最強魔術師とリス令嬢〜君の全てを手に入れるまで〜

平川

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第三章    あなたの決意

突破口と年頃男子

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 ダヤンは鍛錬の日に用意してある花、本日は黄色い蕾のガーベラの花を手枷の付いた左手に一本持ち、ミリアーナに右手を差し出す。
 つまり繋いだ右手から腕を通り、左手に持っている花を咲かそうとしているのだ。成功率は三割でほぼ発情してしまう。成功して花が咲いていても記憶が無い。

 ミリアーナはダヤンの右手を取りゆっくりと魔力を流し始めた。

   『ダヤン様がわたくしの魔力を上手く使えるようになれば良いな』

 ダヤンの体内にうねる様なねっとりとした魔力が侵入してくる。甘くとろける蜂蜜の様な暖かく気持ちが良い魔力。 

(ミアの魔力に抗う方法、いや、違う。多分抵抗すればするほど飲み込まれる。基本的に全く違う性質なんだ。かと言って混ざると理性が無くなる。じゃあ、なんで?なんで性欲が増すんだ?性欲は…性行為は…子孫を残す?ん?なんか解りかけたのに…あ!遮断の術はどうだ?首から上を魔力が行かない様にしてしまうのは?体の中を遮断。脳に魔力が行かなければ思考は残る?なら膜を張る感じで…)

 ダヤンは咄嗟に遮断の術式を書き換え首と頭を物理では無く防御の術と組み合わせ切り離した。
 ミリアーナの魔力はダヤンの術さえ剥がしてしまうが、ミリアーナが望まなければしないはず。

「ミア、俺の首の下からだけ魔力を送るイメージをしてみてくれ。首と頭の間に膜があってそこから上には魔力が行けない、そう言う感じ。頭は思考が出来るように」
「首の下…頭は駄目。頭は..駄目」

 ミリアーナは呟きながら魔力を流し続ける。

 次第に繋いだ右手がまるで溶け合うように混じり合ってゾクゾクとした感覚が走る。

「はっ…うぁ…凄い快感が。…だけど頭はハッキリしてる?いけるか?」

 そのまま耐えながらダヤンは左手に持つ花に目をやり「増幅」と呟いた。

(ミリアーナの魔力を魔術に変換出来なければ意味がない。俺が術式だけ発現させミアの魔力で効果を拡大させる。1つの蕾をどれだけ増やせるか?)

 左腕までミリアーナの魔力が伝わり指先に到達した瞬間、手に持った花の茎がググッと膨らみバラっと割れた。その先には、無数の花の蕾が付いて花束を持っているかのように見えた。いや、それだけでは無い。ばらけた茎からポコポコとまた茎が生え無限にどんどん増えていく。

「こ、これは成功か?」
「うわー…気持ち悪い」

 ミリアーナが渋い顔をしながらダヤンに目を向けた。

「はは、確かに。もうガーベラじゃないな」

 沢山のガーベラの蕾が重さを増して既に床まで垂れ下がっている。それを見つめながら胸にじわじわと沸き起こる歓喜。

「ふっふっははははははっ!」

 腹の底から湧き出す笑い声。

「ふふふ。ダヤン様やりましたね」

 そう言ってミリアーナはふんわりと微笑んだ。

「ああ漸く来たな、突破口まで!」

 未だ未だ未熟だ。でも、光が見えた瞬間だった。

 ****

「とうとう来たか!いや、早い方か」
「俺がもう少し早く気づいていれば」
「いや、タイミングもあるだろ。必要な期間だったんだ。考え過ぎるな」
「そうだ、な」

 ここは王都にある魔術学院のランチルーム。
 十三の歳で入学し、十五歳の現在三学年のダヤンとレジンは、白い長テーブルの端に向かい合わせで椅子に座り昼食を取っていた。

