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第三章 あなたの決意
たった一人を護る為に
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アリア王女の治療を施した日から六日後。ダヤンはレジンから一度アリア王女の様子を見に来いと王宮に連れて行かれる。
例の子供部屋まで行くとそこにはまだ弱々しいがしっかり足で歩く三歳の女の子が植木鉢の花をくしゃり、とかブチリとかあまり優しくない扱いをしながら侍女と遊んでいた。
(この子は聖女にはなれんな…)
フッと笑ったダヤンにレジンが子供用の赤い小さな椅子を渡してくる。
(ちっさ。え?これに座れと?…まあいいか)
レジンも同じ形の椅子に背もたれを前にして座った。ダヤンも同じように座る。いや、かなり無理がある。仕方が無いので両足を投げ出してみたら何とか座れた。
(レジンより俺の方が頭一個分高い。足も長いんだぞ?無理させるなよ)
「おい、俺は足長いからな!胴が短いだけだ!」
(なに心読んでんだよ…)
「どうだ?元気になったろう?魔力過多症を克服した、と言うことにしてある。今は以前よりも元気になったくらいだ。あの日から成長が著しい。…ダヤン本当にありがとう。家族を失くさなくて済んだ」
「いや…こちらこそ。色々気づいたよ」
「そうか。話せるか?」
「ふぅ…ああ大丈夫だ」
「じゃあ俺の部屋へ飛んでくれ」
「椅子ごとか?」
「ぶっ!」
「似合ってるよ。オレンジ色で沢山のハートが付いたその椅子」
「まあ、ほら。俺可愛い方だし」
「お前の顔を可愛いと呼ぶのは王妃くらいだろうが。そうだ。婚約式の後からいやに俺にニヤニヤしながら優しくしてくれるようになったけどなんだったんだろうな?」
「ああ。ラブラブ~とか初々しい愛を感じるとか謎な呪文言いながら手紙書いてたやつかな?」
「なんだ、変なお友達でも出来たか?」
「ラシェルがなんちゃらって言ってたかな?」
(ラシェル…?あれ?たしか…)
「取り敢えず行こうぜ。部屋」
「あ、ああ」
ダヤンは考えごとをしながら転移の術でレジンの部屋へ飛んだ。
(あ、椅子ごと転移しちまった)
侍従に見られたマイナス八十点。
「緊張感皆無だな」
「逆に良いかもな。深刻にならなくて」
「じゃあこのまま話そうか?」
「いいぜ?」
ダヤン達はオレンジのハートと赤いハートの付いたそれぞれの椅子に座り向かい合わせになりながら顔だけは真剣だった。
チキチキ十五歳年頃男子による耐久真剣一本勝負だ。先に笑った方が負けである。勿論意味は無い。突如始まった謎の意地の張り合いが続くかと思われたその時、
「失礼致します。あのー、アリア様付きの侍女が来ておりまして…椅子が無くなったのでアリア様がテーブルでお絵描き出来ないと言って来ておりますが…?」
と侍従が伝えに来た。
二人はバッと立ち上がり、急いで椅子を返しに走った。
「「すみませんでした!!」」
****
「ミアは『聖女』だ。おそらくな。彼女に力の源は地面から来ていた。つまり《大地の力》だろう」
「っ!」
「昔読んだ古い文献にな、書いてあったんだ。魔術なんかない時代に居たんだそうだ。花を咲かせ、汚地を清め、癒しが出来たそうだ。ミアの魔力は俺たちのものとは全く違う別物だった。俺たちみたいにわざわざ魔術を使わなくても考えたら魔力が答える。自分の手足のように扱えるんだよ」
「聖女を求めて人々が戦い、死んで行くのを悲しんだ聖女は自害するんだ。死んだ後に血が地面に染み込んでそこから枯れない花が咲き乱れた。そして…そこは【とても綺麗な場所になった】で終わってた」
