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第一章 あなたとの出会い
プレゼント
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それからしばらくは第二王子を肴にそれぞれの席にてお喋りに興じていたが、いつの間にかミリアーナのテーブル前まで挨拶に立つ子達が出てくる。
左隣の子爵令息が
「そろそろ行こうか。ちゃんと挨拶出来るかな…」
と、一緒に行こうと促して来た。
「誕生日のお祝いは何にしましたの?」
「うーん、うちは領地の特産なんて大したもの無いから、単純にクラバットの飾りにしたんだけど、君は?」
「わたくしは領地で咲くハサルの花で作ったブーケですわ。ハサルは浄化作用があるお花なんですの。一部屋に人差しあれば充分なんですけどね。まあ、お誕生日だし大き目にしておきましたわ」
きっと良い夢見られますわよ、と言いながら後ろに置かれた大きな包みを持ち上げる。そこには赤いハサルの花の周りを白い小花で包むかのように飾られた大きなブーケがあった。
「いやに大きいね。君の身体頭からお腹まで隠れてるよ」
「目立っちゃいますか?ハサルの花は元々一輪が大きいから」
「僕が持とうか?」
「うーん。いえ、私からのプレゼントだし、大した距離でも無いし。大丈夫ですわ」
そう言うとミリアーナは小さな足でチョコチョコとテーブルの間を縫って歩き出す。その姿はまるで尻尾をふりふりした子リスが大きな木ノ実を運ぶ様に見えた。
子爵令息は噴き出すのを堪えつつ少し後を歩き出す。
周りのテーブルにぶつからないよう注意しながらそれでもなんだか跳ねるように前を歩く小さめな彼女が最前列まで到達出来るように少し緊張しながら後を追った。
後、二十歩ほど歩けばテーブル群を抜けられる距離のところで、突然ミリアーナはドシンっと何かに思いっきりぶつかった。
「きゃっ⁉︎」
思ったより大きい何かに弾かれてミリアーナは後ろに倒れそうになる。
「人?」前には誰も居なかったのに?
両足が宙に浮いてそのまま行けば頭を打ち付けてしまうだろう、と倒れながら何となく思った。
それを見ていた子爵令息が慌てて手を伸ばす。しかし、その手はミリアーナを掴むことが出来なかった。なぜなら、ミリアーナの小さな体を花束のブーケと共にふんわり抱え込むように支える長身の少年が目の前に現れたから。
そう、突然出現したのだ。
ミリアーナは大きなブーケを抱いたまま斜め六十度の体勢で固まっていた。
「.......あら?」
ビックリし過ぎて固まってしまった体が言うことを効かない。ここでも子リスっぷりを発揮する。勿論、魔術でもなんでもなく斜め六十度のまま人に支えられていた。
「あ、あのあの、すいません。わたくし気付かずにぶつかってしまいました」
ミリアーナが空を見上げながらそう言うと、はっとしたように長身の少年はゆっくりとミリアーナの体を九十度まで起こしてくれた。抱き起こされたミリアーナは、ホッと小さく息を吐く。無事だったと安堵し、足にぎゅっと力を入れて地面に立つ。そしてふいっとブーケの隙間から目の前の少年を見上げた。そこにはミリアーナの肩に手を置きながら驚愕の顔をし、菫色の目を見開いた暗い銀髪の少年が立っていた。
「 ! 」
「え?」
「な、、なんだ?」
「え?何が?」
「嘘だろ?」
「何が嘘なんですの?」
「こんな馬鹿な....」
「何が嘘で馬鹿ですか!」
「いや、本当に?」
「違います」
全く噛み合わない言葉のキャッチボールの後、長身の少年はそっとミリアーナの頬に手を滑らす。するとビクッと指を強張らせ、自ら手を引っ込める。
「う…わっ凄い…深い?」
「だから何がですの?」
「甘い蜂蜜のようだ…」
長身の少年は触れた手をぎゅっと胸元で握りしめ、ふるりと震えた。