 魔術学院には三つのコースがある。
 一つは魔術師を育成するコース。主に術式を習い行使出来るように指導する。二つ目は魔術道具を考案、検証、作成をするコース。三つ目は魔術を使って武器を強化し行使する魔剣士を育成するコースだ。二つ目と三つ目は魔術が少なくても学べる。つまり魔力量が高いだけでもダヤンはエリートになる。
 魔術師は羨望の的だ。魔力が多ければそれだけ使える術式も多くなり強くなる。特に攻撃の術は魔力が大量に必要になる。実力差がハッキリしてしまうのだ。
 ダヤンは既に防御を始めとする補助系の術式は自主的に取得している。一度通して試験を行い合格しており、今は攻撃の術式を主に選択して鍛錬している。
 なので、おそらく六年在学はせず、短期にて卒業出来るだろう。所謂飛び級である。
 第二王子のレジンは魔剣士のコースだ。レジンは火属性の内包が強いらしく剣や槍などに炎を纏わせ焼き切ったり燃やしたり出来る。能力も高い。だがダヤンほどには魔力量は無い。その代わり剣術はトップクラスで常に上位にいる。こちらも飛び級出来そうな感じである。
 勿論通常の学問も昼まで授業がある。数学、歴史、語学の他に専攻のコースの座学がギッチリとカリキュラムに入っていた。学問や座学に関しては二人は常にダブル一位であった。似た者同士である。
 学院内ではレジンは王族然とした態度はあまりしない。常に同級生やコースの先輩後輩、講師人にフレンドリーだ。高位貴族らには舐められるかも知れないが、レジンは高圧的な態度は取らなかった。そんなもので人の感情は操作出来ず、最後は簡単に裏切る事は想像がつく。

【身分は後から付くもので前に有ってはならない】

 これが彼の持論だ。やはり中身は中年だった。

「よおぅー!主席のお二人さん。いつも仲良いなー!」
「おうリオ。お前も飯か?珍しいじゃねーか?学食なんて。いつも女の子と外に食いに行くのに」

 なので同級生ともタメ口だった。

「まあねー。今日はさ、カプの奴がおめでたい事になったみたいだから、お祝いにね。奢られようと思って」
 
 カプとはカイプリオスと言う名前の男子の事だった。

「奢ってやる、の間違いじゃ無いのかよ!」
「おめでたい事?なんかあったのか?」
「そうそう。とうとう卒業したんだよな、カプ?」

 『ブハッ』

 ダヤンが飲んでいた水を吹き出す。デジャヴ再び。

「も、もう~言いふらすなよ。彼女も学院の学生なんだから、後で怒られるだろ!」

 カプは顔を赤くし、キョロキョロ周りを見渡した。

「全く、遅すぎるだろ。一年も付き合って漸くとか笑ける。クククッまあ、でもこれで男の仲間入りだな~カプ!」

(え?童貞は男じゃ無いのか?)

 濡れた口元はそのままにショックを隠しきれないダヤン。

「どうしたんだ?ダヤン~顔固まってんぞ?」

 レジンがニヤニヤしながら顔を覗き込んで来る。

「あれー?まさか…まさかな?…まだ、とか?」
「イヤイヤイヤ!学院の女子の憧れダヤン様がそんな訳ないだろ、な?」

 そう、ダヤンは顔がかなり整っている。美しいとも言える容姿に長身で、短髪の清潔感と品の良さそうな男らしさ。剣の訓練の為に身体も引き締まっており、筋肉も付いてきて細マッチョだ。しかも魔術師のコースではトップで最強。

 それはもう、モテにモテていた。

「あれ?確かダヤンって婚約者いたよね?婚約式やってたの覚えてるよ?」

 カプはアギル出身だった。

「ああ、居るよ。可愛い可愛い妖精ちゃんがな。クククッ」

 ニヤニヤと顔を歪めながらレジンは更にダヤンを煽る。

「お、お前っ!」

 ダヤンは顔を赤くしてレジンを睨んだ。

「えぇ~っ!なんだよ、ダヤンまじで童貞?嘘だろ?なんで?婚約者ならやっても良いだろ?相手いくつだよ?」
「同じ歳さ。ダヤンは十歳で婚約してる。カサナロに居るんだ。今は花嫁修行で女学校に通ってるんだよな?」
「なんだ?もう婚姻できるじゃん。会って無いのか?まあ、確かにカサナロは遠いよなー。でも、別にその子じゃなくても良いだろ?周りにわんさか可愛い女の子いるんだし。高位貴族ならやりたい放題だぞ?妾候補は居ないのか?てか抱いてくれって女の子いっぱい居そうだけど…」
「来てるよ。いつでもどこでも容赦なく。この間下着姿の女に男子更衣室で呼び出されて待ち伏せされてたな。集団もあったし。睡眠薬とか媚薬入りの菓子の差し入れとか。何するつもりだろうな?どうだダヤン。諦めてそろそろ味見したら?」
「馬鹿言うな誰がするか!俺はミアしかいらな…い」

