最強魔術師とリス令嬢〜君の全てを手に入れるまで〜

平川

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第六章    あなたとわたしの罪

90.解っている

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「私も....二度と手放しはしない。今度こそ」


 ダヤンとシャントルが向かい合う。

 1人の運命の女性を賭けて男の闘いが幕を開ける。



 ダヤンは右手を差し出し風を巻き起こす。神聖魔法など伝え聞くだけの、書物にも記載されない未知の力。しかも相手は数百年も生き続けた魔術師だ。妖精の力を取り入れ続け、相乗効果も加味すれば到底叶う相手では無い。
 だが、ダヤンには一つ見当を付けている事があった。

 風が圧縮し、シャントルの周りを鋼鉄の檻に変えていく。シャントルは笑いながら両手で風を押さえつける。風は物凄いスピードを保ったまま、シャントルに近づけなくなった。

「何だ?拘束でもするつもりかね?」

 そう言う彼の体から光が湧き上がり風の檻を真っ二つに切り消滅させる。

「.................」
「じゃあ、次は私の番だな。シーラ様を待たせているんだ。邪魔な君にはとっとと消えてもらうよ?《最強の魔術師》君」

 シャントルは両手を広げる。彼の背後にポツポツと小さな光の玉が湧き出す。それは無数に膨れ上がり、ギリギリと震えながらその場に止まっていた。

「では終わりにしようか。大丈夫。一瞬痛いだけだから」

 そう言い終わらない内に光の玉はダヤン目掛けて一斉に飛び込んで行った。玉と玉がぶつかり合う音と比例して光が大きく円になって行く。ダヤンの姿は光に飲み込まれ見えなくなった。

「肉片すら残らない様にしておくよ。君は元から居なかった。そうすればシーラ様も忘れていくだろう?」

 シャントルはハリシュダの島を見下げる。

「さて、今度はカイザルだな。色々考えたよ。どうすれば1番残酷で悔しい思いをするのか。シーラ様を死に追いやった裏切り者へ。最初にカイザルの記憶が有ると聞いた時は直ぐにでも殺してやろうと思ったが。それじゃあつまらないしな。ああ。あの金の瞳には虫酸が走る。早く抉り出したい。いや、まだだ。もう少し....これは天罰さ。ふふ。楽しみだ」

 あの後、過去のカイザルはその領地から追放された。領民はカイザルの命は取らなかった。例え彼のした事が聖女の命を奪ってしまう原因であったとしても。
 ここの領地の人間は優し過ぎた。土地柄なのか、聖女の所為なのかは判らない。皆悲しみながらも背を向けるだけだった。

 (だが、私は違う。苦しめたい。シーラ様に選ばれ婚姻までして、幸せの絶頂から突落したお前を。あの方の代わりに私が許さない。死より重い罰を与えよう。そして、私は..........うっ......?)

 シャントルがグラリと体を揺らす。一瞬頭がボンヤリした。

「またか.......あれだけ眠ったのに。睡魔が...」

 年々眠る期間が長くなり、起きている時間が減って行く。今はまだ目覚めてから1週間と経っていない。
 どんなに妖精を取り込んでも変わらなかった。自身に魔術を掛け起きている事もしてみたがこれも大した効果は無く、ただ瞼が閉じて行く。本当はシーラの身体が15歳を迎えたら迎えに行くつもりであった。が、起きれなかったのだ。少し予定は狂ったが許容範囲だった。だが、次に眠りにつけば.........

 ダヤンを攻撃していた光が終息していく。

「ん?..........」


 ゆらりと空気が揺れる。
 深緑のローブが波打つ。
 両手をだらんと下ろし顔を下に向け目を閉じている。
 だが

 傷一つ付いてはいないダヤンの姿がそこに現れた。


「.................やっぱりな。お前の神聖魔法もどきは妖精の魔力を糧にした術か。なら」


「俺の勝ちは決まった。」


 ダヤンは前髪をゆっくりかき揚げシャントルに視線を移す。菫色の瞳が青い瞳を射抜く。


「さあ、ミアが待ってる。最速でお前を潰す。覚悟は良いか。《初めの魔術師》殿?」


 ****

「えっと二階の左奥だよな?階段.....あれかな?」

 レジンとミリアーナは小走りで王の間へ急ぐ。取り敢えず二階へ。先程のような妖精に会えばおそらく直ぐにディスターに伝わるだろう。何だか分からないけど奴に会う前より先に王に会う方が良いような気がした。

「難病.......と言っていたけど妖精でも治せないもんなのかな?関わりが無さ過ぎてわからん事だらけだ」

 階段を見つけ後ろを警戒しながら駆け上がる。

 階段を上がり切った所でオレンジ色の光がフヨフヨと浮いているのが見えた。ミリアーナを階段上部に待機させる。

 するとレジンはぐっと息を止め限界まで肺に溜め込み顔を真っ赤にして走り出した。

「ハアハアハアッあ!君!今窓の外に『聖女』が居たよ!王太子に知らせてくれ!あの庭のほら奥!あ、今は見えなくなっちゃった。ほら、早く早く!急いで!」
「あらまー!本当ですかー!分かりましたー!お知らせしてきますー!」

 そう言うなりオレンジの光はパッと消え去った。

「ちょろい」ボソっと呟く。

(大丈夫かな、この城の警備体制.....。妖精の役割は見張りと伝令役のようだな。まあ、今は助かるけど)

 そんな感じで5回ほど妖精とやり取りをした後王の間前の角までやって来る。
 そこには妖精では無く人間の姿をした大柄の男達が立っていた。

(さて、疑いも無く開けてくれるかな?ダメなら強行突破だけど.....)

 チラリとミリアーナを見る。

(やってみるか。悩んでる暇ないし。俺が護れば良いだけだ)

 逃げ出す選択肢はレジンには無い。ここでの逃げは次に繋がらない事を知っている。

「ミリアーナ。今からあいつらの前まで歩いて行く。出来るだけ堂々としてくれ。良いか?」
「はい。レジン様」
 ガッツポーズをするミリアーナ。

(可愛いな、もう!)
 顔がニヤける。

 姿形は変わっているが、動きがミリアーナだ。こんな特殊な事態で無ければ触れる事すら簡単に出来はしない。こんなに長い間2人で話をした事も無い。レジンに取って今この瞬間はご褒美のようなそんな気さえしていた。ダヤンが来るまで。それまでは......

 レジンにとってダヤンは........裏切りたくない無二の親友だから。バドワージウ国にとっても大事な戦力だ。気持ちを天秤に掛けた時から分かっていた。そうでなければこんなに苦しまなかった。1番好きになってはいけない相手。それがミリアーナだ。

(俺、恋愛相談受けてたのにな......)

 レジンはクスリと笑った。全てがダメだと分かってる。だが、レジンに初めて女性を大事にしたいと思わせたのはミリアーナだった。王族である為政略的婚姻は免れない。未だ婚約者さえ居ないのは欲しい勢力に操りやすいのがいないから。すでに王太子には正妃が居るし、第3王子も婚約者が既に居る。2人共運良く恋愛しての結果だから割とすんなり決まった。だからこそレジンは自身の妻は国に利益をもたらす相手だと決めている。王妃のようにロマンスを追いかける腹は微塵も無かった。

 なのに。

 理想の相手がミリアーナだった。『聖女』であり、素直で可愛いくてふわふわで。驕る事なく真っ直ぐな気性なのに出しゃばらず。お人好しな......優しい女の子。
 気づいた時にはもう遅かった。


 遅過ぎた。

 もう...............
 解っている。






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