「ほっぺに蜂蜜なんか付けてませんわよ!朝食はハムとチーズのベーグルでしたもの。こちらでいただいたのもケーキと…ん?スコーンを食べる時に蜂蜜をつけたのだったかしら?」
あら?と考え込むミリアーナに後ろから子爵令息が小声で話しかける。
「ねえ、もうそろそろ行かないと」
「はっそうでしたわ。ブーケを渡さなければ!」
ミリアーナは大きな瞳を瞬きさせてブーケに目をやる。
「それじゃあわたくしこれで失礼しますわ。ぶつかってごめんなさい」
ぺこりと頭を下げて長身の少年の前からチョコチョコ歩いて遠ざかる。その様子を胸の前で手を握りながらボンヤリと菫色の瞳で眺める長身の少年。
その顔は、ニヤリと口元が引き上げられていた。
*
「はじめましてレジン王子殿下。わたくしカサナロ子爵が長女のミリアーナと申します。この度はお誕生日おめでとうございます。どうぞお受け取りくださいませ。カサナロで栽培されておりますハサルの花でブーケを作りましたの。空気の浄化作用がありますのよ。乾燥させてポプリに混ぜて使うとぐっすり安眠間違いなしですわ」
そう言うとミリアーナは侍女にブーケを渡す。
「ありがとう、ミリアーナ嬢。ハサルの花の事は聞いたことがあるよ。カサナロの地にしか咲かないんだっけ?何でか知ってる?」
レジンが尋ねるとミリアーナは頭を振り、
「それがわからないらしいんですの。土も気候も同じようにして植え替えてみたりしたそうなんですが、カサナロを離れると枯れてしまうのだそうですわ。種もカサナロ以外では芽を出さないそうです」
「そうなんだ。カサナロには何が特別な魔術が施されているのかな?」
「そう言うものは無かったと聞いていますわ。何しろ私たちカサナロ家の者は全員魔力も有りませんしね」
「ふーん。不思議だね?」
レジンは首を傾げる。
「不思議ですわ」
同じくミリアーナも首を傾げる。
その二人の仕草に周りの侍女や近衛騎士達がふっと柔らかく笑う。
「きっとハサルの花はカサナロが好きなんですのよ!離れたら悲しくて悲しくて枯れてしまうのですわ」
にこっと朗らかに笑うミリアーナに周りの大人たちが癒された。そして周りの子息達が息を飲んでほのかに顔を赤らめた。
「…こらこら…ヤバいな」
その声は何も無い空間で呟かれる。
*
その後王子の御前を辞し元のテーブルに舞い戻ったミリアーナは暖かい紅茶を給仕から受け取り、ほっと息を吐く。
初めてのパーティーは人が沢山いて楽しかった。王子様ともお話出来た。右隣の男爵令嬢と文通の約束をした。美味しいケーキも食べられた。また王都に来たら綺麗な王宮を眺めたいな。などとつらつら考えていると、左隣の令息が戻って来た。なんだか下を向いて考えながら席に座る。
「ん?どうしたんですの?プレゼント気に入ってもらえなかった?王子様はなんて仰ってました?」
そう問うと、うーん、とか、えーと、とかボンヤリした答えが返ってくる。
益々「?」とミリアーナが首を傾げる姿を令息は、はたっと見たかと思うと、ミリアーナに向かい合い姿勢を正す。
「…あのさ。ミリアーナ嬢。領地に帰ってもさ、また…その、僕、会いに行ってもい─」
良いか? つまり仲良くなりたいと伝えようとした時、ガタンと前の椅子が引かれ、そこに先ほどぶつかった少年が座りゆっくりミリアーナに顔を向ける。
「先程は失礼しました、ミリアーナ嬢。挨拶をし忘れていたので不躾かとは思いましたが貴方の姿を追って来てしまいました」
ニコニコと笑いかけて来るその姿に一瞬ポカンとしてしまうミリアーナと令息。
「私の名は…マクロサーバス公爵家次男ダヤンと申します。愛しい方」
そう言うと更にニッコリ微笑んだ。
「マ…マクロサーバス…公爵?」
暫し呆然としながらその様子を見ていた子爵令息が呟く。
「まあ、ご丁寧にどうも。わたくしもちゃんと挨拶しなくてはいけないですわね」
そう言うと、ミリアーナは立ち上がり椅子の横に移動してちょいっとドレスを摘んだ。
