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12.半身であっても

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「いやぁ!シーラ!シーラ!ヤダー!嫌ぁ!!」

 ミリアーナの濃いアプリコットの瞳が見開かれる。2人で手を繋げば臆する事など無い。だが今は.........

 ふっと拘束が解ける。急いで扉に走り寄りノブを引く。動かない!何度もガチャガチャと押したり引いたりしてみるが微動だにしない。馬車の小窓から外を見る。シーラが黒い男に肩に担がれていた。

「シーラ!シーラ!ああ!ダヤン様助けて!レジン様ぁ!シーラが連れて行かれちゃう!嫌ぁぁ~!!」

 バンバンと窓を叩く。だが誰も近づいて来ない。いや、近づけない。馬車の周りには結界が張られている。柔らかな空気の層が普通の人間など侵入を許さないのだ。

 今までミリアーナはダヤンに護られていた。だから何の心配も無かった。危機感が薄れていた。シーラもそうだ。
 だが、いざ、彼が手を離せば自分達はなんと脆いのか。2人で手を繋げば勿論平気ではある。だが、別の人間として生まれ変わっているのだ。力は半分。治療するのみに力を使って来た。ミリアーナは泣き崩れる。悔しい。

 下を向いたミリアーナの肩からスルリと長い髪を束ねた三つ編みが顔に垂れる。髪に差し込んであった赤いハサルの花が目の端に映った。

「...! ..............わたくし生き物は操れないわ。でも.........植物なら.........」

 ミリアーナはハサルの花を髪から引き抜き両手で持つ。

『お願い、ハサルの花よ。この扉を開けて。シーラを助けたい!わたくしの半身を。父様母様わたくしにお力を!』


 その瞬間、ハサルの花はブワッと茎を伸ばし、ポコポコと蕾を付け始める。ぎゅるぎゅると伸びる茎が馬車の扉を覆って行った。扉の隙間に茎が入り込みギチギチと音を立てる。次第にパキッピキッと亀裂の入る音がして来る。ギギギギギギギギ.........ミシミシと圧縮されるような振動が響く。窓がバリンと割れる音がする。花に囲まれている為破片は飛び散らない。その内とうとうボリンッッと大きな音がして扉は真ん中から折れた。伸びた茎が扉を絡め取り馬車から引き剥がす。

「.................ありがとう」

 ミリアーナは急いで立ち上がり馬車から外を見る。すでにシーラは祭壇下まで連れ去られていた。

「シーラ!」

 ステップが無いので少し地面まで距離があるが、ミリアーナは構わず踵の高い靴を脱ぎ、飛び降りようとする。


 だが、その時.........グッと何かに腕を掴まれた。



 ****



「あ、あのっ!やだ、離して!やだっ!」

 シーラは黒いローブを着た男に肩で担がれている。太腿と膝下をガッシリ持たれているので上半身で暴れてみるが大した力は無い。ローブを引っ張ってみるが動かない。多分魔術で固定されているのだろう。赤いマスクから覗く瞳は薄いグレー。パタパタと背中を叩くが降ろしてはくれない。そして誰も助けてはくれない。近づけないのだ。ここにもまた結界が張られていた。

「あ、あの、私.....殺されるの?それとも何処かに連れて行かれるの?」

 ビクビクしながら聞いてみる。

「..................」

 男は返答しない。シーラの瞳にジワっと涙が滲む。

「ふぇ.........レジン様ぁ」

 シーラは思わずレジンの名を呟いた。

「プッ」
「.........え?」


 その時丁度土煙を上げて、数頭の馬がダカダカッと音を立てて走り込んで来るのが見えた。

 レジンを先頭にしたバドワージウ国の精鋭達の姿だった。
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