紅茶を啜り一間空けダヤンはテーブルに目線を落としながら根拠になる話をし終える。
「当てはめてみてくれレジン。ピースは揃ってる」
「……ああ」
ダヤンはレジンの向かい合せのソファに座り手を組んで座っていた。レジンの前に置かれた紅茶の入ったカップを眺めてボンヤリとしている。
レジンは腕を組んで目を閉じ黙っていたが、すっと目を開けダヤンを見る。
「ハサルの花…だったな。確か俺たちが生まれた辺りから目撃され始めた、そう言ってたな。清浄、浄化の作用が有り、近年ほぼ全国的に加工品が出回っている」
「そうだな」
「土があればカサナロならどこでも咲いて長く留まり、カサナロを離れると徐々に枯れ、芽も付かず育たず」
「ああ…」
「……カサナロで生まれたミリアーナ嬢は…生まれ代りなのか?」
「それは判らない」
「じゃあ、理由は?再び『聖女』が現れた理由は無いのか?何か思い当たらないか、ダヤン?」
「判らない。偶然だった事くらいしか。ミアは魔力ってなんだ?って聞いてくるような普通の女の子だった。力を使って花を育てた事も無いし、土地を浄化して回ってたわけでも無い。全ての切っ掛けは俺と出会ってしまった事から始まってしまった。鍛錬で魔力を操作出来るように導いたのは…俺だ」
「なら今世でのお前との出会いは偶然じゃ無く必然だ」
「!」
「お前が居なけりゃ彼女は『聖女』にはなり得なかった。お前も何かしら役割があるって事だ。それが何かはまだ分からないが。お前は何だ?魔術師だろ?」
「…レジン。ああそうだ。俺は…」
「ふっ」
レジンは柔らかく笑った。
「凄いな。ああ…ワクワクするじゃ無いか、なあダヤン。向かい打とうぜ。俺がお前の側にいるのも理由があるかもな。俺を使えば良い。その代わり俺もお前を利用する。俺は、全てが終わったその先が見たい。まだ絵は完成してはいない」
レジンはゆっくりとダヤンの目を強く見つめてこう言った。
「お前は『聖女』を、いや、ミリアーナと言う女の子を守る為だけに何者にも負けない盾になるんだ」
例の子供部屋まで行くとそこにはまだ弱々しいがしっかり足で歩く三歳の女の子が植木鉢の花をくしゃり、とかブチリとかあまり優しくない扱いをしながら侍女と遊んでいた。
(この子は聖女にはなれんな…)
フッと笑ったダヤンにレジンが子供用の赤い小さな椅子を渡してくる。
(ちっさ。え?これに座れと?…まあいいか)
レジンも同じ形の椅子に背もたれを前にして座った。ダヤンも同じように座る。いや、かなり無理がある。仕方が無いので両足を投げ出してみたら何とか座れた。
(レジンより俺の方が頭一個分高い。足も長いんだぞ?無理させるなよ)
「おい、俺は足長いからな!胴が短いだけだ!」
(なに心読んでんだよ…)
「どうだ?元気になったろう?魔力過多症を克服した、と言うことにしてある。今は以前よりも元気になったくらいだ。あの日から成長が著しい。…ダヤン本当にありがとう。家族を失くさなくて済んだ」
「いや…こちらこそ。色々気づいたよ」
「そうか。話せるか?」
「ふぅ…ああ大丈夫だ」
「じゃあ俺の部屋へ飛んでくれ」
「椅子ごとか?」
「ぶっ!」
「似合ってるよ。オレンジ色で沢山のハートが付いたその椅子」
「まあ、ほら。俺可愛い方だし」
「お前の顔を可愛いと呼ぶのは王妃くらいだろうが。そうだ。婚約式の後からいやに俺にニヤニヤしながら優しくしてくれるようになったけどなんだったんだろうな?」
「ああ。ラブラブ~とか初々しい愛を感じるとか謎な呪文言いながら手紙書いてたやつかな?」
「なんだ、変なお友達でも出来たか?」
「ラシェルがなんちゃらって言ってたかな?」
(ラシェル…?あれ?たしか…)