「わたくしカサナロ子爵家長女のミリアーナと申します。よろしくお願いいたしますわ。先程はぶつかってしまって申し訳ございませんでした。ところで、「いとしいかた」ってなんですの?王都での流行り言葉ですか?」
ミリアーナは少し上を向いて顎に人差し指を当てる。その様子を見ていたダヤンが椅子から立ち上がりミリアーナの前に滑るように移動したかと思うと、すっと跪いた。
「ひょ?」
ミリアーナから変な声が出た。
徐ろにミリアーナの左手を取りダヤンが口づけを落とす。
「ひょ!(二回目)」
「いえ、流行りなどではありませんよ。誰にでも言う訳ではありません。私は貴方にだけ言いました。勿論これより前も有りませんし、この後も貴方以外には言うつもりは有りません」
掴んだ左手をキュッと握りダメ出しの一言を更に告げる。
「私は貴女に恋をしたんです。愛しい方」
*
それからが大変だった。
その様子を父と兄はバッチリ見てしまい飛ぶ速さでミリアーナを「体調が優れない」とかなんとか言ってダヤンから引き離した。そうしてとっとと馬車に放り込まれ分け目も振らず王都を後にしたのだ。
更にその様子を遠く離れた席から驚愕の面持ちで見てしまった者が呟く。
「ダヤン…あいつ何やってるんだ」
そう、本日の主役。第二王子のレジンであった。
その後の会場がとんでもない騒ぎになってしまい、誕生日パーティーは早々にお開きになるとはミリアーナは梅雨知らず。その日の夜、第二王子の私室で文句をぶつけながら不貞腐れる王子と、黙ってソファに座る長身の公子の姿があった。
「ダヤン~~ 何してくれてんだよ!と、言うかいつの間にミリアーナ嬢に接触してたんだよ?いや、それより人の誕生日パーティーでプロポーズとか有りえんわ!このむっつりすけべ野郎!俺の存在搔き消しやがって!」
主役の第二王子はプリプリ怒りながら向かいのソファにドカリと座る。
「で、ワザワザ存在感薄くして面倒なパーティーをやり過ごそうとしてた公爵家次男はなんであんな目立つ事した訳?」
「うん?いや、なんだろうな」
「は?」
「うーん。恋?かな」
「嘘つけ!お前そんな奴じゃないだろ!」
「うーん。いや、多分、んー。離しちゃいけない気がして」
「なんだよ?魔術師の感か?」
「まだ魔術師じゃない」
「十歳でそんだけ色んな術使える奴いねーわ!」
「まあ、リスみたいに可愛いと思ったのも間違い無いし。それに魔力が凄くて…」
「…魔力?」
左隣の子爵令息が
「そろそろ行こうか。ちゃんと挨拶出来るかな…」
と、一緒に行こうと促して来た。
「誕生日のお祝いは何にしましたの?」
「うーん、うちは領地の特産なんて大したもの無いから、単純にクラバットの飾りにしたんだけど、君は?」
「わたくしは領地で咲くハサルの花で作ったブーケですわ。ハサルは浄化作用があるお花なんですの。一部屋に人差しあれば充分なんですけどね。まあ、お誕生日だし大き目にしておきましたわ」
きっと良い夢見られますわよ、と言いながら後ろに置かれた大きな包みを持ち上げる。そこには赤いハサルの花の周りを白い小花で包むかのように飾られた大きなブーケがあった。
「いやに大きいね。君の身体頭からお腹まで隠れてるよ」
「目立っちゃいますか?ハサルの花は元々一輪が大きいから」
「僕が持とうか?」
「うーん。いえ、私からのプレゼントだし、大した距離でも無いし。大丈夫ですわ」
そう言うとミリアーナは小さな足でチョコチョコとテーブルの間を縫って歩き出す。その姿はまるで尻尾をふりふりした子リスが大きな木ノ実を運ぶ様に見えた。
子爵令息は噴き出すのを堪えつつ少し後を歩き出す。
周りのテーブルにぶつからないよう注意しながらそれでもなんだか跳ねるように前を歩く小さめな彼女が最前列まで到達出来るように少し緊張しながら後を追った。
後、二十歩ほど歩けばテーブル群を抜けられる距離のところで、突然ミリアーナはドシンっと何かに思いっきりぶつかった。
「きゃっ⁉︎」
思ったより大きい何かに弾かれてミリアーナは後ろに倒れそうになる。
「人?」前には誰も居なかったのに?
