流行りじゃない方の、ピンク髪のヒロインに転生しました。

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第二章

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「ミアさん……、さっきは申し訳なかった。嫌がる事をして……いつもと違って、ルカがいたから、なんだか意識してしまって……」

 セオドアさんに、申し訳なさそうな顔で言われる。

「いえ……、突然でしたから。こちらも申し訳なかったです。…………あの、ユリアさんから、もう来なくても良いと、お聞きしたのですが、本当に大丈夫なんでしょうか?」
「え、いや、聞いていない。ユリア? どういうこと? 何故、ミアさんがもう来ないって事になるのかな?」
「セオドア、ミアさんのおかげで、もう随分と元気になったでしょう? ミアさんだって、ルカといずれ婚約されるんだから、もう、ミアさんばかりに頼らず、自分の力で出来る事をした方が良いわ」
「っ、でも、僕は……ミアさんが良いんだ。他の、新たな婚約者なんて、考えられない。まだ、そんな事できる気がしないよ!」

 セオドアさんが、珍しく声を荒げる。

「……ミアさん、あと、もう少し、せめて、ルカと正式に婚約するまでは、お願いできないかしら? 今の状態で、婚約者を探してとなると、もし、うまくいかなかった場合、セオドアが、また……」

 と、私達の話を静かに聞いていた、セリーナ様が言う。

「……分かりました。正式に婚約をするのが、四月になると思いますので、それまでなら……」
「っ、ありがとう! それまでに、セオドアの婚約者を、必ず見つけておくわ!」
「……ミアさん、本当に、いいの?」
「……はい。あの、でも、今後は、ユリアさんに同席して頂いても良いでしょうか?」
「もちろんよ」

 ユリアさんが、力強く頷いてくれる。

 コーンウォリス家から辺境領までは、馬車で一日かかる距離なので、今日は泊まらせてもらう事になっていた。
 セリーナ様、ダグラス様、ユリアさん、ルカ君と私で、少し気まずい雰囲気で夕食を食べ終え、ルカ君が部屋まで送ってくれる。
 
「少し、話しても大丈夫?」
「……入っていいの?」
「さっき、セオドアさん達と話したことを、ルカ君にも伝えておきたくて」
「ああ、そうだね」


「ルカ君と私が、正式に……婚約する四月までは、今まで通り、ここに来ることになったの」
「え、なんでかな? セオドアに婚約者を探すという話じゃなかったのかな?」
「……すぐにお相手が見つかるか分からないし、猶予期間というか、……四月までには探されると、セリーナ様が仰って……、それに、ユリアさんが同席してくれる事になったから、大丈夫だよ」
「…………分かった。うん、ミアさんが決めた事なら。……でも、もし、何か少しでも困った事があったら、すぐに言って欲しい」
「うん。ありがとう、ルカ君」



 翌日、辺境領へと戻って来て、短い間しか過ごしていない場所なのに、なぜかホッとする。

 戻ってからは、お屋敷の敷地内にある、薬草園を訪れて、管理者の方に、色々とお話を聞かせてもらったり、ルカ君と一緒に屋台の食べ歩きをしたり、お屋敷にある書斎で、ルカ君と勉強をしたり……
 ルカ君の領地での日常を、一緒に過ごさせてもらいながら、普段は見られないルカ君の姿を、沢山見ることが出来た。

 学園へ帰るの日朝、いつもの様に朝食を頂いた後、帰る支度をする。
 
「ナタリーさん、今日まで、本当にお世話になりました。ナタリーさんのおかげで、何の心配せずに、心から楽しんで過ごす事ができました」
「……良かったです。ミア様、またお会い出来る事を、楽しみにしておりますね」
「……はい」

 ナタリーさんは、一週間、辺境領で過ごさせてもらい、その間ずっとつきっきりで、勝手の分からない私のお世話をしてくれていた。

 

 クレア家の方達に見送ってもらい、馬車の中から、ルカ君と見えなくなるまで手を振る。

 行きの馬車の中では、不安な気持ちの方が大きかった事を思い出す。
 十日間ルカ君と過ごして、お互いの、弱い所を見せ合った事で、少し肩の力が抜けた気がする。
 ルカ君との将来を、朧げでも描くことが出来たのも、大きかったと思う。自分が先に向かって、何をすれば良いのか見えた気がしたから。

「……ミアさんに渡したいものがあるんだ」
「何?」
「これを、身につけてくれたら嬉しい」

 小さなベルベットの布張りの箱を開ける。
 二つの金色のリングに、透明な石がついている。

「綺麗……これは……?」
「僕が、初めて魔物を倒した時の魔石なんだ。それを加工して指輪にしてもらった。本当は、婚約が正式に決まってから渡そうと思っていたんだけれど、まだ先になりそうだから……」

 ルカ君が、そっと手を取り指輪を嵌めてくれる。

「ぴったりだ。良かった」
「もう一つは、ルカ君の?」
「うん。この指輪にね、ミアさんの神力を込めると、もう一つのこの指輪に伝わって、どこにいるかが分かるんだ。元々は一つの魔石だったからね」
「どこにいるか分かるの……?」
「もし、何か困った事があった時に、僕を思い出して、呼んで欲しいんだ。僕が安心したい為の物だから、どう使おうと、ミアさんの自由なんだけど……」
「……分かった。大切な物をありがとう」

 隣り合った手を、自然に繋ぐ。
 
「……ミアさん、キスしても良い?」
「いつも、聞かなくても良いんだよ?」
「前に……、ミアさんが嫌がった事があったから」
「それでだったんだ……、あの時は、自分が勘違いするのが怖くて、」
「分かってるよ。でも、ミアさんに嫌われるのが怖くて聞いてしまうんだ」
「……私達、二人ともお互いに怖がってばかりだね」
「……好きになったのが、ミアさんが初めてだからかもしれない」
「私も、ルカ君が初めてだよ。ちゃんと、こんな風に好きになったのは」

 前世から合わせても、初めてだ。

「今回、辺境領で過ごして、沢山ルカ君のことを知る事ができたでしょう? 沢山話も出来て、喧嘩もして、仲直りもして、前よりも、怖く無くなった気がする」
「……そうかもしれない。僕の弱い所をミアさんに知ってもらって、それを受け入れてくれて、前よりも、穏やかな気持ちで、ミアさんと過ごせるようになった」
「好きっていう気持ちも、こうやって変わっていくのかな?……楽しみだね」
「……ミアさんとだったら、怖がらなくて良い気がしてきた」

 お互い顔を合わせて、笑い合う。
 自然と距離が近づいて、唇が触れ合う。
 
 ルカ君の体温に安心する。

 こんな気持ちで、人を好きになれる事を初めて知った。
 こうやって、誰かとずっと一緒にいられる様になるんだろうか?……その相手がルカ君だったら嬉しいのにな、と思う。



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