『「ふぅ───ん?」』

 何故か口元が上がり切った男子三人に見下ろされる羽目になっているダヤン。

「そのミアって子可愛いんだ?どんな感じ?」
「おい、ミアって呼ぶな。ミリアーナだ。ミアは俺だけの愛称だ」
「プフ…ああ、ダヤンが大事に大事にしてるそれこそ心血注いで囲いに囲った薄いミルクティー色の髪で、オレンジ色の瞳のふわっふわの妖精ちゃんさ。カサナロの子爵息女で、俺の誕生日パーティーでダヤンが一目惚れした」
「…間違ってないが、悪意を感じるぞ?」
「長期休みの日とか行かないのか?会いに」
「行くさ勿論」
「じゃあ、なんでやんねーの?」
「…まだ早いと思って」
「早くねーよ!十歳からだろ?五年経ってたら遅いだろ。いやまあ十歳じゃまだ立たないだろうけど、でももういけるだろ。それともそんなに色気ないのか?ミリアーナちゃん?」
「は!? ミアは可愛いし色気もある!肌もきめ細かくて白くて柔らかいし、いい匂いもするし、胸だって体の割には育ってるし、指なんて小さくて可愛いくて骨が無いみたいにふわふわしてて手を繋いだら気持ち良いしいつでも食べたいくらいだ!首から鎖骨の辺りなんかずっと舐めていられる!!」

 立ち上がり拳を握りながら大声で力説する美麗な高位貴族子息のダヤン十五歳。

「プックククックッ」

 笑いを堪えきれずプルプル震えるレジン。

「ダ、ダヤン…お、お前鎖骨って…プフ…ふ」

 この後盛大な自爆っぷりに腹を抱えて笑われた。

 *

 ダヤンは頭から湯気を出し机に突っ伏して動かない。どうやら正気に戻った様だ。

(あ──!くそっ)

 周りの三人は涙を流して大笑いしている。

(ちっ覚えてろレジンめ!魔剣から花が出るように細工してやる!)

「はあ、はあはあはあ…笑い疲れた。ダヤン面白ろ過ぎ。もう、無理」

 カプは蹲って笑った。

「なんだよ、ダヤン、鎖骨舐めといてなんで最後までしないんだよ?プフッ」

 リオが泣きながら笑う。

「あ!そうだ、レジン!お前ミアになんか言ったろ?襲われた時の対処法とかなんとか!」
「はあ、はあ、腹痛て…ああ、そう言えばそんな事言ったかな?まだやってたんだ。大分前だぞ?」
「く、くそ!そう言うレジンは…や、やった事…あるのか?」
「あ?気になる?」

 ニヤニヤが止まらない第二王子。

「えぇ…本当に俺だけなのか?」

 色々ショックを隠せないダヤン。

「ククク。残念ながら俺は王族でな?閨教育は十二歳から始まってる」
「ねや…きょういく…十二って…」
「まあ、普通だよ。精通したら即だ。後は色んな女が練習相手に呼ばれる。俺上手いよ?」
「そこまで聞いてねーよ下世話野郎」

 そう一言呟くとまたダヤンは突っ伏した。

(好きな子居るのに他の子に身体だけ求めるのは俺出来るか?いや、無理だな。でも経験しといた方が良いのか?ミアと本番の時下手くそって思われないか?…それは死ねるな)

「うーん、分からん」
「何が?」
「上手い方が良いよな?でも下手って何だ?」
「そりゃ…前戯で気持ち良くさせてやる前に入れちまうとか、相手の子をイカさないで自分だけ終わっちまうとか。要は自分勝手と中途半端はダメって事だよ。最初から最後まで時にはワイルドに時にはスウィートに!気を抜かずにフィニッシュ!パチパチパチっだ」
「前戯?ワイルド?なんか大変そうだな」
「まあ、やってりゃ慣れで考えなくても身体が動く様になるさ。娼館にでも行けば手取り足取り教えて貰えるぞ?一緒に行く?」
「…慣れ…るべき?」

 何だがもう上手くないと男としていけない気がして考え込むダヤン。これも鍛錬の内かと心が揺れ始める。

(ミア以外と?嫌だけどやはり練習は必要……なのか?)

「「いやいや待て待て落ち着けダヤン。レジンに遊ばれてるぞっ」」
「ぶははははっ!チョロ!」


 年頃男子達の昼休みはこうして過ぎて行った。


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