両足が宙に浮いてそのまま行けば頭を打ち付けてしまうだろう、と倒れながら何となく思った。
それを見ていた子爵令息が慌てて手を伸ばす。しかし、その手はミリアーナを掴むことが出来なかった。なぜなら、ミリアーナの小さな体を花束のブーケと共にふんわり抱え込むように支える長身の少年が目の前に現れたから。
そう、突然出現したのだ。
ミリアーナは大きなブーケを抱いたまま斜め六十度の体勢で固まっていた。
「.......あら?」
ビックリし過ぎて固まってしまった体が言うことを効かない。ここでも子リスっぷりを発揮する。勿論、魔術でもなんでもなく斜め六十度のまま人に支えられていた。
「あ、あのあの、すいません。わたくし気付かずにぶつかってしまいました」
ミリアーナが空を見上げながらそう言うと、はっとしたように長身の少年はゆっくりとミリアーナの体を九十度まで起こしてくれた。抱き起こされたミリアーナは、ホッと小さく息を吐く。無事だったと安堵し、足にぎゅっと力を入れて地面に立つ。そしてふいっとブーケの隙間から目の前の少年を見上げた。そこにはミリアーナの肩に手を置きながら驚愕の顔をし、菫色の目を見開いた暗い銀髪の少年が立っていた。
「 ! 」
「え?」
「な、、なんだ?」
「え?何が?」
「嘘だろ?」
「何が嘘なんですの?」
「こんな馬鹿な....」
「何が嘘で馬鹿ですか!」
「いや、本当に?」
「違います」
全く噛み合わない言葉のキャッチボールの後、長身の少年はそっとミリアーナの頬に手を滑らす。するとビクッと指を強張らせ、自ら手を引っ込める。
「う…わっ凄い…深い?」
「だから何がですの?」
「甘い蜂蜜のようだ…」
長身の少年は触れた手をぎゅっと胸元で握りしめ、ふるりと震えた。
「ほっぺに蜂蜜なんか付けてませんわよ!朝食はハムとチーズのベーグルでしたもの。こちらでいただいたのもケーキと…ん?スコーンを食べる時に蜂蜜をつけたのだったかしら?」
あら?と考え込むミリアーナに後ろから子爵令息が小声で話しかける。
「ねえ、もうそろそろ行かないと」
「はっそうでしたわ。ブーケを渡さなければ!」
ミリアーナは大きな瞳を瞬きさせてブーケに目をやる。
「それじゃあわたくしこれで失礼しますわ。ぶつかってごめんなさい」
ぺこりと頭を下げて長身の少年の前からチョコチョコ歩いて遠ざかる。その様子を胸の前で手を握りながらボンヤリと菫色の瞳で眺める長身の少年。
その顔は、ニヤリと口元が引き上げられていた。
*
「はじめましてレジン王子殿下。わたくしカサナロ子爵が長女のミリアーナと申します。この度はお誕生日おめでとうございます。どうぞお受け取りくださいませ。カサナロで栽培されておりますハサルの花でブーケを作りましたの。空気の浄化作用がありますのよ。乾燥させてポプリに混ぜて使うとぐっすり安眠間違いなしですわ」
そう言うとミリアーナは侍女にブーケを渡す。
「ありがとう、ミリアーナ嬢。ハサルの花の事は聞いたことがあるよ。カサナロの地にしか咲かないんだっけ?何でか知ってる?」
レジンが尋ねるとミリアーナは頭を振り、
「それがわからないらしいんですの。土も気候も同じようにして植え替えてみたりしたそうなんですが、カサナロを離れると枯れてしまうのだそうですわ。種もカサナロ以外では芽を出さないそうです」
「そうなんだ。カサナロには何が特別な魔術が施されているのかな?」
「そう言うものは無かったと聞いていますわ。何しろ私たちカサナロ家の者は全員魔力も有りませんしね」
「ふーん。不思議だね?」
レジンは首を傾げる。
「不思議ですわ」
同じくミリアーナも首を傾げる。
その二人の仕草に周りの侍女や近衛騎士達がふっと柔らかく笑う。
「きっとハサルの花はカサナロが好きなんですのよ!離れたら悲しくて悲しくて枯れてしまうのですわ」
にこっと朗らかに笑うミリアーナに周りの大人たちが癒された。そして周りの子息達が息を飲んでほのかに顔を赤らめた。
「…こらこら…ヤバいな」
その声は何も無い空間で呟かれる。
*
その後王子の御前を辞し元のテーブルに舞い戻ったミリアーナは暖かい紅茶を給仕から受け取り、ほっと息を吐く。
