど……その、ミアさんの『推し』は誰なのかしら?」
真剣な顔でディアナさんに聞かれる。
……強いて言うなら、
「……ディアナさん?」
「……それは、またマイナーね。そのカップリングの薄い本でもあるのかしら? 百合もの?」
「い、いえ、あの……、ご自分をしっかり持ってらっしゃって、美しくて、憧れというか……」
中身アラサーOL含めての、目の前のあなたが「推し」です。とは言えない。
「では、私のファンて事ね!」
「はい、そうです!」
「そうなのね。でしたら、良かったわ。私の友人も、その、私も……、ゲームの中で、攻略対象である婚約者と、仲良くしたいと思って、頑張っているところなの」
うんうん、知ってます。
「そうなんですね。……それが、きっと、一番みんな幸せになれますよね。ディアナさんや、ディアナさんのご友人の方の事も、ぜひ応援したいです」
「ありがとう! そう言ってもらえたら、心強いわ!……ミアさんは、今のところ、いいなと思う方はいらっしゃらないの?」
「そう、ですね…………」
誰かいたかな? 男の人でって事だよね……。
「……あ、図書館で会った男の子が、礼儀正しくて良い子でした」
なんか、可愛らしい感じの子だったな。……友達になってみたいかも。
「お名前は?」
「ルカ・クレアと仰ってました」
「ルカ様ね!」
「……ご存知ですか?」
「もちろん! あ、ルカ様ルートはプレイしていないんだけれど。……私、殿下絡みのルートしかプレイしていなくて、情報が偏っていて申し訳ないわね」
そうか、攻略対象の子なんだ……。
「いえ! 全然。それで、そのルカ様は……」
「そうそう、黒髪の美少年でしょう? ちょっと間違うとヤンデレになっちゃうんだけれど、独占欲強いところがたまらないって、人気のあるキャラクターだったわ」
確かに、小説でも、ヒロインがハーレムエンドを目指して、黒髪の子に監禁されていた気がする……。
優しそうな男の子だったけど、監禁するって中々だよね……。図書館で会うくらいなら、大丈夫かな。ハーレムエンドなんて、絶対目指さないし、無理ですし。
「他の、攻略対象の方はご存知ですか?」
「そうね……、あとは、ワイルド系イケメンのザイード様と、優しい知的イケメンのセオドア様くらいかしら……。うちの兄が、多分隠しキャラなのだけれど、兄も婚約者と、とても仲が良いの」
「なるほど……」
ヤンデレ……の子と、ワイルド系イケメンの人と、知的イケメンの三人は、どう関わってくるか、まだ分からないって事だよね。
「あの、ディアナさんは、魔属性の方がどなたかご存知ですか?」
「魔属性の方は、今、ミアさんが仰ってた、ルカ様ね。……そうよね、魔属性の方は、ミアさんしか救えないんだったわね」
「……そうなん、ですよね……」
あの、図書館の、ヤンデレかもしれない子なんだ。
神官様は、体液の摂取でも神力の暴走を抑える事ができると言っていたけれど、どうやって摂取するんだろう。性的に感じないとだめだとも言っていたよね……。思わず変な想像をしてしまいそうになり、恥ずかしくなって頭から打ち消した。
……こんなんで、できるのかな? でも、やるしかないし、その時はその時だよね……。
◇◇◇
前世では、恋愛漫画や小説は好きで、良く読んでいたけれど、リアルで恋愛となると、ピンとこなくて、彼氏が出来たのは一人だけだった。
大学の時に、男友達だと思っていた子に突然告白され、周りが何故か盛り上がっていて、よく分からないまま付き合った。
なんとなく初体験も済ませたけれど、色々な場面で、私の反応が思っていた様なものではなかったみたいで、三ヶ月ほど経った頃に、相手から別れを告げられた。
恋愛は自分には向いていないなと、その時に思った。
いつまでも友達の様な。でも、穏やかな愛情が日々育まれている、そんな両親の姿が、私の中で理想だった。
図書館へ行くのが日課になり、そこに、クレアさんも居るのが日常になった。
私は勉強をして、その横で、クレアさんはお昼寝をして、合間にとりとめもない話をしたりする。
空気が緩やかに流れる感じがして、この時間を、私は気に入っていた。
そして、クレアさんから、神力の暴走の抑制に関する話が、出ることは無かった。
今日は珍しく、いつも、私より先にいるクレアさんがいない。
そりゃ、そういう日もあるよね。とは思うけれど、いつもいる人がいないと、なんとなく寂しく感じてしまう。
いつもの場所で、クレアさんがいない事以外は、普段と変わらずに勉強を始める。
集中している最中に、声をかけられても気がつかなかったりするけど、この時もそうだった。
気がつくと、すぐそばに人が立っていて、思わずびくりと反応してしまう。
「こんにちは。すごい集中力だね。声をかけても全然気がつかなかったよ?」