「取り敢えず行こうぜ。部屋」
「あ、ああ」
ダヤンは考えごとをしながら転移の術でレジンの部屋へ飛んだ。
(あ、椅子ごと転移しちまった)
侍従に見られたマイナス八十点。
「緊張感皆無だな」
「逆に良いかもな。深刻にならなくて」
「じゃあこのまま話そうか?」
「いいぜ?」
ダヤン達はオレンジのハートと赤いハートの付いたそれぞれの椅子に座り向かい合わせになりながら顔だけは真剣だった。
チキチキ十五歳年頃男子による耐久真剣一本勝負だ。先に笑った方が負けである。勿論意味は無い。突如始まった謎の意地の張り合いが続くかと思われたその時、
「失礼致します。あのー、アリア様付きの侍女が来ておりまして…椅子が無くなったのでアリア様がテーブルでお絵描き出来ないと言って来ておりますが…?」
と侍従が伝えに来た。
二人はバッと立ち上がり、急いで椅子を返しに走った。
「「すみませんでした!!」」
****
「ミアは『聖女』だ。おそらくな。彼女に力の源は地面から来ていた。つまり《大地の力》だろう」
「っ!」
「昔読んだ古い文献にな、書いてあったんだ。魔術なんかない時代に居たんだそうだ。花を咲かせ、汚地を清め、癒しが出来たそうだ。ミアの魔力は俺たちのものとは全く違う別物だった。俺たちみたいにわざわざ魔術を使わなくても考えたら魔力が答える。自分の手足のように扱えるんだよ」
「聖女を求めて人々が戦い、死んで行くのを悲しんだ聖女は自害するんだ。死んだ後に血が地面に染み込んでそこから枯れない花が咲き乱れた。そして…そこは【とても綺麗な場所になった】で終わってた」
紅茶を啜り一間空けダヤンはテーブルに目線を落としながら根拠になる話をし終える。
「当てはめてみてくれレジン。ピースは揃ってる」
「……ああ」
ダヤンはレジンの向かい合せのソファに座り手を組んで座っていた。レジンの前に置かれた紅茶の入ったカップを眺めてボンヤリとしている。
レジンは腕を組んで目を閉じ黙っていたが、すっと目を開けダヤンを見る。
「ハサルの花…だったな。確か俺たちが生まれた辺りから目撃され始めた、そう言ってたな。清浄、浄化の作用が有り、近年ほぼ全国的に加工品が出回っている」
「そうだな」
「土があればカサナロならどこでも咲いて長く留まり、カサナロを離れると徐々に枯れ、芽も付かず育たず」
「ああ…」
「……カサナロで生まれたミリアーナ嬢は…生まれ代りなのか?」
「それは判らない」
「じゃあ、理由は?再び『聖女』が現れた理由は無いのか?何か思い当たらないか、ダヤン?」
「判らない。偶然だった事くらいしか。ミアは魔力ってなんだ?って聞いてくるような普通の女の子だった。力を使って花を育てた事も無いし、土地を浄化して回ってたわけでも無い。全ての切っ掛けは俺と出会ってしまった事から始まってしまった。鍛錬で魔力を操作出来るように導いたのは…俺だ」
「なら今世でのお前との出会いは偶然じゃ無く必然だ」
「!」
「お前が居なけりゃ彼女は『聖女』にはなり得なかった。お前も何かしら役割があるって事だ。それが何かはまだ分からないが。お前は何だ?魔術師だろ?」
「…レジン。ああそうだ。俺は…」
「ふっ」
レジンは柔らかく笑った。
「凄いな。ああ…ワクワクするじゃ無いか、なあダヤン。向かい打とうぜ。俺がお前の側にいるのも理由があるかもな。俺を使えば良い。その代わり俺もお前を利用する。俺は、全てが終わったその先が見たい。まだ絵は完成してはいない」
レジンはゆっくりとダヤンの目を強く見つめてこう言った。
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