初めてのパーティーは人が沢山いて楽しかった。王子様ともお話出来た。右隣の男爵令嬢と文通の約束をした。美味しいケーキも食べられた。また王都に来たら綺麗な王宮を眺めたいな。などとつらつら考えていると、左隣の令息が戻って来た。なんだか下を向いて考えながら席に座る。
「ん?どうしたんですの?プレゼント気に入ってもらえなかった?王子様はなんて仰ってました?」
そう問うと、うーん、とか、えーと、とかボンヤリした答えが返ってくる。
益々「?」とミリアーナが首を傾げる姿を令息は、はたっと見たかと思うと、ミリアーナに向かい合い姿勢を正す。
「…あのさ。ミリアーナ嬢。領地に帰ってもさ、また…その、僕、会いに行ってもい─」
良いか? つまり仲良くなりたいと伝えようとした時、ガタンと前の椅子が引かれ、そこに先ほどぶつかった少年が座りゆっくりミリアーナに顔を向ける。
「先程は失礼しました、ミリアーナ嬢。挨拶をし忘れていたので不躾かとは思いましたが貴方の姿を追って来てしまいました」
ニコニコと笑いかけて来るその姿に一瞬ポカンとしてしまうミリアーナと令息。
「私の名は…マクロサーバス公爵家次男ダヤンと申します。愛しい方」
そう言うと更にニッコリ微笑んだ。
「マ…マクロサーバス…公爵?」
暫し呆然としながらその様子を見ていた子爵令息が呟く。
「まあ、ご丁寧にどうも。わたくしもちゃんと挨拶しなくてはいけないですわね」
そう言うと、ミリアーナは立ち上がり椅子の横に移動してちょいっとドレスを摘んだ。
「わたくしカサナロ子爵家長女のミリアーナと申します。よろしくお願いいたしますわ。先程はぶつかってしまって申し訳ございませんでした。ところで、「いとしいかた」ってなんですの?王都での流行り言葉ですか?」
ミリアーナは少し上を向いて顎に人差し指を当てる。その様子を見ていたダヤンが椅子から立ち上がりミリアーナの前に滑るように移動したかと思うと、すっと跪いた。
「ひょ?」
ミリアーナから変な声が出た。
徐ろにミリアーナの左手を取りダヤンが口づけを落とす。
「ひょ!(二回目)」
「いえ、流行りなどではありませんよ。誰にでも言う訳ではありません。私は貴方にだけ言いました。勿論これより前も有りませんし、この後も貴方以外には言うつもりは有りません」
掴んだ左手をキュッと握りダメ出しの一言を更に告げる。
「私は貴女に恋をしたんです。愛しい方」
*
それからが大変だった。
その様子を父と兄はバッチリ見てしまい飛ぶ速さでミリアーナを「体調が優れない」とかなんとか言ってダヤンから引き離した。そうしてとっとと馬車に放り込まれ分け目も振らず王都を後にしたのだ。
更にその様子を遠く離れた席から驚愕の面持ちで見てしまった者が呟く。
「ダヤン…あいつ何やってるんだ」
そう、本日の主役。第二王子のレジンであった。
その後の会場がとんでもない騒ぎになってしまい、誕生日パーティーは早々にお開きになるとはミリアーナは梅雨知らず。その日の夜、第二王子の私室で文句をぶつけながら不貞腐れる王子と、黙ってソファに座る長身の公子の姿があった。
「ダヤン~~ 何してくれてんだよ!と、言うかいつの間にミリアーナ嬢に接触してたんだよ?いや、それより人の誕生日パーティーでプロポーズとか有りえんわ!このむっつりすけべ野郎!俺の存在搔き消しやがって!」
主役の第二王子はプリプリ怒りながら向かいのソファにドカリと座る。
「で、ワザワザ存在感薄くして面倒なパーティーをやり過ごそうとしてた公爵家次男はなんであんな目立つ事した訳?」
「うん?いや、なんだろうな」
「は?」
「うーん。恋?かな」
「嘘つけ!お前そんな奴じゃないだろ!」
「うーん。いや、多分、んー。離しちゃいけない気がして」
「なんだよ?魔術師の感か?」
「まだ魔術師じゃない」
「十歳でそんだけ色んな術使える奴いねーわ!」
「まあ、リスみたいに可愛いと思ったのも間違い無いし。それに魔力が凄くて…」
「…魔力?」
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