知り合い……ではないけど、なんか見たことがある。赤茶色の髪の、ネクタイが黄色の男の人。
「君、平民出身の子でしょ? 勉強で困ってないかなあと思って声をかけたんだけど。良かったら、教えてあげるけど?」
と言いながら、隣の席に座ってしまう。
「いえ……、大丈夫、です」
「そんなに警戒しなくても」
何故か、こっち向きに座っていて、膝が当たりそうなくらい近い。
通路側に座られてしまい、逃げるに逃げられなくなってしまった。
「前に見かけて、気になってたんだ。いつも、クレアといるから声をかけられなくて。……その眼鏡、かけてない方が可愛いんじゃない? 取ってみてよ」
と、顔を覗かれ、眼鏡に手をかけられる。
「やめて、下さい」
と、思わず手を振り払ってしまう。
「……なんだよ。そんな見た目で、全然可愛げが無いね? もうちょっと、愛想良くしてもいいんじゃないかな?」
……可愛げが無くて悪かったですね。
でも、こんなの笑いながら受け応えなんてできない。
「カーソンさん……? そいつは知り合いかな?」
最近、聞き慣れたものになった、クレアさんの声がして、ひどく安心する。
「……いえ、違います」
思っていたよりも、掠れた声が出てしまい、緊張で喉が乾いてしまっていたのが分かる。
「君、サウザンプトン家の、ニコラスだったかな? カーソンさんに何か用?」
「……いや、別に、何もないよ。以前、話したことがあったから、声をかけただけだ。……失礼するよ」
と、あっさりと立ち上がり、スタスタと行ってしまった。
「……カーソンさん、大丈夫?」
「あ、はい。ありがとうございます……」
「……ああいうの、良くあるの?」
「そう、ですね。あ、でも、実家にいてた時は、あの、うちはパン屋なんですけど、変な人がいたら、父が追い払ってくれたり、出かける時は、家族や友達と一緒の事が殆どだったので、あまり、絡まれる事はなかったんですけど……」
知らず知らずのうちに、周りに守ってもらっていたのだと、今更ながら気づく。
入学する時に準備した眼鏡も、高価な物なのに、文句一つ言わずに、父が買ってくれていた。
「……あのさ、実はこう見えて、僕、実家がまあまあ良い所の家で」
うん。育ちが良いのは、知ってるよ。
「僕の力ではないから、なんか格好悪いんだけど……、知り合い程度じゃ意味ないのかな。カーソンさんと僕が親しくしてるっていうのが、周りに分かれば、変に手を出してくる奴は減るかもしれない」
……虎の威を借るなんとやらね。ドラ○もんのスネ○的な。確かに、さっきの人も、クレアさんがいるから声をかけられなかったって言ってたな。
「でも、それ、周りに誤解されませんか?」
前世でも、男女の友情は成立しないって言いますし、この世界だと余計に、男女でいると、そういう意味を持っちゃうんじゃ……
「そういう誤解を周りに与えた方が、男を寄せつけないんじゃないかな? カーソンさんに決まった人がいるなら、やめておいた方が良いけれど」
「私はいないですが……、クレアさんは、ご迷惑じゃないんですか?」
「僕は婚約者もいないし、実家の領地は辺鄙な所にあるから、しがらみもあまりないし、……自分で言うのもなんだけど、適任かもしれない」
クレアさんは、いつも、ある一定の距離は絶対に守ってくれている。
眼鏡や髪型など、見た目を変えた所で、向こうから来られてしまったら、男の人には力では敵わない。
「正直、とてもありがたいです。自分の身を守るすべが余りなくて、どうしようかと思っていたので……」
「良かった。言い出したものの、断られたらどうしようかと思ってた」
「……ありがとうございます」
「いや、……ただ、カーソンさんと、図書館で過ごす時間が、居心地が良くて結構好きなんだ。だから、これは僕の為でもあるのかも」
そんな風に思ってくれてたんだ。
「……私も、あの、放課後に、クレアさんと図書館で過ごす時間が当たり前になっていて、今日、クレアさんがいらっしゃらなくて、なんだか寂しいと、思ってしまいました……」
「……そうだったんだ」
クレアさん、何故か顔が少し赤くなっている……?
「っ、じゃあ、周りにちゃんと誤解させる為にも、名前の呼び方を変える?」
「あ、名前」
「そう。クレアさん、カーソンさんじゃ、知り合い程度にしか思われないかな。……僕は、ミアさんと呼んで良い?」
「はい。……私は、じゃあ、ルカ、君?」
馴れ馴れし過ぎるかな……?
「……うん。良いと、思う」
「じゃあ、よろしくお願いします。ルカ、君」
まだ、呼び方が慣れないけど、ペコリと頭を下げて改めてお願いする。
「うん。こちらこそ、よろしくね。ミアさん」
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